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第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?
28 目が笑ってない
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「そういう訳だから、ペペの世話はハルディアに任せようと思う。異論はないであろう? 何しろ聖獣がようやく現れたのだ! あとは成鳥となるまで見守ってやろうではないか!」
「そ、そうですな。めでたい話です」
「エリック殿下、気を取り直して乾杯といきましょう」
「かっ、乾杯など出来るかぁ! その無礼な鳥は、私の手に怪我をさせたんだぞ!?」
「無礼かもしれませんが、何者にも代えがたい大切な鳥です。この先何百年にも渡って大陸を守ってくれる、崇拝されるべき鳥です。人間とは比べようもなく尊い存在だと思いますが」
「ぐっ……ぐぬぅっ……! は、話が終わったのなら、席を外して頂きたいものだな!」
「分かってもらえて何よりだ。さぁ行こう、ハルディア」
「そうですね。失礼します、エリック殿下」
ハル様は小声で「うまくいったな」と呟き、私の頭を優しく撫でてくれた。そしてワイアット殿下と一緒に螺旋階段を降り、さっきの部屋まで戻る。
自分の部屋に戻ったワイアット殿下は、ソファに向かってばたりと倒れた。
「し、しんどいぞ……! あいつら何故、ハルディアを逆上させるような事ばかり言うんだ! そなたがいつ剣を抜くかと冷や冷やしたではないか」
「ご冗談を。いくら頭に来ても、王宮内で剣を抜いたりはしませんよ」
「ハルディア、目! 目が笑ってない! ……それはともかく、うまく行って良かったな。もし三年前の事故がエリックの仕業なら、今回も何かしでかすかもしれん」
「エリック殿下が動きやすいように、お膳立てしてあげるつもりです。俺としてもさっさと決着をつけたいので。ワイアット殿下は事後処理をお願いします」
「ま、待て! 何かあったとしても、エリックを殺すような真似だけはするんじゃないぞ? もしそうなれば、そなたの立場も悪くなる」
ハル様がドアに向かって歩きだすと、後ろからワイアット殿下が焦ったように声を掛けた。
殺すって、誰が――ハル様が?
「……善処しますよ。ワイアット殿下の顔に泥を塗るような真似はしません」
閉じるドアの隙間から、心配そうなワイアット殿下の顔が見えた。ハル様は振り返ることもなく、地下への階段を降りていく。
「ペエ……」
(ハル様……私も心配です。誰かを殺しちゃうハル様なんか見たくないです)
「ん? 腹がへったのか? そう言えばお菓子をやる約束だったな。何か買ってやろう」
つ、伝わってない! でもお菓子くれるというひと言が嬉しい! 私は失望しつつもコクリと頷いた。
(私が囮役をやるんだったら、事件現場に居合わせるはずだよね。ハル様が暴走しそうになったら止めればいいんだ)
エリック殿下に対するハル様の恨みは、それは凄まじいものがあるんだろう。でもワイアット殿下が言うようにハル様の立場が悪くなるぐらいなら、私は全力で暴走を止めてみせる。主人を守るペットとして……!
ハル様は私の思惑に気付く気配もなく、地下のお店をぶらついている。顔がいいせいか通りすがりのお姉さんが振り返ったりするし、店番のオバちゃんたちから声を掛けられたりする。
「団長! パンが焼きたてだよ!」
「団長、甘いお菓子はどうだい?」
ハル様は団長と呼ばれるたびに買い物し、両手がパンやお菓子でいっぱいになった。メロンパンみたいなさくさくした生地のパンがうまい。最高。
「ペヒョーッ! ペッホホォウ!」
「喜びの奇声か? おまえは本当に人間みたいな奴だよなぁ……」
夢中で食べてるとハル様が呆れたように言う。でも顔は優しそうに笑っていて、なんだか切ない気持ちになった。この人は笑いながら怒りを隠せる人なんだ。セル様の前では優しいお兄さんでいたい人なんだ。
帰りもプロクス戦闘機に乗ってお城に戻ったけど、Gのせいでぺろぺろキャンディがボッキリ折れていた。プロクスに乗ってピクニックへ行くのは無理そうだなと思った。
「そ、そうですな。めでたい話です」
「エリック殿下、気を取り直して乾杯といきましょう」
「かっ、乾杯など出来るかぁ! その無礼な鳥は、私の手に怪我をさせたんだぞ!?」
「無礼かもしれませんが、何者にも代えがたい大切な鳥です。この先何百年にも渡って大陸を守ってくれる、崇拝されるべき鳥です。人間とは比べようもなく尊い存在だと思いますが」
「ぐっ……ぐぬぅっ……! は、話が終わったのなら、席を外して頂きたいものだな!」
「分かってもらえて何よりだ。さぁ行こう、ハルディア」
「そうですね。失礼します、エリック殿下」
ハル様は小声で「うまくいったな」と呟き、私の頭を優しく撫でてくれた。そしてワイアット殿下と一緒に螺旋階段を降り、さっきの部屋まで戻る。
自分の部屋に戻ったワイアット殿下は、ソファに向かってばたりと倒れた。
「し、しんどいぞ……! あいつら何故、ハルディアを逆上させるような事ばかり言うんだ! そなたがいつ剣を抜くかと冷や冷やしたではないか」
「ご冗談を。いくら頭に来ても、王宮内で剣を抜いたりはしませんよ」
「ハルディア、目! 目が笑ってない! ……それはともかく、うまく行って良かったな。もし三年前の事故がエリックの仕業なら、今回も何かしでかすかもしれん」
「エリック殿下が動きやすいように、お膳立てしてあげるつもりです。俺としてもさっさと決着をつけたいので。ワイアット殿下は事後処理をお願いします」
「ま、待て! 何かあったとしても、エリックを殺すような真似だけはするんじゃないぞ? もしそうなれば、そなたの立場も悪くなる」
ハル様がドアに向かって歩きだすと、後ろからワイアット殿下が焦ったように声を掛けた。
殺すって、誰が――ハル様が?
「……善処しますよ。ワイアット殿下の顔に泥を塗るような真似はしません」
閉じるドアの隙間から、心配そうなワイアット殿下の顔が見えた。ハル様は振り返ることもなく、地下への階段を降りていく。
「ペエ……」
(ハル様……私も心配です。誰かを殺しちゃうハル様なんか見たくないです)
「ん? 腹がへったのか? そう言えばお菓子をやる約束だったな。何か買ってやろう」
つ、伝わってない! でもお菓子くれるというひと言が嬉しい! 私は失望しつつもコクリと頷いた。
(私が囮役をやるんだったら、事件現場に居合わせるはずだよね。ハル様が暴走しそうになったら止めればいいんだ)
エリック殿下に対するハル様の恨みは、それは凄まじいものがあるんだろう。でもワイアット殿下が言うようにハル様の立場が悪くなるぐらいなら、私は全力で暴走を止めてみせる。主人を守るペットとして……!
ハル様は私の思惑に気付く気配もなく、地下のお店をぶらついている。顔がいいせいか通りすがりのお姉さんが振り返ったりするし、店番のオバちゃんたちから声を掛けられたりする。
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「団長、甘いお菓子はどうだい?」
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