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第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?
33 悪い予感
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「そう怖がるな。私はおまえと取り引きをしたいんだ」
「……なんの取り引きですか?」
「おまえが腕に抱えている鳥を、私に寄こすだけでいい。そしてハルディアの奴に報告してほしいんだ。あの鳥はとても貴重なものだから、王家に譲りましたと。それを約束してくれたら、無事に解放して――」
「いやです」
セル様はかぶせ気味にきっぱりと言い放った。目を閉じてうっとりしながら喋っていたエリック殿下はきょとんとし、やがて耳に手を当てる。内緒話をしているときのように。
「ん、何だって? よく聞こえなかった」
「いやだ、と言いました。ペペは南大陸を救ってくれる大事な鳥です。欲に溺れた人間の手には渡せません!」
「こっ、こんのクソガキがぁ……! 誰が欲に溺れた人間だと!?」
「エリック殿下です!」
「ペエ!」
「ウォン!」
「うるっさぁい、黙れ黙れぇ! 子供と動物にバカにされるいわれはないわ! キーファ、おまえも何を笑っている!?」
それまで黙っていたワカメが、エリック殿下の後ろでクククと肩を震わせて笑っている。ちょっとぞっとする笑い方だ。正直に言って気持ち悪い。こいつが転移魔法陣を仕掛けたんだろうか。
「いやぁ、セルディス様はしっかりしたお方だ。俺なんかよりずぅっと聡くて人間らしい心を持ってらっしゃる。だからこそ、エリック殿下の誘いに乗ってほしかったんだけどなぁ。俺、こう見えて、子供をいじめるの嫌いなんだよね……」
ワカメ人間キーファはエリック殿下を押しのけてセル様に近寄り、ぐいと腰を曲げてセル様の顔をまじまじと見つめた。
至近距離から見ると本当に不気味な顔だ。笑っているのに、まるでロボットが無理やり笑っているみたいな表情だ。こいつは人として壊れているのかもしれない。セル様の腕がカタカタと震えている。
「もう一度訊きますよ。エリック殿下の申し出を受ける気はありませんか?」
「……っ、ないっ! 僕は命を賭けてもペペを守る!」
「命がけかぁ……。それ、いいかもね。エリック殿下、予定通りの計画で行きましょう」
「お、おぉ……。おまえが仕切るのは気にくわんが、まぁいい。セルディスよ、外へ出してやろう。楽しい時間の始まりだぞ」
外へ出すと言われたんだから、喜ぶところなんだろう。でも私もセル様も親ビンも、これから何かよくない事が起こると分かっていた。
開いたドアから廊下に出ると、何処もかしこも埃だらけだった。廊下にはエリック殿下とキーファの足跡がくっきり付いているし、天井の隅には蜘蛛の巣が張っている。ここは打ち捨てられた誰かの家かもしれない。ハル様は私たちを見つけられるだろうか。もし国の外まで出ていたとしたら、発見は絶望的だ。
「……大丈夫だよ。きっと兄上は見つけてくれる。転移魔法はかなり魔力を消費するから、あまり遠い場所には飛べないはずなんだ。ここはロイウェルの中で間違いない」
「ペエ……」
「ごちゃごちゃ言っとらんで、早く歩け! こんな埃だらけの場所では私の服が汚れるじゃないか。さっさと行け!」
後ろからエリック殿下の文句が聞こえて、親ビンが「グルルゥ」と喉を鳴らした。本当は思いっきり吠えたいんだろうけど、また猿ぐつわをされたら嫌だから我慢してるらしい。
私も大声を出せる動物だったら、ハル様に伝わるぐらいの声量で叫びまくるのに。
「やれやれ、やっと外に出たか。ここはとにかく庭が広くていい。その分屋敷は狭いが、子供好きな主が思いっきり遊べるようにと庭を広くしたらしいぞ。防犯のために高い塀まで作ってな」
玄関の向こうは庭だった。エリック殿下が言った通りの広い庭だ。かなり遠くに門と高い塀があり、屋敷から門までの距離は百メートル以上はありそうである。防犯のための高い塀も、私にとってはむしろ刑務所みたいだとしか思えない。
「……何となく、ここでする事が分かったよ」
セル様はぼそっと呟き、ポケットからリボンを取り出して私と自分の体を固定し始めた。私も同じ気分だ。多分、セル様はかなり走ることになるだろう。親ビンの首につけていたリードを外したところで、エリック殿下が話し出す。
「……なんの取り引きですか?」
「おまえが腕に抱えている鳥を、私に寄こすだけでいい。そしてハルディアの奴に報告してほしいんだ。あの鳥はとても貴重なものだから、王家に譲りましたと。それを約束してくれたら、無事に解放して――」
「いやです」
セル様はかぶせ気味にきっぱりと言い放った。目を閉じてうっとりしながら喋っていたエリック殿下はきょとんとし、やがて耳に手を当てる。内緒話をしているときのように。
「ん、何だって? よく聞こえなかった」
「いやだ、と言いました。ペペは南大陸を救ってくれる大事な鳥です。欲に溺れた人間の手には渡せません!」
「こっ、こんのクソガキがぁ……! 誰が欲に溺れた人間だと!?」
「エリック殿下です!」
「ペエ!」
「ウォン!」
「うるっさぁい、黙れ黙れぇ! 子供と動物にバカにされるいわれはないわ! キーファ、おまえも何を笑っている!?」
それまで黙っていたワカメが、エリック殿下の後ろでクククと肩を震わせて笑っている。ちょっとぞっとする笑い方だ。正直に言って気持ち悪い。こいつが転移魔法陣を仕掛けたんだろうか。
「いやぁ、セルディス様はしっかりしたお方だ。俺なんかよりずぅっと聡くて人間らしい心を持ってらっしゃる。だからこそ、エリック殿下の誘いに乗ってほしかったんだけどなぁ。俺、こう見えて、子供をいじめるの嫌いなんだよね……」
ワカメ人間キーファはエリック殿下を押しのけてセル様に近寄り、ぐいと腰を曲げてセル様の顔をまじまじと見つめた。
至近距離から見ると本当に不気味な顔だ。笑っているのに、まるでロボットが無理やり笑っているみたいな表情だ。こいつは人として壊れているのかもしれない。セル様の腕がカタカタと震えている。
「もう一度訊きますよ。エリック殿下の申し出を受ける気はありませんか?」
「……っ、ないっ! 僕は命を賭けてもペペを守る!」
「命がけかぁ……。それ、いいかもね。エリック殿下、予定通りの計画で行きましょう」
「お、おぉ……。おまえが仕切るのは気にくわんが、まぁいい。セルディスよ、外へ出してやろう。楽しい時間の始まりだぞ」
外へ出すと言われたんだから、喜ぶところなんだろう。でも私もセル様も親ビンも、これから何かよくない事が起こると分かっていた。
開いたドアから廊下に出ると、何処もかしこも埃だらけだった。廊下にはエリック殿下とキーファの足跡がくっきり付いているし、天井の隅には蜘蛛の巣が張っている。ここは打ち捨てられた誰かの家かもしれない。ハル様は私たちを見つけられるだろうか。もし国の外まで出ていたとしたら、発見は絶望的だ。
「……大丈夫だよ。きっと兄上は見つけてくれる。転移魔法はかなり魔力を消費するから、あまり遠い場所には飛べないはずなんだ。ここはロイウェルの中で間違いない」
「ペエ……」
「ごちゃごちゃ言っとらんで、早く歩け! こんな埃だらけの場所では私の服が汚れるじゃないか。さっさと行け!」
後ろからエリック殿下の文句が聞こえて、親ビンが「グルルゥ」と喉を鳴らした。本当は思いっきり吠えたいんだろうけど、また猿ぐつわをされたら嫌だから我慢してるらしい。
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「やれやれ、やっと外に出たか。ここはとにかく庭が広くていい。その分屋敷は狭いが、子供好きな主が思いっきり遊べるようにと庭を広くしたらしいぞ。防犯のために高い塀まで作ってな」
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