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第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?
37 謎の多い鳥
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白い霧の中、どこかを目指して飛んでいる。確かに移動している感覚はあるのに、風も温度も感じない。
(……私はどこを飛んでるんだろう。これって夢の中だよね?)
夢なのに『私は今、夢を見ている』という自覚があるのは初めてだ。だとしたら本当は夢じゃないのか。私は幽体離脱でもしたんだろうか?
しばらくすると霧から抜けて、地平線が見えてきた。霧だと思っていたのは雲だったらしい。眼下には円形の湖があり、その中心に島がぽっかりと浮かんでいる。島には高い山が聳え、頂上は雲に突き刺さってどこまでも伸びていた。
(あそこに行かなくちゃ。あの子が私を待ってる……)
山に近づくたびに、早く早くと気持ちが焦る。でもどうして焦っているのか自分でも分からない。あの子って誰だっけ。なんであそこに行かなきゃならないんだっけ?
「……ペ?」
何かを掴もうと手を伸ばしたとき、ようやく目が覚めた。ふわふわの羽毛に覆われたフリッパーが視界に映る。そうだった、今の私はペンギンだった。めでたく聖獣認定を受けたペンギンもどきだ。
「ペッ、ペグゥ……! ペハァッ……」
かなり長いこと寝ていたのか、体がひどく重くて動きにくい。体力が落ちているみたいだ。何とか起き上がって周りを見ると、私は赤ちゃん用の揺りかごに寝かされていた。
天井に小鳥のオーナメントがあるから、ここはセル様の部屋のなかだろう。
「ペペ? 目が覚めたのかしら?」
ドアが開いてクララさんがやって来た。私が起きたのを見ると「少し待ってね」と言い、慌てて部屋を出て行く。しばらくしてハル様とセル様がバタバタと急いで入ってきた。
「ペペ、大丈夫か!?」
「三日も寝てたんだよ! お腹すいたでしょ!?」
(そんなに寝てたんだ。道理で体力が落ちてると思ったわ……)
二人は代わる代わる私の額に手を当てたり、頬っぺたを触ったりして、熱は無さそうだとか何とか言っている。そうこうしている内にクララさんが「お食事ですよ」と入ってきて、食事をテーブルに載せて静かに出て行った。お粥とリンゴ。いかにも病人用の食事だ。
私を撫でていたハル様がソファからクッションを二つ手に取り、私の両脇に置いた。右側にセル様、そして左側にハル様が座る。
「僕が食べさせてあげるね。あーん」
「ペエ」
餌を待つ雛鳥のようにくちばしをぱかっと開けていると、セル様がそっとお粥を流し込んでくれた。ほんのり塩味のする卵粥だ。空っぽの胃袋に染み渡るうまさだ。はぁ、生き返るぅ。
あっという間に粥を平らげ、リンゴもぺろりと食べてしまったけどまだ物足りない。まだどころか、まだまだ足りない。
その証拠に私のお腹からぐぅぅと音が鳴り、右から感嘆するような声が、そして左からは呆れたようなため息が聞こえてきた。いやほら、私って成長著しい雛ですから。
「……予想はしてたけどな。ちょっと待ってろよ」
ハル様が意味深な言葉を呟き、部屋から出て行った。すぐに戻ってきたけど、手には大きなお皿を持っている。真っ白なクリームに、赤い苺の飾り。あれはもしや……!
「ペエーッ! ペハァァアッ!」
(ショートケーキだぁ! うっわぁ、食べたい食べたい!)
「ちょっ、ちょっと落ち着け。今やるから……!」
「やっぱりペペはこうでなくちゃね。よく食べてるの見たら安心しちゃった」
ハル様はテーブルの上でケーキを切り、お皿に載せて私の手元に運んでくれた。しかしどうにもサイズがおかしい。
ハル様が持ってきたのは直系十五センチほどのホールケーキだったはずなのに、私のお皿にはその半分が載っている。デカすぎやしませんか? ハル様の方をチラッと見やると彼は涼しい顔をしている。
「気にせず食え。おまえの事だ、すぐにお代わりするだろ。だったら最初からたくさん載せておいたほうがいい」
「ペ、ペヘヘ……」
「僕も食べよっと。ゴンザロの作ったケーキ、美味しいよね」
セル様もお皿を受け取り、ケーキを少しずつ食べ始めた。以前は少食だったと聞いたけど、それが信じられないぐらいの食べっぷりだ。
ハル様も弟の様子を微笑ましく見ている。
「セルディスの体調が回復したのは、やっぱりペペの力だったんだな。よく食べ、よく運動するようになった。もう普通の男の子と同じだ」
「僕の体は調子いいけどさ、どうしてペペは大きくならないんだろ。こんなに食べてるのに……。誘拐された時は巨大化してたのにね」
「食べて蓄えておいた力を、巨大化した時に使い果たしたのかもな。本当は成鳥になっていてもおかしくないのに、いまだに雛のままだし……とにかく謎が多い鳥だ」
(……私はどこを飛んでるんだろう。これって夢の中だよね?)
夢なのに『私は今、夢を見ている』という自覚があるのは初めてだ。だとしたら本当は夢じゃないのか。私は幽体離脱でもしたんだろうか?
しばらくすると霧から抜けて、地平線が見えてきた。霧だと思っていたのは雲だったらしい。眼下には円形の湖があり、その中心に島がぽっかりと浮かんでいる。島には高い山が聳え、頂上は雲に突き刺さってどこまでも伸びていた。
(あそこに行かなくちゃ。あの子が私を待ってる……)
山に近づくたびに、早く早くと気持ちが焦る。でもどうして焦っているのか自分でも分からない。あの子って誰だっけ。なんであそこに行かなきゃならないんだっけ?
「……ペ?」
何かを掴もうと手を伸ばしたとき、ようやく目が覚めた。ふわふわの羽毛に覆われたフリッパーが視界に映る。そうだった、今の私はペンギンだった。めでたく聖獣認定を受けたペンギンもどきだ。
「ペッ、ペグゥ……! ペハァッ……」
かなり長いこと寝ていたのか、体がひどく重くて動きにくい。体力が落ちているみたいだ。何とか起き上がって周りを見ると、私は赤ちゃん用の揺りかごに寝かされていた。
天井に小鳥のオーナメントがあるから、ここはセル様の部屋のなかだろう。
「ペペ? 目が覚めたのかしら?」
ドアが開いてクララさんがやって来た。私が起きたのを見ると「少し待ってね」と言い、慌てて部屋を出て行く。しばらくしてハル様とセル様がバタバタと急いで入ってきた。
「ペペ、大丈夫か!?」
「三日も寝てたんだよ! お腹すいたでしょ!?」
(そんなに寝てたんだ。道理で体力が落ちてると思ったわ……)
二人は代わる代わる私の額に手を当てたり、頬っぺたを触ったりして、熱は無さそうだとか何とか言っている。そうこうしている内にクララさんが「お食事ですよ」と入ってきて、食事をテーブルに載せて静かに出て行った。お粥とリンゴ。いかにも病人用の食事だ。
私を撫でていたハル様がソファからクッションを二つ手に取り、私の両脇に置いた。右側にセル様、そして左側にハル様が座る。
「僕が食べさせてあげるね。あーん」
「ペエ」
餌を待つ雛鳥のようにくちばしをぱかっと開けていると、セル様がそっとお粥を流し込んでくれた。ほんのり塩味のする卵粥だ。空っぽの胃袋に染み渡るうまさだ。はぁ、生き返るぅ。
あっという間に粥を平らげ、リンゴもぺろりと食べてしまったけどまだ物足りない。まだどころか、まだまだ足りない。
その証拠に私のお腹からぐぅぅと音が鳴り、右から感嘆するような声が、そして左からは呆れたようなため息が聞こえてきた。いやほら、私って成長著しい雛ですから。
「……予想はしてたけどな。ちょっと待ってろよ」
ハル様が意味深な言葉を呟き、部屋から出て行った。すぐに戻ってきたけど、手には大きなお皿を持っている。真っ白なクリームに、赤い苺の飾り。あれはもしや……!
「ペエーッ! ペハァァアッ!」
(ショートケーキだぁ! うっわぁ、食べたい食べたい!)
「ちょっ、ちょっと落ち着け。今やるから……!」
「やっぱりペペはこうでなくちゃね。よく食べてるの見たら安心しちゃった」
ハル様はテーブルの上でケーキを切り、お皿に載せて私の手元に運んでくれた。しかしどうにもサイズがおかしい。
ハル様が持ってきたのは直系十五センチほどのホールケーキだったはずなのに、私のお皿にはその半分が載っている。デカすぎやしませんか? ハル様の方をチラッと見やると彼は涼しい顔をしている。
「気にせず食え。おまえの事だ、すぐにお代わりするだろ。だったら最初からたくさん載せておいたほうがいい」
「ペ、ペヘヘ……」
「僕も食べよっと。ゴンザロの作ったケーキ、美味しいよね」
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「僕の体は調子いいけどさ、どうしてペペは大きくならないんだろ。こんなに食べてるのに……。誘拐された時は巨大化してたのにね」
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