地味女だけど次期社長と同棲してます。―昔こっぴどく振った男の子が、実は御曹子でした―

千堂みくま

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29 二人の夜2 ※

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「あの……。い、一緒に寝ても、いいですか?」

 綾太さんが硬直するのが分かった。目は限界まで見ひらかれ、口は少しあいた状態で固まっている。私と綾太さんの間に重い沈黙が落ち、呼吸するのさえ辛いぐらいだった。ほんの数秒が何時間にも感じる。

 お願いだからなにか答えて。嫌なら嫌と言ってもいいから。じわじわと涙がにじんだとき、彼が言った。

「……あのさ」


「はっ、はいっ」

 声の硬さと冷ややかな感じから、自分が叱られるのを予感して私は背筋を伸ばした。もう完全に終わりかもしれない。

「僕と一緒に寝て、自分が無傷ですむと思ってるのか?」

 予想外の言葉に、今度は私が固まってしまう。まだ分かっていないのかと、叱られるんだろうと思ったのに。震える唇をやっとの思いで動かした。

「……思ってません。その覚悟でドアをノックしたんです。でも私がこんな事をするのは、あなたにだけだから……。お願いだから、どうか拒まないで」

 とうとう私は泣き出してしまい、目尻から涙をぼろぼろと零した。雫は私の胸元に吸い込まれ、そこだけ部屋着の色が濃くなる。綾太さんが腕を伸ばして私の体を抱き寄せた。

「ひどい事を言わせてごめん……。でも本当にいいのか?」

「いいの……。あなただから」

 少し冷たい唇が私の額に押し当てられる。唇は目元に移って涙を吸い、最後に私の唇に重なった。綾太さんの香りが鼻先をかすめ、額で混じるふたりの髪の毛がさらさらとくすぐったい。薄い部屋着で抱き合っている体の感触が生々しくて、心臓が飛び出してしまいそうだ。

 綾太さんが私の背をそっと押し、部屋の中に招かれる。パタンと閉じられるドアの音がやけに耳に残った。とうとう彼の部屋に入ってしまったのだ。しかもこんな夜中に。
 ベッドのすぐ横まで来たものの、私はガチガチに緊張していた。初めてなのでどうしたらいいのか分からず、端のほうにかしこまって座る。

「……自分から服を脱いでもいいの?」

 私の疑問に綾太さんがふっと笑った。

「僕が脱がせてあげたいから、そのままでいいよ」

 彼はゆっくりと私を寝かせ、愛おしそうに頬にキスをしてくれる。私から頼んだのに、こんなに優しくしてもらえるなんてとても嬉しい。
 体を使って綾太さんの心を繋ぎとめたことに少し胸が痛んだ。卑怯なことをしている自覚はあるけど、今だけは彼に溺れていたい。

「大丈夫か? 怖くなったら教えて。すぐにやめるから」

「大丈夫……。全然怖くない」

 本当に怖くなかった。怯えてもいないし、気分が悪くもない。骨ばった大きな手が部屋着の裾から忍び込んできて、私のわき腹をそろりと撫でる。その瞬間、背筋を悪寒のようなものが駆け抜けた。

「っあ……」

 変な高い声が出てしまい、慌てて口元を押さえる。いまの本当に私の声?

「我慢しなくていいよ。声で気持ちいいのかどうか分かるから、聞かせてほしい」

 綾太さんの言葉に、私はこくんと頷いた。彼がそう言うのなら素直に口にしよう。こんな風に体が反応するのは初めてで、大丈夫だと説明するような余裕はきっとないから。

 綾太さんが私の部屋着のボタンを外しながらもういちど口付けてくる。薄く開いた唇から熱い舌が入ってきて、舌裏をぞろりと舐められると体の奥に火が点ったように感じた。

 緩やかに、だけど確実に体温が上昇していく。すがるように彼の二の腕を掴むと私の手のところだけネイビーの部屋着がくしゃくしゃになり、自分でも体が震えているのが分かった。こんなに深いキスをしたのは初めてで、まるで溺れているみたいに熱くて苦しい。

「はぁっ……」

 ようやく唇が解放され、新鮮な空気を肺に取り込む。私を見下ろす暗灰の瞳は熱を孕み、濡れた唇を舐める表情がぞくりとするほど色っぽかった。男性に色香を感じるなんて変かも知れないけれど。

 いつの間にかボタンが全て外され、胸の膨らみが露わになっていた。じいっと見つめられるのが恥ずかしくて手で隠そうとしたけど、彼の動きのほうが早かった。大きな手のひらが乳房を包みこみ、指先が胸の突起をこするように触れてくる。

 指が触れているのは胸なのに下腹部がじんと疼いて、無意識に太ももをすり合わせた。触られている内に胸の尖りが膨らみ始め、何となく恥ずかしくなって目を閉じ顔を横に向ける。

「ふぁあっ」

 視界を遮った瞬間、胸の谷間に強く吸い付かれて甲高い声が漏れた。ちゅう、と音を立てて唇を離した綾太さんが、私に休む暇を与えることなく赤く膨らんだ尖りを口に含む。舌のざらりとした部分で下から上に舐めあげられると下腹部がカァッと熱くなり、体の奥から熱いものが溢れてくる感じがした。

「んぁ、ああっ、あ……!」

 強い刺激に思わず目を開けてしまった私だったが、すぐに後悔することになった。憧れの人が……大好きな人が、私の胸にかぶりついているのだ。手が届かないと思っていた男性が、私の胸を舐めているのだ。言葉に出来ないぐらい恥ずかしい。

「っ……!」

 両手で顔を隠して悶絶している間に、綾太さんが私のズボンとショーツを一緒くたに脱がしてしまった。膝の裏に手を入れられて左右に開かされる。ますます恥ずかしくなり、私は顔に両手をくっ付けたまま硬直していた。まな板の上で調理を待つ食材のような気分だ。

 しかしいつまで待っても綾太さんが動いてくれず、私は恐る恐る指の間から彼の顔を見上げた。どこか放心したような表情で私の体を見下ろしている。

「……りょ……綾太さん」

「ん?」

「どうして何もしないの……?」

「あ、ごめん。少し見とれてた」

 綾太さんの答えに、脳みそが沸騰しそうな羞恥を感じた。しかも彼はまだ服を着たままで、私だけが素っ裸なのだ。

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