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第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?
30 作戦開始
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空中王都に行ってから十日ほど経った。私は相変わらずラルトゥアーク家で、愛らしい大食いペットとして過ごしている。毎日食っちゃ寝、食っちゃ寝してても太らないのは、私が成長著しい雛だからだろう。
「はぁ、散歩のたびにドキドキするなぁ……。どんな敵が出てくるんだろ。僕も兄上ぐらい強かったら良かったのに」
散歩のために着替えたセル様が不安そうに呟いている。王都に行ってから親ビンの散歩だけセル様の役目になり、私も毎日同行する日々だ。同行と言うより、セル様の腕に抱っこされてるだけなんだけど。
『敵はどこに潜んでやがるんだ。待っててばかりじゃつまらねェゼィ! さっさと出てきてお縄につきやがれェ!』
レティ姐さんと一緒にソファに座っていると親ビンがやってきて、そわそわしながら「ウォン」と吠えた。姐さんがやや鬱陶しそうな顔をしている。
『これだから犬は……。なんて落ち着きのなさかしら』
『こっちは冷や冷やしてるよぉ。敵が狙ってるの、私なんだよ?』
『情けないこと言わないの。セルディス様をご覧なさいな。まだ八歳なのに、囮と分かっていながら一人で散歩に行かれてますのよ? 何かあったらあーたがセルディス様をお守りしなさい』
『は……ハイ、姐さん! セル様のことは、命に代えてもお守りします!』
『オレだって命を賭けるつもりだぜェ! 今度こそミッションを成功させてやるァ!』
そうだった。セル様はまだ八歳の男の子だった。名門の家に生まれたから覚悟を決めてるだけで、本来ならまだランドセルを背負って小学校に行くような年齢なのだ。
それに比べて、私は見た目は雛でも実年齢は十七歳である。しかも謎の力を持ってるんだから、セル様のことは私が守らねば……! ついでに親ビンのことも。
「セルディス様、この上着をお召しください」
「うん。この服じゃないと、意味がないもんね」
カムロンさんがいつもの上着を持ってきた。セル様が散歩のときに必ず身につける上着には、ちょっとした仕掛けがあるらしい。ボタンの裏に盗聴魔法が掛けられた部品が縫い付けてあって、会話はすべてハル様に届く仕組みになっている。
そのハル様は昨日から遠征で留守だけど、これはもちろん敵を油断させるための罠だ。実際には遠征地からこっそりリーディガーに戻ってきて、セル様が散歩するたびに何処かから見守っているらしい。プロクス無しで遠方から帰ってくるのは大変だっただろうな。
「ふぅ……。兄上が留守というのは敵も知ってるだろうから、何かしてくるとしたら今日だよね。ペペを誘拐されないように頑張らなきゃ……。行って来ます!」
「お気をつけて。ガイ、ペペ。坊ちゃまを頼んだぞ」
「ウォン!」
「ペエッ!」
セル様は不安そうな顔でお城の門を出たものの、道を歩くにつれて笑顔になってきた。何でも今までは散歩するだけで息が上がっていたそうだから、親ビンと同じ速さで歩いたり走ったり出来るのが嬉しいんだろう。
笑顔のセル様は本当に可愛い。私じゃなくてセル様が誘拐されるんじゃないかと心配するぐらい可愛い。
「また湖のコースにしようか。一周ぐるっと回って屋敷に帰ってこよう」
昼下がり、木陰のなかの細い道を軽快に歩いていく。湖の周囲はだいたい二キロメートルぐらいで、犬の散歩としてはちょうどいいらしい。親ビンは大型犬だから、それなりに長い距離を歩かないとストレスの発散にはならないのだ。犬を飼うのって大変だなと思う。
「僕ね……本当はちょっと怒ってるんだ。兄上がペペを囮にしちゃったから」
「ペエ?」
道を歩いていると、セル様が囁くような声で言った。お兄ちゃんに怒ってるって事だろうか。
「僕は危険な目に会っても別にいいんだよ。ラルトゥアーク家の一員としてやるべき事はやるつもりだし、兄上ひとりに責任を負わせたくないって気持ちもあるから。でもペペはまだ雛なのに……。僕たちの都合で振り回しちゃってごめんね」
「ペエ、ペェエ!」
(そんなこと気にしなくていいよ。私はセル様の方が心配だよ)
この子はまだ八歳なのに、重たい物を自分から背負おうとしている。なんだか痛々しい。私も力になってあげたい。
『セルディス様、何て言ってんだァ?』
『私を巻き込む事になって、ごめんねって言ってる。気にしなくていいのに……』
『まァ気にするだろうなァ。気性の穏やかな方だしな。でもハルディア様の決断は仕方ねェ事だと思うぜ。ハルディア様は政治の中枢におられる方だ。政敵を潰したいってのァ、当然の流れだわな』
「はぁ、散歩のたびにドキドキするなぁ……。どんな敵が出てくるんだろ。僕も兄上ぐらい強かったら良かったのに」
散歩のために着替えたセル様が不安そうに呟いている。王都に行ってから親ビンの散歩だけセル様の役目になり、私も毎日同行する日々だ。同行と言うより、セル様の腕に抱っこされてるだけなんだけど。
『敵はどこに潜んでやがるんだ。待っててばかりじゃつまらねェゼィ! さっさと出てきてお縄につきやがれェ!』
レティ姐さんと一緒にソファに座っていると親ビンがやってきて、そわそわしながら「ウォン」と吠えた。姐さんがやや鬱陶しそうな顔をしている。
『これだから犬は……。なんて落ち着きのなさかしら』
『こっちは冷や冷やしてるよぉ。敵が狙ってるの、私なんだよ?』
『情けないこと言わないの。セルディス様をご覧なさいな。まだ八歳なのに、囮と分かっていながら一人で散歩に行かれてますのよ? 何かあったらあーたがセルディス様をお守りしなさい』
『は……ハイ、姐さん! セル様のことは、命に代えてもお守りします!』
『オレだって命を賭けるつもりだぜェ! 今度こそミッションを成功させてやるァ!』
そうだった。セル様はまだ八歳の男の子だった。名門の家に生まれたから覚悟を決めてるだけで、本来ならまだランドセルを背負って小学校に行くような年齢なのだ。
それに比べて、私は見た目は雛でも実年齢は十七歳である。しかも謎の力を持ってるんだから、セル様のことは私が守らねば……! ついでに親ビンのことも。
「セルディス様、この上着をお召しください」
「うん。この服じゃないと、意味がないもんね」
カムロンさんがいつもの上着を持ってきた。セル様が散歩のときに必ず身につける上着には、ちょっとした仕掛けがあるらしい。ボタンの裏に盗聴魔法が掛けられた部品が縫い付けてあって、会話はすべてハル様に届く仕組みになっている。
そのハル様は昨日から遠征で留守だけど、これはもちろん敵を油断させるための罠だ。実際には遠征地からこっそりリーディガーに戻ってきて、セル様が散歩するたびに何処かから見守っているらしい。プロクス無しで遠方から帰ってくるのは大変だっただろうな。
「ふぅ……。兄上が留守というのは敵も知ってるだろうから、何かしてくるとしたら今日だよね。ペペを誘拐されないように頑張らなきゃ……。行って来ます!」
「お気をつけて。ガイ、ペペ。坊ちゃまを頼んだぞ」
「ウォン!」
「ペエッ!」
セル様は不安そうな顔でお城の門を出たものの、道を歩くにつれて笑顔になってきた。何でも今までは散歩するだけで息が上がっていたそうだから、親ビンと同じ速さで歩いたり走ったり出来るのが嬉しいんだろう。
笑顔のセル様は本当に可愛い。私じゃなくてセル様が誘拐されるんじゃないかと心配するぐらい可愛い。
「また湖のコースにしようか。一周ぐるっと回って屋敷に帰ってこよう」
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「ペエ?」
道を歩いていると、セル様が囁くような声で言った。お兄ちゃんに怒ってるって事だろうか。
「僕は危険な目に会っても別にいいんだよ。ラルトゥアーク家の一員としてやるべき事はやるつもりだし、兄上ひとりに責任を負わせたくないって気持ちもあるから。でもペペはまだ雛なのに……。僕たちの都合で振り回しちゃってごめんね」
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