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第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?
23 王都へおでかけ
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翌朝。朝食を済ませた私はクララさんの手で洗われ、丁寧なブラッシングまでされた。
『なんでェ、オメーの格好は。首にリボンなんか巻いてるじゃねェか』
『ハル様と一緒に王宮へ行くことになったんです。それでおめかししてんの』
『そのリボンはアタクシのだからね。今日は貸してあげるけど、ちゃんと返してちょうだいよ』
『ハイ、姐さん』
おめかしした私を見て親ビンたちが目を丸くしている。昨日の出来事でさぞかししょげているだろうと思ったら、意外と元気そうでほっとした。
レティ姐さんは不満げな顔をしていたものの、『あーたは勇者だから仕方ないわね』と赤いリボンを貸してくれたのだ。
(う~ん、可愛いわ。自分で言うのもなんだけど)
真っ白い綿毛みたいなふわふわしたボディ。蝶ネクタイのように結ばれた首の赤いリボン。鏡に映った私は身震いするような愛らしさであった。ここが日本だったら、トイ・プードルにも負けない売れっ子ペットになった事であろう……!
「兄上、ペペの準備終わったよ。すっごく可愛いでしょ?」
セル様に抱っこされて外に出ると、ハル様はすでにプロクスを召喚した後だった。ハル様の後ろでプロクスの奴が『ケッ』とつまらなそうに呟いている。
「クララがリボンを巻いてくれたのか。これは可愛いな……。よく似合ってるぞ」
「ペ、ペヘヘェ……」
『フッ。こいつが可愛いのは今だけですよ。きっとすぐにガチガチのムキムキになって、ごっつい鳥になりますよ』
『そんな事ないもん! 私は可愛いまま大きくなるんだから!』
プロクスは聞こえない振りをして、ハル様に媚びるように「グオッ」と鳴いて背中を差し出した。この温度差はなんなのか。
「じゃあ行ってくる。セルディスも気をつけて学校に行くんだぞ。必ず護衛をつけて行けよ」
「分かってるって。行ってらっしゃい! ペペ、頑張るんだよ!」
「ペエッ!」
私たちを背中に乗せたプロクスが羽ばたきして浮かび上がると、セル様とカムロンさんがあっという間に小さくなる。ハル様が結界を張ってプロクスに合図を送り――
「ペグフゥッ……!」
(き、来たぁああっ! Gが来た!)
風の壁がどしっと体にぶつかるような衝撃がやってきた。
「ほら、見えるか? ここからでも王宮の先端が見えるだろう」
「ペッ、ペグェエッ……」
(ハル様が平然としてる……! 私だって公爵家のペットなんだ。これぐらい慣れてみせるッ……!)
意地になってクワッと目を見開いていると、森の向こうに童話に出てくるようなお城が見える。玉ねぎみたいな形の屋根に、先端が鋭くとがった細い塔。さらに近づいていくと――
「ペエッ!? ペェエエッ……!?」
(うっ浮いてる!? 何もない場所に街が浮いてる! これが天空の城……本当にあったんだ!?)
お城は大きな街の中心にあり、信じがたいことに大地ごと空中に浮いていた。下は深い谷だ。幅の広い川がドドドと音を立てて谷底に流れ込み、白い霧が立ち込めている。
森の中からのびる長い橋が浮遊する都市に繋がっていて、たくさんの馬車や歩く人々が見えた。
(天空の城とはちょっと違うみたいだけど、なんて幻想的な眺めなんだろ……! すごい!)
ムッハーとため息をついていると、下から笑うような気配がする。プロクスの奴だ。
『フッ。いかにも田舎者って感じだな。これだからガキは……』
『そりゃ驚くでしょ! でっかい街が谷の上に浮いてるんだよ? あれどういう仕組み?』
『おまえホントに田舎から出たことないんだな。憐れなヤツだぜ』
田舎どころか、ついこないだまで私は日本にいたんだけどね。まぁそんな説明しても信じてもらえないだろうけど。
「壮大な眺めだろう。伝承によると、他国の侵略に備えるために魔法技術を駆使して空中都市を作ったらしい。王宮の内部には魔法院があって、大勢の魔法士たちが働いている。王都はまさに技術の結晶だ。……内部に住んでる奴らは変なのが多いけどな」
「ペエ?」
(え? なんて?)
今ハル様らしからぬ言葉を聞いたような。変なのとか何とか言ったような。聞き間違いだろうか。
プロクスは王宮の端っこにあった広場のようなところに舞い降り、ハル様に頭を撫でてもらってから飛び立って行った。広場のなかを歩いて近くの扉から建物に入ると、後ろから「団長」と声をかけられる。
『なんでェ、オメーの格好は。首にリボンなんか巻いてるじゃねェか』
『ハル様と一緒に王宮へ行くことになったんです。それでおめかししてんの』
『そのリボンはアタクシのだからね。今日は貸してあげるけど、ちゃんと返してちょうだいよ』
『ハイ、姐さん』
おめかしした私を見て親ビンたちが目を丸くしている。昨日の出来事でさぞかししょげているだろうと思ったら、意外と元気そうでほっとした。
レティ姐さんは不満げな顔をしていたものの、『あーたは勇者だから仕方ないわね』と赤いリボンを貸してくれたのだ。
(う~ん、可愛いわ。自分で言うのもなんだけど)
真っ白い綿毛みたいなふわふわしたボディ。蝶ネクタイのように結ばれた首の赤いリボン。鏡に映った私は身震いするような愛らしさであった。ここが日本だったら、トイ・プードルにも負けない売れっ子ペットになった事であろう……!
「兄上、ペペの準備終わったよ。すっごく可愛いでしょ?」
セル様に抱っこされて外に出ると、ハル様はすでにプロクスを召喚した後だった。ハル様の後ろでプロクスの奴が『ケッ』とつまらなそうに呟いている。
「クララがリボンを巻いてくれたのか。これは可愛いな……。よく似合ってるぞ」
「ペ、ペヘヘェ……」
『フッ。こいつが可愛いのは今だけですよ。きっとすぐにガチガチのムキムキになって、ごっつい鳥になりますよ』
『そんな事ないもん! 私は可愛いまま大きくなるんだから!』
プロクスは聞こえない振りをして、ハル様に媚びるように「グオッ」と鳴いて背中を差し出した。この温度差はなんなのか。
「じゃあ行ってくる。セルディスも気をつけて学校に行くんだぞ。必ず護衛をつけて行けよ」
「分かってるって。行ってらっしゃい! ペペ、頑張るんだよ!」
「ペエッ!」
私たちを背中に乗せたプロクスが羽ばたきして浮かび上がると、セル様とカムロンさんがあっという間に小さくなる。ハル様が結界を張ってプロクスに合図を送り――
「ペグフゥッ……!」
(き、来たぁああっ! Gが来た!)
風の壁がどしっと体にぶつかるような衝撃がやってきた。
「ほら、見えるか? ここからでも王宮の先端が見えるだろう」
「ペッ、ペグェエッ……」
(ハル様が平然としてる……! 私だって公爵家のペットなんだ。これぐらい慣れてみせるッ……!)
意地になってクワッと目を見開いていると、森の向こうに童話に出てくるようなお城が見える。玉ねぎみたいな形の屋根に、先端が鋭くとがった細い塔。さらに近づいていくと――
「ペエッ!? ペェエエッ……!?」
(うっ浮いてる!? 何もない場所に街が浮いてる! これが天空の城……本当にあったんだ!?)
お城は大きな街の中心にあり、信じがたいことに大地ごと空中に浮いていた。下は深い谷だ。幅の広い川がドドドと音を立てて谷底に流れ込み、白い霧が立ち込めている。
森の中からのびる長い橋が浮遊する都市に繋がっていて、たくさんの馬車や歩く人々が見えた。
(天空の城とはちょっと違うみたいだけど、なんて幻想的な眺めなんだろ……! すごい!)
ムッハーとため息をついていると、下から笑うような気配がする。プロクスの奴だ。
『フッ。いかにも田舎者って感じだな。これだからガキは……』
『そりゃ驚くでしょ! でっかい街が谷の上に浮いてるんだよ? あれどういう仕組み?』
『おまえホントに田舎から出たことないんだな。憐れなヤツだぜ』
田舎どころか、ついこないだまで私は日本にいたんだけどね。まぁそんな説明しても信じてもらえないだろうけど。
「壮大な眺めだろう。伝承によると、他国の侵略に備えるために魔法技術を駆使して空中都市を作ったらしい。王宮の内部には魔法院があって、大勢の魔法士たちが働いている。王都はまさに技術の結晶だ。……内部に住んでる奴らは変なのが多いけどな」
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(え? なんて?)
今ハル様らしからぬ言葉を聞いたような。変なのとか何とか言ったような。聞き間違いだろうか。
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