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第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?
19 総員、戦闘配置!
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いつの間にか昼になっていたらしく、カムロンさんがワゴンに食事を載せて運んできてくれた。
「ありがとう、カムロン。廊下で手を洗ってくるね」
「ペエッ、ペペエ」
(セル様待ってぇ。私も行くから)
私もセル様についてペタペタと廊下に出て行くと、彼は水場で手を洗っている。学校の廊下にあるような手洗い場だ。しかし安っぽくはなく、大理石みたいな高そうな石材を使っている。
「便利でしょ? このレバーを動かすと水が出てくるの。魔法の技術で地下から水を引いててさ、いつでも好きなときに水を使えるんだよ」
「……ペエ?」
(えっ、それって普通のことじゃないの? 他の場所では水が出ないの?)
セル様はハンカチで手を拭いたあと、私を抱っこして手を洗わせてくれた。確かにレバーを引くと水が出るけど、私にとっては当たり前の光景だ。
「こんな風に便利なのは貴族の屋敷だけだよ。街の人は共用の井戸から水を汲んでるんだって。兄上は街のなかにもこういう仕組みを作りたいって頑張ってるみたいだけど、なかなか難しいみたい。さあ、戻ってご飯にしよ」
「ペエ」
(日本では当たり前のことが、この世界ではそうじゃないんだなぁ……。魔法もみんなが使えるわけじゃないみたいだし)
魔法を使って竜を呼び出したり別の場所に転移したりするかと思えば、水をわざわざ井戸から汲んでいたりもするらしい。新しいのか古いのかよく分からない。貴族と普通の人では、生活レベルにかなり差があるという事なのかな。
本日の昼食はサンドイッチのような料理で、薄っぺらく切ったパンに野菜やハムが挟んである。美味しく頂いて食後の紅茶まで飲んでいると、バウバウと犬の鳴き声が聞こえてきた。親ビンたちだろうか。
「どうしたんだろ。何か慌ててるみたい」
「坊ちゃま、すぐに本館の方へお戻りください。ご学友の方が……!」
散歩に行ったおじさんが息を切らして図書館に入ってきた。後ろからは親ビンたちが。
『てぇへんダァ! 敵襲! 敵襲!』
『ペペ、のんびりしてる場合じゃねぇゾ!』
『……えっ? な、なにが?』
チワワとシーズーがハァハァしながら何か言っている。敵襲ってなんですか。誰の敵?
親ビンが号令をかけるように「ウォン」と吠えた。
『野郎ども! 総員、戦闘配置だァ!』
『ウィッス!』
『合点でぇ!』
『…………はぁ?』
戦闘配置ってなに。ますます意味不明。頭に「?」マークを浮かべる私を放置して、親ビンたちは本館めがけて猛ダッシュで走り去った。一体なに事なのか。
「ご学友の方が、お見えになっております……! 坊ちゃまのお見舞いだと仰って」
「げげぇ。もしかしてマルシア達?」
「はい」
セル様は客人が誰か分かると、なおさら嫌そうな顔でがくりと肩を落とした。親ビンたちが敵襲と言ったのはこれだったのか。つまりセル様にとって敵ということか。
マルシアって女の子みたいな名前なのに、どんな強敵なんだろう。ガチムチ系?
「うわ、やだなぁ……。会いたくないよ」
「そうも言ってられませんでしょう。淑女たちの訪問を無視するわけにもいきません。本館に戻りましょう」
カムロンさんに諭され、しぶしぶ椅子から立ち上がるセル様。私を腕に抱っこして重い足取りで本館へ戻っていく。居留守を使えばいいと思うんだけど、それじゃ駄目なのかな。ピンポンが鳴っても無視したらいいのに。
来たときと同じように渡り廊下を歩いて行くと、お城の玄関付近に大きな馬車がとまっている。ウォーカーさん達が乗っていたような布張りの馬車ではなく、もっとお洒落で高級そうな馬車だ。黒塗りの車体が日光を反射してピカピカ光っている。いかにも金持ちの馬車という感じ。
以前おやつを食べた部屋のドアをカムロンさんが開けると、中から女性の話し声が聞こえてきた。セルディス様が開いたドアの辺りに立った瞬間、声はさらに賑やかになる。
「あっ、セルディス様ですわ!」
「セルディス様、体調はいかがですか? 学校をお休みになってましたでしょ。わたくし達、心配で駆けつけましたの!」
「……嘘だ。僕を心配したからじゃなくて、兄上目当てで来たくせに」
煌びやかなドレスを着た少女たちが心配そうな顔で言っても、セルディス様の反応は冷ややかだった。さっきまで天真爛漫な少年だったのに変貌ぶりがすごい。どうしちゃったんだろう。
(年齢はバラバラだなぁ……。中学生ぐらいの子もいるし、私と同い年ぐらいの人もいるみたい。ガチムチじゃなかったわ)
部屋にいる少女は合計五人で、誰もかれも綺麗な服を着ている。でもみんな香水のような匂いがするから、ちょっと酔ってしまいそうだ。日本人なせいか香水に慣れてなくて……うぅ、気持ち悪い。
「ペグェェ……!」
「ペペ? どうしたの、大丈夫? 歩いてる間に気持ち悪くなったのかな」
「あらぁ、可愛い鳥さん!」
「気持ちが悪いのなら、ソファで休ませてあげましょう」
「セルディス様は、わたくし達とお喋りしましょ!」
「ありがとう、カムロン。廊下で手を洗ってくるね」
「ペエッ、ペペエ」
(セル様待ってぇ。私も行くから)
私もセル様についてペタペタと廊下に出て行くと、彼は水場で手を洗っている。学校の廊下にあるような手洗い場だ。しかし安っぽくはなく、大理石みたいな高そうな石材を使っている。
「便利でしょ? このレバーを動かすと水が出てくるの。魔法の技術で地下から水を引いててさ、いつでも好きなときに水を使えるんだよ」
「……ペエ?」
(えっ、それって普通のことじゃないの? 他の場所では水が出ないの?)
セル様はハンカチで手を拭いたあと、私を抱っこして手を洗わせてくれた。確かにレバーを引くと水が出るけど、私にとっては当たり前の光景だ。
「こんな風に便利なのは貴族の屋敷だけだよ。街の人は共用の井戸から水を汲んでるんだって。兄上は街のなかにもこういう仕組みを作りたいって頑張ってるみたいだけど、なかなか難しいみたい。さあ、戻ってご飯にしよ」
「ペエ」
(日本では当たり前のことが、この世界ではそうじゃないんだなぁ……。魔法もみんなが使えるわけじゃないみたいだし)
魔法を使って竜を呼び出したり別の場所に転移したりするかと思えば、水をわざわざ井戸から汲んでいたりもするらしい。新しいのか古いのかよく分からない。貴族と普通の人では、生活レベルにかなり差があるという事なのかな。
本日の昼食はサンドイッチのような料理で、薄っぺらく切ったパンに野菜やハムが挟んである。美味しく頂いて食後の紅茶まで飲んでいると、バウバウと犬の鳴き声が聞こえてきた。親ビンたちだろうか。
「どうしたんだろ。何か慌ててるみたい」
「坊ちゃま、すぐに本館の方へお戻りください。ご学友の方が……!」
散歩に行ったおじさんが息を切らして図書館に入ってきた。後ろからは親ビンたちが。
『てぇへんダァ! 敵襲! 敵襲!』
『ペペ、のんびりしてる場合じゃねぇゾ!』
『……えっ? な、なにが?』
チワワとシーズーがハァハァしながら何か言っている。敵襲ってなんですか。誰の敵?
親ビンが号令をかけるように「ウォン」と吠えた。
『野郎ども! 総員、戦闘配置だァ!』
『ウィッス!』
『合点でぇ!』
『…………はぁ?』
戦闘配置ってなに。ますます意味不明。頭に「?」マークを浮かべる私を放置して、親ビンたちは本館めがけて猛ダッシュで走り去った。一体なに事なのか。
「ご学友の方が、お見えになっております……! 坊ちゃまのお見舞いだと仰って」
「げげぇ。もしかしてマルシア達?」
「はい」
セル様は客人が誰か分かると、なおさら嫌そうな顔でがくりと肩を落とした。親ビンたちが敵襲と言ったのはこれだったのか。つまりセル様にとって敵ということか。
マルシアって女の子みたいな名前なのに、どんな強敵なんだろう。ガチムチ系?
「うわ、やだなぁ……。会いたくないよ」
「そうも言ってられませんでしょう。淑女たちの訪問を無視するわけにもいきません。本館に戻りましょう」
カムロンさんに諭され、しぶしぶ椅子から立ち上がるセル様。私を腕に抱っこして重い足取りで本館へ戻っていく。居留守を使えばいいと思うんだけど、それじゃ駄目なのかな。ピンポンが鳴っても無視したらいいのに。
来たときと同じように渡り廊下を歩いて行くと、お城の玄関付近に大きな馬車がとまっている。ウォーカーさん達が乗っていたような布張りの馬車ではなく、もっとお洒落で高級そうな馬車だ。黒塗りの車体が日光を反射してピカピカ光っている。いかにも金持ちの馬車という感じ。
以前おやつを食べた部屋のドアをカムロンさんが開けると、中から女性の話し声が聞こえてきた。セルディス様が開いたドアの辺りに立った瞬間、声はさらに賑やかになる。
「あっ、セルディス様ですわ!」
「セルディス様、体調はいかがですか? 学校をお休みになってましたでしょ。わたくし達、心配で駆けつけましたの!」
「……嘘だ。僕を心配したからじゃなくて、兄上目当てで来たくせに」
煌びやかなドレスを着た少女たちが心配そうな顔で言っても、セルディス様の反応は冷ややかだった。さっきまで天真爛漫な少年だったのに変貌ぶりがすごい。どうしちゃったんだろう。
(年齢はバラバラだなぁ……。中学生ぐらいの子もいるし、私と同い年ぐらいの人もいるみたい。ガチムチじゃなかったわ)
部屋にいる少女は合計五人で、誰もかれも綺麗な服を着ている。でもみんな香水のような匂いがするから、ちょっと酔ってしまいそうだ。日本人なせいか香水に慣れてなくて……うぅ、気持ち悪い。
「ペグェェ……!」
「ペペ? どうしたの、大丈夫? 歩いてる間に気持ち悪くなったのかな」
「あらぁ、可愛い鳥さん!」
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