26 / 115
第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?
26 ハル様は毒舌家
しおりを挟む
「そうです。俺は三年前の事故を起こしたのは、エリック殿下の一味だと考えています。俺の父は当時、王都に魔法技術が集中するのは好ましくないと考え、地方都市に分散させようとしていました。ワイアット殿下もご存知でしょう」
「もちろん覚えているとも。魔法院に所属する魔法士たちを地方都市に分散させようとしたが、エリック達の派閥に邪魔されてうまく行かなかった。富を独占したい奴らはいつの時代にもいるものだ。三年前の事故には不審な点も多かったが、やはりそなたはエリックが――弟がそなたの父を疎み、事故に見せかけて殺したと思っているのだな」
ワイアット殿下が話している間、ハル様の顔はずっと強張ったままだった。怒りを押し隠しているような表情が少し怖い。
(ハル様は昨日の夜、お父さんが事故で亡くなったと言ってたけど……ただの事故じゃなかったんだ。夜は普通に話してたのに……)
私を怖がらせないように、穏やかな顔で話してくれたのかもしれない。本当は腹が煮えくり返るぐらい怒っていたのだ。
「俺は三年前からずっとエリック殿下を疑っています。崖から落ちた馬の体には、何かが刺さったような不審な傷がありました。でも矢は見つからなかったのですから、魔法による傷と考えて間違いありません。そう考えて調査を続けて来ましたが、三年たっても黒幕が分からないなんて明らかにおかしいでしょう」
「……そなたの言いたいことは分かった。つまり、強い権力を持つ誰かが真相を隠していると考えたわけだな? しかも三公の一人たるハルディアの目をかいくぐるとなると、相手はかなり絞られる。父上か私か……エリックぐらいになってしまうであろうな」
「ワイアット殿下にとっては辛い話だと思います。異母兄弟を疑うことになるわけですから……。でも現状のままエリック殿下を野放しにしておけば、この国は間違いなく廃れます。富はずっと王都に集中し、貧しくなった地方都市はいずれ他国に飲み込まれるでしょう。どこの国だって、領土を広げたいという野望を抱えているはずです」
「う、うぅむ……」
ハル様の容赦ない言葉に、ワイアット殿下は眉間にシワを寄せて悩んでいる。かなり長い事うんうんと唸っていたが、しばらくして「分かった!」と大きな声を出した。顔だけじゃなくて声もデカい。
「私も覚悟を決めよう。いつまでもエリックに気を使ってる場合ではないな。弟よりも国の方が大事だ! その雛を連れて、ガーデンへ行ってみよう」
「ああ……。あいつらまた飲み食いしてるんですか」
「お、おい……。弟の前では、あいつら呼びをするんじゃないぞ?」
「分かってますよ。あいつらの前では口にしません。じゃあ行きましょうか」
「普通に言いそうではないか。不安だ……。あ、おい! 私を置いて行くな!」
さっさと歩き出したハル様の後ろから、ワイアット殿下が慌てて追いかけてくる。殿下は身長こそハル様と同じぐらいだけど、脚の長さに決定的な差があってしんどそうだ。
涼しい顔で大股歩きするハル様と、ひいひい言いながら小走りするワイアット殿下。見てたら悲しい気持ちになるのは何故なのか。あの人、本当に王子さまなんだよね?
廊下の端にあった螺旋階段を登っていくと、上の方から楽しそうな笑い声が聞こえてくる。いや、楽しそうというより……酔っ払いが何か言ってる感じだ。夜の繁華街ってあんな雰囲気なんだろうか。
「ったく、昼間から酒盛りとは……。税金の使い道を間違えている。天誅を下してやりたい」
「ハルディア、シィーッ! 心の声が口から漏れてるぞ」
額を汗でギラつかせながらワイアット殿下が叫ぶ。グルグルと階段を登っているうちにやっと出口が見えてきて、殿下はホッとした表情だ。
「ペエ?」
(あれ? お庭だったんだ。外に出るとは思ってなかった)
階段を登った先は庭になっていて、東屋のような建物があった。でも私が見たことのある東屋とは比較にならないほど大きな建物だ。三十人ぐらいは入れそうな広さ。
日よけの屋根からは水のシャワーが落ち、壁の役目を果たしている。とてもお金が掛かっていそうなお庭だ。
「もちろん覚えているとも。魔法院に所属する魔法士たちを地方都市に分散させようとしたが、エリック達の派閥に邪魔されてうまく行かなかった。富を独占したい奴らはいつの時代にもいるものだ。三年前の事故には不審な点も多かったが、やはりそなたはエリックが――弟がそなたの父を疎み、事故に見せかけて殺したと思っているのだな」
ワイアット殿下が話している間、ハル様の顔はずっと強張ったままだった。怒りを押し隠しているような表情が少し怖い。
(ハル様は昨日の夜、お父さんが事故で亡くなったと言ってたけど……ただの事故じゃなかったんだ。夜は普通に話してたのに……)
私を怖がらせないように、穏やかな顔で話してくれたのかもしれない。本当は腹が煮えくり返るぐらい怒っていたのだ。
「俺は三年前からずっとエリック殿下を疑っています。崖から落ちた馬の体には、何かが刺さったような不審な傷がありました。でも矢は見つからなかったのですから、魔法による傷と考えて間違いありません。そう考えて調査を続けて来ましたが、三年たっても黒幕が分からないなんて明らかにおかしいでしょう」
「……そなたの言いたいことは分かった。つまり、強い権力を持つ誰かが真相を隠していると考えたわけだな? しかも三公の一人たるハルディアの目をかいくぐるとなると、相手はかなり絞られる。父上か私か……エリックぐらいになってしまうであろうな」
「ワイアット殿下にとっては辛い話だと思います。異母兄弟を疑うことになるわけですから……。でも現状のままエリック殿下を野放しにしておけば、この国は間違いなく廃れます。富はずっと王都に集中し、貧しくなった地方都市はいずれ他国に飲み込まれるでしょう。どこの国だって、領土を広げたいという野望を抱えているはずです」
「う、うぅむ……」
ハル様の容赦ない言葉に、ワイアット殿下は眉間にシワを寄せて悩んでいる。かなり長い事うんうんと唸っていたが、しばらくして「分かった!」と大きな声を出した。顔だけじゃなくて声もデカい。
「私も覚悟を決めよう。いつまでもエリックに気を使ってる場合ではないな。弟よりも国の方が大事だ! その雛を連れて、ガーデンへ行ってみよう」
「ああ……。あいつらまた飲み食いしてるんですか」
「お、おい……。弟の前では、あいつら呼びをするんじゃないぞ?」
「分かってますよ。あいつらの前では口にしません。じゃあ行きましょうか」
「普通に言いそうではないか。不安だ……。あ、おい! 私を置いて行くな!」
さっさと歩き出したハル様の後ろから、ワイアット殿下が慌てて追いかけてくる。殿下は身長こそハル様と同じぐらいだけど、脚の長さに決定的な差があってしんどそうだ。
涼しい顔で大股歩きするハル様と、ひいひい言いながら小走りするワイアット殿下。見てたら悲しい気持ちになるのは何故なのか。あの人、本当に王子さまなんだよね?
廊下の端にあった螺旋階段を登っていくと、上の方から楽しそうな笑い声が聞こえてくる。いや、楽しそうというより……酔っ払いが何か言ってる感じだ。夜の繁華街ってあんな雰囲気なんだろうか。
「ったく、昼間から酒盛りとは……。税金の使い道を間違えている。天誅を下してやりたい」
「ハルディア、シィーッ! 心の声が口から漏れてるぞ」
額を汗でギラつかせながらワイアット殿下が叫ぶ。グルグルと階段を登っているうちにやっと出口が見えてきて、殿下はホッとした表情だ。
「ペエ?」
(あれ? お庭だったんだ。外に出るとは思ってなかった)
階段を登った先は庭になっていて、東屋のような建物があった。でも私が見たことのある東屋とは比較にならないほど大きな建物だ。三十人ぐらいは入れそうな広さ。
日よけの屋根からは水のシャワーが落ち、壁の役目を果たしている。とてもお金が掛かっていそうなお庭だ。
13
お気に入りに追加
2,616
あなたにおすすめの小説

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!
加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。
カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。
落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。
そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。
器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。
失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。
過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。
これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。
彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。
毎日15:10に1話ずつ更新です。
この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

目覚めれば異世界!ところ変われば!
秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。
ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま!
目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。
公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。
命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。
身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する
影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。
※残酷な描写は予告なく出てきます。
※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。
※106話完結。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる