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第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?
22 不埒者め
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「おまえは本当に人間みたいな奴だな。ほら、着替え終わったぞ」
「ペエ?」
着替え終わったハル様はパジャマのような薄っぺらい服を着ている。裸になったわけではないらしい。
(なぁんだ、パジャマ着ただけか……って、私はなにを期待しているのか! この不埒者めッ!)
「なにをジタバタしてるんだ? ほら、おいで」
フリッパーでベッドをばしばし叩いていると、後ろから持ち上げられて温かい場所にすぽんと収まる。ハル様の腕の中だ。私の顔とハル様の顔がくっついて……はがぁあ!
「ペッ、ペグフゥッ! ペハァァアアッ……!」
(心頭滅却! 私はただのペンギンだ! ペンギンの雛だぁあッ……!)
「おまえは温かいなぁ……。セルディスがペットと寝る理由が分かるような気がする。ペペは賢い鳥だから、この屋敷に動物がたくさんいる理由も分かってるんだろう?」
「ペ? ペエ」
ハル様が真面目な雰囲気で話しだしたので、私は素直にこくりと頷いた。大切な話をするために、私をこの部屋へ連れてきたらしい。一人で身もだえしてる場合じゃなかった。
「俺たちの両親は三年前に事故で死んでしまってな……。あの子が寂しくないように、犬や猫を飼うようになった。本当ならセルディスはまだ親に甘えたい年頃だろうが、俺では代わりにすらなってやれない。多忙でしょっちゅう家を空けているしな……」
「ペエ……」
(そんな事ないよ。ハル様はセル様のために、大急ぎで帰ってきてたでしょ。まぁプロクス戦闘機はかなり怖かったけどね)
セル様は心からお兄さんを慕っている。他人から見たらそれが分かるのに、ハル様は自信が持てない様子だ。ああ、もどかしい。
「さらに困ったことに、俺が公爵位を継いでからこの屋敷に令嬢たちが押しかけて来るようになってしまったんだ。三公の妻になるなんて色めきたって、セルディスを困らせているらしい。なんで俺じゃなくて弟に詰め寄るのか分からん」
「ペ…………」
(ほ、本気で言ってるの?)
どうやらハル様は女心がお分かりにならないらしい。ハル様が自分より弟を優先してるから、あの女の子たもセル様に気に入られようと必死なんだと思うけど。
このように整ったお顔を持ちながら女心が分からないなんて気の毒な人だ。ハル様が鈍い分、親ビンたちとレティシアが奮闘しているのかも。
「今日は不思議な力がセルディスを守ってくれたんだってな。令嬢たちはセルディスの力だと思ったようだが、あいつにはまだ結界を操るような事は出来ないんだ。だから……あれはおまえの力なんだろう?」
「ペ……ペェェ?」
よく分からないです。私はスライディングしただけなんで。
「首を傾げている様子からして、自分でもよく分かってないみたいだな。俺は今日の話を聞いて、今までの不思議な出来事を思い出したよ。おまえを見つけて保護してから、森の中でいちども魔物に遭遇しなかっただろう」
「ペエ」
そうでしたね。村のなかで牛とか豚は見たけど。
「帰り道も順調すぎるぐらい何事もなく支部に到着した。リーディガーに帰って来てからは、なぜかセルディスの病状が軽くなってきている。熱を出したのに一晩で下がるなんてどう考えてもおかしい。そして今日の事件だ」
「ペエッ!?」
ぶつぶつと言葉を並べまくっていたハル様は、急に手を動かして私の体を持ち上げた。至近距離からプール色の目が私をじっと見ている。
(ひぃい……! 改めて見るとすごい色!)
「ペペが聖獣の雛かどうかは不明として、特別な生き物だというのは間違いない。きっとおまえには聖なる力が宿っているんだ。ペペ……俺に力を貸してくれないか?」
「ペ?」
「俺はロイウェルをブルギーニュと同じように発展した国にしたい。でも邪魔する奴がいて、思うように進まなくてな……。おまえに囮役をやってほしいんだ。いいか?」
「ペエ! ペェッ、ペペエ!」
(いいですよ。私でお役に立てる事なら、なんだってやります!)
「ありがとう。明日になったらおまえを王太子殿下に会わせよう。忙しくなりそうだな……セルディスは怒るだろうか……」
ハル様は不安そうに呟くと、私を抱っこしたまま寝てしまった。この人の世界は本当に弟中心に回っているらしい。
(どうしよ。さっきまで寝てたせいか、あんまり眠くないかも……。うう、頭の上にハル様の息がかかってるぅ)
ハル様が健やかな寝息を立てるたびに、私の綿みたいな羽毛がそよそよと揺れている。はぁ、心臓が痛い。ドッキンドッキンうるさい。
こんなんじゃ眠れないよぉ……!――と思っていた私だったが、目を閉じてるうちに眠くなり、いつの間にか寝てしまった。成長期だからかもしれない。
「ペエ?」
着替え終わったハル様はパジャマのような薄っぺらい服を着ている。裸になったわけではないらしい。
(なぁんだ、パジャマ着ただけか……って、私はなにを期待しているのか! この不埒者めッ!)
「なにをジタバタしてるんだ? ほら、おいで」
フリッパーでベッドをばしばし叩いていると、後ろから持ち上げられて温かい場所にすぽんと収まる。ハル様の腕の中だ。私の顔とハル様の顔がくっついて……はがぁあ!
「ペッ、ペグフゥッ! ペハァァアアッ……!」
(心頭滅却! 私はただのペンギンだ! ペンギンの雛だぁあッ……!)
「おまえは温かいなぁ……。セルディスがペットと寝る理由が分かるような気がする。ペペは賢い鳥だから、この屋敷に動物がたくさんいる理由も分かってるんだろう?」
「ペ? ペエ」
ハル様が真面目な雰囲気で話しだしたので、私は素直にこくりと頷いた。大切な話をするために、私をこの部屋へ連れてきたらしい。一人で身もだえしてる場合じゃなかった。
「俺たちの両親は三年前に事故で死んでしまってな……。あの子が寂しくないように、犬や猫を飼うようになった。本当ならセルディスはまだ親に甘えたい年頃だろうが、俺では代わりにすらなってやれない。多忙でしょっちゅう家を空けているしな……」
「ペエ……」
(そんな事ないよ。ハル様はセル様のために、大急ぎで帰ってきてたでしょ。まぁプロクス戦闘機はかなり怖かったけどね)
セル様は心からお兄さんを慕っている。他人から見たらそれが分かるのに、ハル様は自信が持てない様子だ。ああ、もどかしい。
「さらに困ったことに、俺が公爵位を継いでからこの屋敷に令嬢たちが押しかけて来るようになってしまったんだ。三公の妻になるなんて色めきたって、セルディスを困らせているらしい。なんで俺じゃなくて弟に詰め寄るのか分からん」
「ペ…………」
(ほ、本気で言ってるの?)
どうやらハル様は女心がお分かりにならないらしい。ハル様が自分より弟を優先してるから、あの女の子たもセル様に気に入られようと必死なんだと思うけど。
このように整ったお顔を持ちながら女心が分からないなんて気の毒な人だ。ハル様が鈍い分、親ビンたちとレティシアが奮闘しているのかも。
「今日は不思議な力がセルディスを守ってくれたんだってな。令嬢たちはセルディスの力だと思ったようだが、あいつにはまだ結界を操るような事は出来ないんだ。だから……あれはおまえの力なんだろう?」
「ペ……ペェェ?」
よく分からないです。私はスライディングしただけなんで。
「首を傾げている様子からして、自分でもよく分かってないみたいだな。俺は今日の話を聞いて、今までの不思議な出来事を思い出したよ。おまえを見つけて保護してから、森の中でいちども魔物に遭遇しなかっただろう」
「ペエ」
そうでしたね。村のなかで牛とか豚は見たけど。
「帰り道も順調すぎるぐらい何事もなく支部に到着した。リーディガーに帰って来てからは、なぜかセルディスの病状が軽くなってきている。熱を出したのに一晩で下がるなんてどう考えてもおかしい。そして今日の事件だ」
「ペエッ!?」
ぶつぶつと言葉を並べまくっていたハル様は、急に手を動かして私の体を持ち上げた。至近距離からプール色の目が私をじっと見ている。
(ひぃい……! 改めて見るとすごい色!)
「ペペが聖獣の雛かどうかは不明として、特別な生き物だというのは間違いない。きっとおまえには聖なる力が宿っているんだ。ペペ……俺に力を貸してくれないか?」
「ペ?」
「俺はロイウェルをブルギーニュと同じように発展した国にしたい。でも邪魔する奴がいて、思うように進まなくてな……。おまえに囮役をやってほしいんだ。いいか?」
「ペエ! ペェッ、ペペエ!」
(いいですよ。私でお役に立てる事なら、なんだってやります!)
「ありがとう。明日になったらおまえを王太子殿下に会わせよう。忙しくなりそうだな……セルディスは怒るだろうか……」
ハル様は不安そうに呟くと、私を抱っこしたまま寝てしまった。この人の世界は本当に弟中心に回っているらしい。
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ハル様が健やかな寝息を立てるたびに、私の綿みたいな羽毛がそよそよと揺れている。はぁ、心臓が痛い。ドッキンドッキンうるさい。
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