【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま

文字の大きさ
上 下
34 / 115
第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?

34 恐怖の鬼(オーガ)ごっこ

しおりを挟む
「この広い庭を使って、今から鬼ごっこをしよう」

「ああ、やっぱりだ」

「だからその、知ってましたぁ~な口調をやめろと言っとるだろうが! キーファ!」

「ハイハイ。子供にはちょっと怖いかもしれないなぁ。キーファ・レーヴェンが命じる。召喚――オーガ」

 キーファが唱えると、地面に円が重なった模様が現れた。プロクスが出てくるときと同じだ。地面から芽が伸びるように、召喚された生き物の頭部がにょきにょきと現れる。が、出てきたのはプロクスとは似ても似つかない不気味な生き物だった。

『げぇ!? きっ気持ち悪ぅ!』

『魔物だ! 頭に角が生えてんぞォ!?』

 私と親ビンが大騒ぎしても、セル様は黙ったままじっと地面を見ている。かすかに体を震わせながら、睨みつけるような鋭い眼差しで魔物を見ている。

 黒っぽい緑色の硬そうな皮膚に、額に生えた二本の角。身長は三メートルほどで、たった一つの大きな目がギョロギョロと盛んに動いている。鬼だ。本物の鬼だ。

「こいつはちょっと珍しいオーガでね。目が一個しかないから、周りがよく見えないみたいなんだ。だから子供相手の追いかけっこにはピッタリだと思って、エリック殿下に提案してみた。鬼ごっこしたらどうかなって……楽しそうだろ?」

 キーファが恍惚とした表情で語った。確かに気持ち悪い魔物だけど、コレクターみたいなモノ扱いする言い方はどうなんだろう。
 プロクスを大切にしているハル様とは全然違うクズだ。私たちをいたぶるために魔物を召喚するクズがいるとは思わなかった。

「どうだぁ? 怖いだろう。降参するなら今のうちだぞ。セルディスよ、諦めて私の提案に乗りなさい」

「いやですっ! 命にかけて守ると言ったでしょう!」

「ふぅ、残念だなぁ……。やはりおまえは三年前に死ぬべきだったな。オーガになぶり殺しにされるぐらいなら、あの時に殺してやれば良かった」

 え? 今、なんて?
 私の頭の上で、セル様がヒュッと息をのむ音がした。

「や、やっぱり……エリック殿下が、あの事故を起こしたんですか!?」

「その“やっぱり”は当たりだぞ。ふはは……。でもあの馬車にハルディアも乗ってたら最高だったな。まとめて始末できたらスカッとしたものを」

「このクズ! クズ王子! 絶対に許さないぞ、告発してやる!」

「それも生きて帰れたら、の話だろう? 安心しろ、その鳥も犬もまとめてあの世に送ってやる。どこかの森に迷いこんだ子供が、魔物にたまたま遭遇して死んでしまった――そういう筋書きだ。よくある話だ」

「ペペは聖獣の雛だぞ! ペペが死んじゃったら、南大陸は瘴気だらけになる! たくさんの人が死ぬんだぞ!」

 セル様は正論を叫んだが、エリック殿下は何ともなさそうな顔で言った。

「そのうち魔法院の奴らが瘴気を浄化する方法を見つけるだろう。なにも聖獣に頼る必要はない。魔法さえあれば、どんな事でも可能だ! 王都を完全に大地と切り離して、魔物に襲われる心配のない空中要塞にしてみせよう! ふははぁ!」

「く、狂ってる……。こんな奴が王子だなんておかしいよ!」

「そろそろいいですかぁ? エリック殿下は話が長いんだよな。オーガが待ちくたびれてるんだけど」

 キーファがのんびりした口調で言うと、エリック殿下は短い足を動かして屋敷の中に入って行った。しばらくして二階のバルコニーに現れ、室内から持ち出した椅子にどっかりと座る。安全な場所から高みの見物をするつもりらしい。本っ当にゲス王子だ。

「よぉし、いい眺めだ。キーファ、始めろ」

「ハイハイ。オーガ、子供と動物を追いかけろ。好きなだけ遊んでいいぞ」

「グフォォォオオオッ!!」

 それまで大人しくしていたオーガが、涎を垂らしながら嬉しそうに叫んだ。空気がビリビリと震え、セル様がたまりかねたように耳を塞ぐ。

「ウォン! ウォォンッ!」

 親ビンがオーガの足元に近寄り、わざとらしく大声で吠えた。オーガを自分に引きつけて、セル様を守ろうとしているらしい。親ビンの狙いどおりオーガが犬の声に反応し、ズシン、ズシンと地面をかすかに揺らしながら歩き始めた。

「ガイ、駄目だよ! 無理しないで!」
『ペペ! セルディス様の口を塞げェ! こいつは音に反応する!』
『わ、分かった!』
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

処理中です...