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第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?
32 親ビン、唸る
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ぐるるる、ぐるるるぅ。
変な音が聞こえる。なんかこう……野生の狼が唸ってるような、物騒な音だ。――野生?
『ヤバイッ! 山のど真ん中に落ちちゃったの!? セル様は……ぎゃっ!?』
ガバッと跳ね起きた瞬間、視界に犬のデカい顔が飛び込んできた。黒っぽい犬が、口に猿ぐつわを噛ませられて唸っている。
『あ、なんだ親ビンか……。殺気が半端ないっすね』
『ふんが……冗談、言ってる、場合じゃねェぞ! くっそォ、喋りにくい!』
『なんで猿ぐつわ噛ませられてんですか?』
『ハルディア様に、居場所を伝えようとしてだなァ……』
『もういいです。だいたい分かったから』
ハル様に位置を伝えるために吠えていたら、敵の誰かに口を縛られてしまったというところだろう。私も床から起き上がり、確認のために周囲を見渡す。
足元は冷たい石畳だし、壁もレンガで出来てる殺風景な部屋だ。天井に近い部分に鉄格子が嵌められた窓がある。部屋というより牢屋みたいな感じ。
私のすぐ横でセル様も床に寝かされていたけど、ちゃんと呼吸している様子でほっとした。盗聴器つきの上着もきたままだ。
『良かった。どこにも怪我はしてないみたい』
『転移後に、睡眠魔法を掛けられた……みてェだなァ。オレ達、みんなここに、寝かされてたぜ。ったくよォ! セルディス様は、やんごとないお方だってのに、こんな冷てェ石の上に寝かせやがって!』
『セル様を起こした方がいいよね。セル様、セル様』
フリッパーでセル様の体をそっと揺らすと、彼は「うぅん」と唸ってから薄目を開けた。私と視線が合うとふにゃっと笑い、腕のなかに抱きしめてくれる。
「よかったぁ……ペペもガイも無事だったんだね。僕ひとりだったら泣いちゃってたかも。ここ、何処なんだろうね」
セル様は起き上がって親ビンの猿ぐつわを外し、ドアを開けようと試みた。でもやっぱり鍵がかかっているようで、何度かガチャガチャとノブを動かしたけどびくともしない。
しばらくドアを調べたセル様は窓に移動し、私の体を持ち上げた。
「どう? 窓の外に誰かいる?」
「ペエ……ペェエ」
窓の外はどこかの森で、人の気配はなさそうだった。ただ鳥の声がときどき聞こえるだけだ。私が首を振るとセル様は「そう」と呟いた。
「犯人はペペだけを転移させたかったんだろうね。きっと僕とガイは邪魔なはずだよ。どうにかして消そうとするんじゃないかな」
『けっ、消したりするかなぁ? セル様は立派な家の坊ちゃんなんだから、簡単に消したりしないと思うけど』
『オレもそう思うぜェ。ラルトゥアーク家に手出しできる奴なんて、そうそういる訳ねェ』
親ビンの言う通りだ。名門の家だからこそ、並の貴族ならケンカを売るような真似はしないと思う。そんな事をするのはウインナー(の指の王子)ぐらいじゃないかな。
一人と二匹で喋っていると、突然ドアの鍵が開く気配がした。そして――
「目が覚めたかなぁ? ハルディアの弟、セルディスよ」
予想通りの人物が部屋にやってきた。ウインナー王子……じゃなくてエリック殿下だ。でっぷり超えた腹、ウインナーみたいに太い指。あの指を茹でて食ってやりたい。
奴の後ろには魔法使いが着るような黒いローブの男性もいるけど、服よりもワカメみたいにうねった髪の毛が気になった。色も緑だから本当にワカメみたいだ。
セル様が私を抱きしめたまま窓の方へ一歩下がる。親ビンがセル様を守るように前に立った。
「やっぱりあなたでしたか、エリック殿下」
「その、前から知ってましたぁ~……みたいな上から口調をやめろ! 兄弟揃って無礼な奴らだ。しかしその余裕ぶった態度もいつまでもつかな?」
エリック殿下がニヤニヤしながら一歩近づくと、セル様は一歩遠ざかる。弱い者をいたぶるのが楽しいのか、セル様が遠ざかるとエリック殿下の笑みはさらに深くなった。このゲス王子め!
変な音が聞こえる。なんかこう……野生の狼が唸ってるような、物騒な音だ。――野生?
『ヤバイッ! 山のど真ん中に落ちちゃったの!? セル様は……ぎゃっ!?』
ガバッと跳ね起きた瞬間、視界に犬のデカい顔が飛び込んできた。黒っぽい犬が、口に猿ぐつわを噛ませられて唸っている。
『あ、なんだ親ビンか……。殺気が半端ないっすね』
『ふんが……冗談、言ってる、場合じゃねェぞ! くっそォ、喋りにくい!』
『なんで猿ぐつわ噛ませられてんですか?』
『ハルディア様に、居場所を伝えようとしてだなァ……』
『もういいです。だいたい分かったから』
ハル様に位置を伝えるために吠えていたら、敵の誰かに口を縛られてしまったというところだろう。私も床から起き上がり、確認のために周囲を見渡す。
足元は冷たい石畳だし、壁もレンガで出来てる殺風景な部屋だ。天井に近い部分に鉄格子が嵌められた窓がある。部屋というより牢屋みたいな感じ。
私のすぐ横でセル様も床に寝かされていたけど、ちゃんと呼吸している様子でほっとした。盗聴器つきの上着もきたままだ。
『良かった。どこにも怪我はしてないみたい』
『転移後に、睡眠魔法を掛けられた……みてェだなァ。オレ達、みんなここに、寝かされてたぜ。ったくよォ! セルディス様は、やんごとないお方だってのに、こんな冷てェ石の上に寝かせやがって!』
『セル様を起こした方がいいよね。セル様、セル様』
フリッパーでセル様の体をそっと揺らすと、彼は「うぅん」と唸ってから薄目を開けた。私と視線が合うとふにゃっと笑い、腕のなかに抱きしめてくれる。
「よかったぁ……ペペもガイも無事だったんだね。僕ひとりだったら泣いちゃってたかも。ここ、何処なんだろうね」
セル様は起き上がって親ビンの猿ぐつわを外し、ドアを開けようと試みた。でもやっぱり鍵がかかっているようで、何度かガチャガチャとノブを動かしたけどびくともしない。
しばらくドアを調べたセル様は窓に移動し、私の体を持ち上げた。
「どう? 窓の外に誰かいる?」
「ペエ……ペェエ」
窓の外はどこかの森で、人の気配はなさそうだった。ただ鳥の声がときどき聞こえるだけだ。私が首を振るとセル様は「そう」と呟いた。
「犯人はペペだけを転移させたかったんだろうね。きっと僕とガイは邪魔なはずだよ。どうにかして消そうとするんじゃないかな」
『けっ、消したりするかなぁ? セル様は立派な家の坊ちゃんなんだから、簡単に消したりしないと思うけど』
『オレもそう思うぜェ。ラルトゥアーク家に手出しできる奴なんて、そうそういる訳ねェ』
親ビンの言う通りだ。名門の家だからこそ、並の貴族ならケンカを売るような真似はしないと思う。そんな事をするのはウインナー(の指の王子)ぐらいじゃないかな。
一人と二匹で喋っていると、突然ドアの鍵が開く気配がした。そして――
「目が覚めたかなぁ? ハルディアの弟、セルディスよ」
予想通りの人物が部屋にやってきた。ウインナー王子……じゃなくてエリック殿下だ。でっぷり超えた腹、ウインナーみたいに太い指。あの指を茹でて食ってやりたい。
奴の後ろには魔法使いが着るような黒いローブの男性もいるけど、服よりもワカメみたいにうねった髪の毛が気になった。色も緑だから本当にワカメみたいだ。
セル様が私を抱きしめたまま窓の方へ一歩下がる。親ビンがセル様を守るように前に立った。
「やっぱりあなたでしたか、エリック殿下」
「その、前から知ってましたぁ~……みたいな上から口調をやめろ! 兄弟揃って無礼な奴らだ。しかしその余裕ぶった態度もいつまでもつかな?」
エリック殿下がニヤニヤしながら一歩近づくと、セル様は一歩遠ざかる。弱い者をいたぶるのが楽しいのか、セル様が遠ざかるとエリック殿下の笑みはさらに深くなった。このゲス王子め!
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