地味女だけど次期社長と同棲してます。―昔こっぴどく振った男の子が、実は御曹子でした―

千堂みくま

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少年の初恋

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 僕にとって、その女の子は天使のような存在だった。大げさかもしれないけど、僕にとっては本当に天使だったんだ。

 住み慣れた東京を離れ、街の作りも雰囲気もまったく異なる京都で暮らし始めた僕は分かりやすく塞ぎこんでいた。学校でも完全に浮いていたし、家にもすぐには帰りたくなくて、放課後はよく古びた神社の片隅で本を読んでいた。

「いつもここで本を読んでるよね。この辺に住んでるの?」

 秋が近づいたある日のこと。神社の石段に座る僕のまえに、その女の子は現れた。
 背中まである癖のない真っすぐな黒髪に、猫のように少し釣りあがった勝気そうな目元。透きとおるような白い肌には長い睫毛の影が落ちている。和装が似合いそうな美少女の出現に、僕は慌てて読んでいた本を閉じた。

「ぼっぼぼ僕のこと?」

 めちゃくちゃ噛んだのに、女の子はくすくす笑ったりせずにじっと僕を見ている。こんなに真っすぐ誰かに見つめられたのは久しぶりだ。僕は見た目がちょっと変だから。

「そうよ。私はまりか。あなたは? 家はこの辺?」

「僕は……アヤ。家はここから少し離れてるけど、上京かみぎょう区に住んでる」

 臆病な僕は本当のことを告げられない。でも家の場所は合ってるから、全部が嘘ってわけじゃないんだ。

「じゃあ私の家からも近いね。アヤちゃんって呼んでもいい?」

「いいよ」

 まりかは優雅な動きで僕の隣に座る。それだけで、この子がいいとこのお嬢さんだと分かった。僕はまりかに尋ねられてぽつぽつとどもりながら話をしたけど、彼女はやっぱり笑ったりせずに聞いてくれる。翌日も、さらに次の日も。何回目の出会いか分からなくなった日、思い切って訊いてみた。

「僕のこと、変だと思わない? 気持ち悪くない?」

 まりかはきょとんとし、首を横にふる。

「変じゃないよ。気持ち悪くもないし。なんでそんなこと訊くの?」

「僕は学校で浮いてるから……。見た目が変でしょ?」

「個性を失うほうが愚かで恐ろしいことなんだって、他の人は分からないのよ。言いたい奴には言わせておけばいいの」

 なんて力強いんだ。僕は感動して思わず涙ぐんでしまった。僕のほうが明らかに年上なのに情けない。
 出会って数ヶ月たつ頃には彼女にすっかり惚れてしまい、いつか告白しようと思うようになった。僕はもうすぐ京都を離れる。その前に、きみに思いを伝えたいんだ。

「ま……まりかちゃん。あのね、僕は……僕はきみが――」

 この時の僕はすっかり舞い上がっていた。思いが伝わると信じ込んでいたんだ。 
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