しつこい公爵が、わたしを逃がしてくれない

千堂みくま

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12 自室にて(ジオルド)

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 自屋に戻ったジオルドは盛大に笑い出していた。先ほどのやり取りが滑稽すぎて、笑わずにはいられなかったのだ。
一人で笑う彼をディアンジェスは静かに見ている。

「どうしたんだい、ジオ。何かおかしかった?」

「っはは! おかしいに決まってるだろ。ノアはきっと善意でバレンの友人になろうとする。政治的な思惑など気にもせずに」

「そうだろうね。彼女がそう思うように話したから」

 この王子は穏やかそうな顔をして腹黒い。ジオルドとディアンは幼馴染で深く知り合った仲だ。ディアンの考えなど分かりきっている。

 弟の応援をしているように見せかけて、第二王子を王位から遠ざけようというのだろう。表向きは弟を支えたいという良心から行動しているように見える。はっきり言って性質たちが悪い。

「君が考えてる通りだよ。私は弟よりも自分の方が王に相応しいと思っている。あの子は母親を亡くしてから、医師になる事だけが生き甲斐だと思い込んでいる……。王になったところで操られるだけだろう」

「まぁそうだな。バレンは人生を賭けて医師を目指しているだろうからな……」

「私はバレンが望む人生を歩ませてやりたい。それを邪魔する者たちには容赦しないつもりだ。ジオも私を手伝ってくれるんだろう?」

「ああ、勿論」

「そう言ってくれると思ったよ。計画が上手く行ったら、ノアの身分も私が何とかしてあげよう」

「――なぜ急にノアの話をする?」

「なぜって君ね。彼女の背中のあざ、君が付けたんだろう。見せつけるように背中の開いた服を着せてさ……相変わらずやる事が悪趣味だな。まぁ綺麗な子だし、独り占めしたい気持ちは分かるよ」

「…………」

「それに彼女の首のチョーカー。あれ、王宮魔術師長に作らせた物だろ。あの偏屈じいさんに仕事させるなんて、一体いくらつぎ込んだの?」

「うるさいな。俺がノアをどうこうしようとディアンには関係ないだろ」

「まぁそうだけどね……」

 ディアンは呆れたような顔でジオルドを見た。彼の顔から「分かってないんだな」という無言のメッセージを感じとり、ジオルドは少しばかり不機嫌になった。

「さて、私はそろそろ城へ戻るよ。君はどうする?」

「俺は戻らない。今日の分の仕事は終えたからな」

「ジオ……。大臣という要職についていながらさっさと帰るのは君ぐらいだぞ」

「俺がするのは重要な判断と責任を取ることだけだ。事務処理など他の人間にも出来るし、俺がいない方が文官たちも早く帰れるからいいだろ」


 ディアンは苦笑しながらジオルドに別れを告げ、王宮へ戻って行った。
 第一王子を見送ったジオルドは、いそいそとノアの部屋に向かう。

 ノアを屋敷に住まわせるようになってから妙に楽しい。日々が充実しているように感じる。

 俺の人生にはやはりノアが必要なのだ。
 ノアをいじくり倒している時こそ、俺の精神は満たされるのだ。

 ノックもせずに無遠慮にドアを開けると、ノアは動じることなく本を読んでいた。この女は集中すると音が聞こえなくなるらしい。
 寝ている間だって体中に吸い付いても起きなかった。少しイタズラしてやろうか。

 ジオルドはノアの背後に回り込んで、彼女の黒髪をかき分けた。うなじにも背中にも赤い痣がついている。
 それを満足そうに見たあと、痣を上書きするように唇でなぞった。ノアは一瞬だけぴく、と反応したが、やはり本に集中している。

 ―――面白くない。本など置いて、俺を見ろ。

 ジオルドは白いうなじにがぷりと噛み付いた。

「いったぁ! えっ、何……ジオルド様!?」

「精が出るな。少し休憩したらどうだ?」

「もうちょっと普通に声をかけてくださいよ……。噛む必要ないでしょ」

 ノアはぶつくさ言いながらうなじを手でさすっている。シュウに茶でも淹れさせようかと思っていると、そのシュウが部屋に入ってきた。

「ジオルド様。騎士団より魔獣討伐の支援要請が出ております。至急、現地まで来て欲しいと」

「くそっ……。いいか、ノア。俺が帰るまで寝るなよ」

「はあ」

 ノアはきょとんとした顔で返事した。小首をかしげる動作が小悪魔的に可愛くて、めちゃくちゃにしてやりたくなる。ジオルドはぐっと唇を噛みしめてノアの部屋から出た。

 あいつに向けるはずだった欲望は、全て魔獣にぶつけてしまおう。
 帰ってきたらノアを猫にして思いっきり可愛がってやろう。
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