【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま

文字の大きさ
上 下
25 / 115
第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?

25 颯爽と登場ペエ!

しおりを挟む
「ワイアット殿下。先日報告した件に関して、重大な事実が発覚しました」

「先日って……遠征の件か。討伐は問題なく終わったのだろう。何が問題なのだ? と言うかそなた、マントに何か隠してないか? ははぁ、さては私への贈り物だな!」

「前向きに勘違いするのは結構ですが、俺の話を最後まで聞いてください」

「お……おお。相変わらず冗談の通じない奴だ……ちょっとぐらい乗ってくれてもいいのに」

 ワイアット殿下の声にはわびしさが滲んでおり、私は彼を慰めてあげたい衝動に駆られた。殿下と呼ばれたからには王子さまなんだろうに、なんだかお気の毒。
 でもハル様は一見して冗談の類を嫌いそうなタイプだから、もっと相手を選んだらいいと思います。

「先日の遠征の帰りに、モンドアの森で見たことのない雛を拾いました」
「それは聞いたのだが」
「その雛を拾って以降、一度も魔物に遭遇せずに騎士団支部へ到着して」

「それも聞いた。モンドアの森は魔物が多いことで有名なのに、不思議な事もあるものだなぁ。ハルディアは幸運な男だ! ハハハッ!」

 どうやら私が拾われた森はモンドアの森というらしい。今さらだけど、ハル様に拾ってもらった私ってものすごくラッキーだったかもしれない。

「リーディガーに帰ってからは、セルディスの病状が軽くなりました。熱を出したのに一晩で下がったんです」

「それも聞いて……ないな。本当か? そなたの弟は瘴気病になりかけていたのだろう。あれは一旦熱が出ると三日は高熱が続くらしいがなぁ」

「本当です。俺も実際にこの目で見たので。さらに驚くべき事に、昨日セルディスが転びかけたとき不思議な結界が弟を守ったそうです。俺はそのとき城を空けていたので、俺の力ではありません」

「セルディスに、結界を張る力は……」

「ないですよ。あいつが使える魔法は、水をお湯に変えるぐらいの簡単なものだけですから。つまり――」

「おっ? いよいよお出ましか! その中身が今日の本題なわけだな!」

 ハル様がもったいぶった手つきで風呂敷マントを広げると、布の隙間からワイアット殿下の顔が見えた。三十歳ぐらいの、やや顔がデカくて健康そうな男の人だ。期待に満ちた表情で私の方を見ている。
 こんな顔をされちゃあ、登場しないわけにはいかない。満を持して、いざ、ペペ参上……!

「つまり一連の不思議な出来事は、この雛が原因だと思われます」
「ペエッ!」
「…………」

 翻る黒いマント。颯爽と現れた、赤い蝶ネクタイの私。これ以上なく格好いい演出なのに、ワイアット殿下は割れかけた顎をしきりに撫でている。そんなに触ったら余計に割れるんじゃないですかね。

「これがその雛?」
「そうです」
「ペエッ!」

「この雛が魔物を退け、しかもセルディスを守ったと?」
「ええ」
「ペェエッ!」

 ワイアット殿下はウロウロと視線を彷徨わせ、しばらくして額に手を当ててしまった。何か考え込んでいる様子だ。何が不満だというのか。

「いや、まあ……ちょっと期待していたのと違ったと言うかな、うん。その……なんだ。可愛い雛ではないか。ハハハ!」

「見た目は可愛い雛ですが、こいつに聖なる力があるのは真実です。俺はこいつを――ペペを、聖獣の雛として公表しようと思っています」

「ペペ!? さてはそなたが名付けたのだな!?」

「そこに引っ掛かるのをやめて欲しいんですが」

「ヒッ」
 ハル様がドスのきいた低い声を出すと、ワイアット殿下がびくりと肩をあげた。この人たちの力関係が何となく分かった気がする。

「と……とにかくだな。こんなすっとぼけた顔をした鳥が聖獣の雛だなんて、にわかには信じられんぞ」

「ペエッ? ペェエ、ペエッ!」
「おっ? なんだ。もしかして怒っているのか? まさかなぁ、ハハ」

「多分怒ってますよ。こいつは人間の言葉が分かるようです。すっとぼけたなんて言われて、気分を害したんでしょう」

 ハル様がぼそっと言うと、私を撫でようとしていたワイアット殿下はぴたりと手を止める。

「えぇえ……。嘘だろうと言いたいところだが、そんな大真面目な顔をされると冗談に出来る雰囲気ではないな。うぅむ……。しかし聖獣の雛なぁ」

「俺も本気でこいつが聖獣だと思っているわけじゃありません。でも聖獣の雛を個人が入手したという話を広めれば、強欲な奴らが勝手に動き出すかもしれないでしょう。聖獣を独占するのは大陸の覇権を握るのと同じことですから。ペペは囮役を引き受けてくれるそうです」

「強欲な奴らというのは……エリック達のことか?」

 それまでふざけた様子だったワイアット殿下は、急に真面目な顔になった。エリックって誰だろう。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

処理中です...