28 / 115
第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?
28 目が笑ってない
しおりを挟む
「そういう訳だから、ペペの世話はハルディアに任せようと思う。異論はないであろう? 何しろ聖獣がようやく現れたのだ! あとは成鳥となるまで見守ってやろうではないか!」
「そ、そうですな。めでたい話です」
「エリック殿下、気を取り直して乾杯といきましょう」
「かっ、乾杯など出来るかぁ! その無礼な鳥は、私の手に怪我をさせたんだぞ!?」
「無礼かもしれませんが、何者にも代えがたい大切な鳥です。この先何百年にも渡って大陸を守ってくれる、崇拝されるべき鳥です。人間とは比べようもなく尊い存在だと思いますが」
「ぐっ……ぐぬぅっ……! は、話が終わったのなら、席を外して頂きたいものだな!」
「分かってもらえて何よりだ。さぁ行こう、ハルディア」
「そうですね。失礼します、エリック殿下」
ハル様は小声で「うまくいったな」と呟き、私の頭を優しく撫でてくれた。そしてワイアット殿下と一緒に螺旋階段を降り、さっきの部屋まで戻る。
自分の部屋に戻ったワイアット殿下は、ソファに向かってばたりと倒れた。
「し、しんどいぞ……! あいつら何故、ハルディアを逆上させるような事ばかり言うんだ! そなたがいつ剣を抜くかと冷や冷やしたではないか」
「ご冗談を。いくら頭に来ても、王宮内で剣を抜いたりはしませんよ」
「ハルディア、目! 目が笑ってない! ……それはともかく、うまく行って良かったな。もし三年前の事故がエリックの仕業なら、今回も何かしでかすかもしれん」
「エリック殿下が動きやすいように、お膳立てしてあげるつもりです。俺としてもさっさと決着をつけたいので。ワイアット殿下は事後処理をお願いします」
「ま、待て! 何かあったとしても、エリックを殺すような真似だけはするんじゃないぞ? もしそうなれば、そなたの立場も悪くなる」
ハル様がドアに向かって歩きだすと、後ろからワイアット殿下が焦ったように声を掛けた。
殺すって、誰が――ハル様が?
「……善処しますよ。ワイアット殿下の顔に泥を塗るような真似はしません」
閉じるドアの隙間から、心配そうなワイアット殿下の顔が見えた。ハル様は振り返ることもなく、地下への階段を降りていく。
「ペエ……」
(ハル様……私も心配です。誰かを殺しちゃうハル様なんか見たくないです)
「ん? 腹がへったのか? そう言えばお菓子をやる約束だったな。何か買ってやろう」
つ、伝わってない! でもお菓子くれるというひと言が嬉しい! 私は失望しつつもコクリと頷いた。
(私が囮役をやるんだったら、事件現場に居合わせるはずだよね。ハル様が暴走しそうになったら止めればいいんだ)
エリック殿下に対するハル様の恨みは、それは凄まじいものがあるんだろう。でもワイアット殿下が言うようにハル様の立場が悪くなるぐらいなら、私は全力で暴走を止めてみせる。主人を守るペットとして……!
ハル様は私の思惑に気付く気配もなく、地下のお店をぶらついている。顔がいいせいか通りすがりのお姉さんが振り返ったりするし、店番のオバちゃんたちから声を掛けられたりする。
「団長! パンが焼きたてだよ!」
「団長、甘いお菓子はどうだい?」
ハル様は団長と呼ばれるたびに買い物し、両手がパンやお菓子でいっぱいになった。メロンパンみたいなさくさくした生地のパンがうまい。最高。
「ペヒョーッ! ペッホホォウ!」
「喜びの奇声か? おまえは本当に人間みたいな奴だよなぁ……」
夢中で食べてるとハル様が呆れたように言う。でも顔は優しそうに笑っていて、なんだか切ない気持ちになった。この人は笑いながら怒りを隠せる人なんだ。セル様の前では優しいお兄さんでいたい人なんだ。
帰りもプロクス戦闘機に乗ってお城に戻ったけど、Gのせいでぺろぺろキャンディがボッキリ折れていた。プロクスに乗ってピクニックへ行くのは無理そうだなと思った。
「そ、そうですな。めでたい話です」
「エリック殿下、気を取り直して乾杯といきましょう」
「かっ、乾杯など出来るかぁ! その無礼な鳥は、私の手に怪我をさせたんだぞ!?」
「無礼かもしれませんが、何者にも代えがたい大切な鳥です。この先何百年にも渡って大陸を守ってくれる、崇拝されるべき鳥です。人間とは比べようもなく尊い存在だと思いますが」
「ぐっ……ぐぬぅっ……! は、話が終わったのなら、席を外して頂きたいものだな!」
「分かってもらえて何よりだ。さぁ行こう、ハルディア」
「そうですね。失礼します、エリック殿下」
ハル様は小声で「うまくいったな」と呟き、私の頭を優しく撫でてくれた。そしてワイアット殿下と一緒に螺旋階段を降り、さっきの部屋まで戻る。
自分の部屋に戻ったワイアット殿下は、ソファに向かってばたりと倒れた。
「し、しんどいぞ……! あいつら何故、ハルディアを逆上させるような事ばかり言うんだ! そなたがいつ剣を抜くかと冷や冷やしたではないか」
「ご冗談を。いくら頭に来ても、王宮内で剣を抜いたりはしませんよ」
「ハルディア、目! 目が笑ってない! ……それはともかく、うまく行って良かったな。もし三年前の事故がエリックの仕業なら、今回も何かしでかすかもしれん」
「エリック殿下が動きやすいように、お膳立てしてあげるつもりです。俺としてもさっさと決着をつけたいので。ワイアット殿下は事後処理をお願いします」
「ま、待て! 何かあったとしても、エリックを殺すような真似だけはするんじゃないぞ? もしそうなれば、そなたの立場も悪くなる」
ハル様がドアに向かって歩きだすと、後ろからワイアット殿下が焦ったように声を掛けた。
殺すって、誰が――ハル様が?
「……善処しますよ。ワイアット殿下の顔に泥を塗るような真似はしません」
閉じるドアの隙間から、心配そうなワイアット殿下の顔が見えた。ハル様は振り返ることもなく、地下への階段を降りていく。
「ペエ……」
(ハル様……私も心配です。誰かを殺しちゃうハル様なんか見たくないです)
「ん? 腹がへったのか? そう言えばお菓子をやる約束だったな。何か買ってやろう」
つ、伝わってない! でもお菓子くれるというひと言が嬉しい! 私は失望しつつもコクリと頷いた。
(私が囮役をやるんだったら、事件現場に居合わせるはずだよね。ハル様が暴走しそうになったら止めればいいんだ)
エリック殿下に対するハル様の恨みは、それは凄まじいものがあるんだろう。でもワイアット殿下が言うようにハル様の立場が悪くなるぐらいなら、私は全力で暴走を止めてみせる。主人を守るペットとして……!
ハル様は私の思惑に気付く気配もなく、地下のお店をぶらついている。顔がいいせいか通りすがりのお姉さんが振り返ったりするし、店番のオバちゃんたちから声を掛けられたりする。
「団長! パンが焼きたてだよ!」
「団長、甘いお菓子はどうだい?」
ハル様は団長と呼ばれるたびに買い物し、両手がパンやお菓子でいっぱいになった。メロンパンみたいなさくさくした生地のパンがうまい。最高。
「ペヒョーッ! ペッホホォウ!」
「喜びの奇声か? おまえは本当に人間みたいな奴だよなぁ……」
夢中で食べてるとハル様が呆れたように言う。でも顔は優しそうに笑っていて、なんだか切ない気持ちになった。この人は笑いながら怒りを隠せる人なんだ。セル様の前では優しいお兄さんでいたい人なんだ。
帰りもプロクス戦闘機に乗ってお城に戻ったけど、Gのせいでぺろぺろキャンディがボッキリ折れていた。プロクスに乗ってピクニックへ行くのは無理そうだなと思った。
14
お気に入りに追加
2,616
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!
加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。
カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。
落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。
そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。
器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。
失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。
過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。
これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。
彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。
毎日15:10に1話ずつ更新です。
この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる