11 / 115
第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?
11 Gの圧力
しおりを挟む
『気にしないでください。さぁハルディア様、背中にどうぞ』
プロクスは地面に寝そべり、背中に乗るように促した。私をチラッと見て、『おまえはオマケだ』と呟きながら。
(ぐんぬぅぅうう! なんて偉そうな奴!)
「ペペ、怖いのか? 大丈夫だ。プロクスは見た目は怖いが優しい奴なんだ」
「ペペェエ……!」
(ハル様、騙されてる! そいつが甘いのはアナタにだけです!)
怒りに震える私を見て何か勘違いしたのか、ハル様は私の頭をよしよしと撫でてプロクスの背に乗った。奴は「グォッ」と一声鳴き、空に浮かび上がる。
何か不思議な力でも使っているのか、羽ばたきを一回しただけで一気に空の上だ。さっきまで地面に立ってたのに、今はビルの上ぐらい。
何度も羽ばたきするうちに、とうとう地平線が見えるほど上空に来た。村の家は米粒みたいな大きさだし、こんもりと茂る森の向こうには青い海が見える。
「ペンガーッ!」
(すんごぉい! 本当に空を飛んでる!)
『あまりはしゃいで空から落ちるなよ。ハルディア様のお手をわずらわせるな』
『そんなこと分かってるよ!』
「いい友達が出来て良かったな、ペペ。今から行くのは俺の領地があるリーディガーという都市だ。ロイウェルは王都以外の国土を三つに分割していて、その内の一つを俺たちラルトゥアーク家が治めている。リーディガーはここからだとかなり遠くてな……馬で移動した場合、五日はかかる。でもプロクスなら一瞬で着くんだ」
『フッ。オレにかかれば長距離移動なんてたやすい事ですよ』
プロクスは得意げに言ったが、ハル様には「グオオ」としか聞こえなかっただろう。あの鼻で笑う「フッ」がとにかくウザったい。こいつはとんでもないキザ竜だわ。
「プロクス、そろそろ結界を張る。いつものアレを頼む」
「グオッ!」
「ペエ?」
(いつものアレって何? えっ――えええ!?)
急に風を感じなくなり、不審に思った瞬間、プロクスの移動速度が急激に上がった。ぐんっと体が押しつぶされて、「グエッ」と声が漏れる。これがG――重力加速度か! 戦闘機みたいな感じなんですけど!
「ペンギャアアアア!」
「よしよし。ちょっとの辛抱だからな」
ハル様はのんびりとした口調で言い、私の背中をぽんぽんとあやした。
「ペッ、ペフゥッ! ペェエエ……!」
(違う、怖いんじゃなくて! Gが! Gの圧力が凄いんです!)
プロクスは戦闘機のような速度で空を移動していく。ギュィィィン!と音まで聞こえてきそうだ。でも結界のせいで風も音も感じない。飛行機にはまだ乗ったことがないけど、こんな感じなんだろうか。
『おい、着いたぜ新入り。ヨダレ垂らしてる場合じゃないぞ』
『へ?』
キザ竜プロクスの声ではっと我に返ると、真下に大きなお城が見える。すぐ横には湖があって、陽光をキラキラと反射してとても綺麗だ。プロクスはゆっくりと羽ばたきながら地上へ降りた。
「ありがとう、プロクス。また何かあったら頼む」
『フッ。おやすい御用ですよ』
ハル様がお礼を言うとプロクスは再び舞い上がり、上空へ消えた。消えたように見えたけど、実際には高速移動したんだろう。とんでもない暴走タクシーだった。
「兄上ーっ! おかえりなさい!」
プロクスを見送った直後、お城の方から少年の高い声が聞こえてきた。ハル様と同じ銀髪の、八歳ぐらいの男の子だ。彼は小走りしてきてその勢いのままハル様に抱きついた。お兄さんによく似ている。
「ただいま、セルディス。あぁほら、息が切れてるじゃないか。無理して走るなよ」
「だ、だい、じょぶ……。すぐに治まるから……」
セルディスと呼ばれた少年は、胸に手を当ててぜいぜいと苦しそうな呼吸を繰り返した。何かの病気なんだろうか。
プロクスは地面に寝そべり、背中に乗るように促した。私をチラッと見て、『おまえはオマケだ』と呟きながら。
(ぐんぬぅぅうう! なんて偉そうな奴!)
「ペペ、怖いのか? 大丈夫だ。プロクスは見た目は怖いが優しい奴なんだ」
「ペペェエ……!」
(ハル様、騙されてる! そいつが甘いのはアナタにだけです!)
怒りに震える私を見て何か勘違いしたのか、ハル様は私の頭をよしよしと撫でてプロクスの背に乗った。奴は「グォッ」と一声鳴き、空に浮かび上がる。
何か不思議な力でも使っているのか、羽ばたきを一回しただけで一気に空の上だ。さっきまで地面に立ってたのに、今はビルの上ぐらい。
何度も羽ばたきするうちに、とうとう地平線が見えるほど上空に来た。村の家は米粒みたいな大きさだし、こんもりと茂る森の向こうには青い海が見える。
「ペンガーッ!」
(すんごぉい! 本当に空を飛んでる!)
『あまりはしゃいで空から落ちるなよ。ハルディア様のお手をわずらわせるな』
『そんなこと分かってるよ!』
「いい友達が出来て良かったな、ペペ。今から行くのは俺の領地があるリーディガーという都市だ。ロイウェルは王都以外の国土を三つに分割していて、その内の一つを俺たちラルトゥアーク家が治めている。リーディガーはここからだとかなり遠くてな……馬で移動した場合、五日はかかる。でもプロクスなら一瞬で着くんだ」
『フッ。オレにかかれば長距離移動なんてたやすい事ですよ』
プロクスは得意げに言ったが、ハル様には「グオオ」としか聞こえなかっただろう。あの鼻で笑う「フッ」がとにかくウザったい。こいつはとんでもないキザ竜だわ。
「プロクス、そろそろ結界を張る。いつものアレを頼む」
「グオッ!」
「ペエ?」
(いつものアレって何? えっ――えええ!?)
急に風を感じなくなり、不審に思った瞬間、プロクスの移動速度が急激に上がった。ぐんっと体が押しつぶされて、「グエッ」と声が漏れる。これがG――重力加速度か! 戦闘機みたいな感じなんですけど!
「ペンギャアアアア!」
「よしよし。ちょっとの辛抱だからな」
ハル様はのんびりとした口調で言い、私の背中をぽんぽんとあやした。
「ペッ、ペフゥッ! ペェエエ……!」
(違う、怖いんじゃなくて! Gが! Gの圧力が凄いんです!)
プロクスは戦闘機のような速度で空を移動していく。ギュィィィン!と音まで聞こえてきそうだ。でも結界のせいで風も音も感じない。飛行機にはまだ乗ったことがないけど、こんな感じなんだろうか。
『おい、着いたぜ新入り。ヨダレ垂らしてる場合じゃないぞ』
『へ?』
キザ竜プロクスの声ではっと我に返ると、真下に大きなお城が見える。すぐ横には湖があって、陽光をキラキラと反射してとても綺麗だ。プロクスはゆっくりと羽ばたきながら地上へ降りた。
「ありがとう、プロクス。また何かあったら頼む」
『フッ。おやすい御用ですよ』
ハル様がお礼を言うとプロクスは再び舞い上がり、上空へ消えた。消えたように見えたけど、実際には高速移動したんだろう。とんでもない暴走タクシーだった。
「兄上ーっ! おかえりなさい!」
プロクスを見送った直後、お城の方から少年の高い声が聞こえてきた。ハル様と同じ銀髪の、八歳ぐらいの男の子だ。彼は小走りしてきてその勢いのままハル様に抱きついた。お兄さんによく似ている。
「ただいま、セルディス。あぁほら、息が切れてるじゃないか。無理して走るなよ」
「だ、だい、じょぶ……。すぐに治まるから……」
セルディスと呼ばれた少年は、胸に手を当ててぜいぜいと苦しそうな呼吸を繰り返した。何かの病気なんだろうか。
16
お気に入りに追加
2,616
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!
加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。
カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。
落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。
そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。
器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。
失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。
過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。
これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。
彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。
毎日15:10に1話ずつ更新です。
この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる