18 / 51
18 初イベント2
しおりを挟む
ディオン学園の教室は広い。高校の教室の数倍で、大学の講義室に近い広さだ。部屋の面積に合わせたように黒板も大きく、いちばん後ろに座ってもよく見える。座る席は生徒が自由に選べるので、私は最後列の窓ぎわに座った。いわゆる窓ぎわ族の場所である。
初日から遅刻した挙句、学園内で最も目立つ人物と教室に来てしまった。当然のように令嬢たちは私をちらちらと見て「なぜ?」と不審そうな顔をしている。
おのれの愚かさが口惜しい。イベントに関わりたくなかったから隠れていたのに、逆にそれが仇となるとは!
授業の合間にある休み時間、アリシア達が私の方へやってきた。
「ルシーフェル様、朝はどうなさったんですか?」
「もしかして、体調を崩されましたの?」
「いえ、ちょっと……。実は登校の途中に転んでしまって、たまたま通りがかった殿下に助けていただいたのです」
「たまたまと仰るなら、狙った訳ではありませんのね?」
ウェンディとイレーヌの間から、新たな茶髪の令嬢が現れて私に尋ねた。えぇと、誰だっけ。こんな令嬢ゲームにいたかな?
茶髪の令嬢はすっとお辞儀をし、私に向かって挨拶をする。
「初めまして、ルシーフェル様。わたくしはギールトン伯爵令嬢、クラリッサと申します」
忘れていたが、この『ティナ恋』の世界において私は最も身分の高い少女である。公爵家の令嬢はまだ3歳であり、ゲームには登場しないからだ。だから自分から挨拶する機会はほとんどない。私は基本的に返すだけ。
でも別に、偉そうに振る舞っているわけではありませんのでね。そういう世界ですからね。
「ご丁寧に、どうも。ルシーフェルですわ。よろし……」
「さっそくお聞きしたいのですけど、ルシーフェル様は殿下と特別な仲ではございませんのね? 朝はたまたまご一緒したと……そういう事ですわね!?」
「え、ええ。本当の本当に、偶然ですわ」
なんという剣幕。クラリッサが目をギラつかせてぐいぐい来るので、私は椅子に座ったまま窓の方に後ずさった。どうしてそこまで必死なのか分からない。
私の返答を聞いたクラリッサは満足そうに頷き、離れて行った。押しのけられたウェンディとイレーヌが怒っている。
「何なの、あの方。必死すぎて失礼だわ」
「なにも押すことないのに!」
「どうして必死なのかしら。私は転んで助けてもらっただけなんだけど……」
首をかしげて不思議そうにすると、アリシアが苦笑した。
「殿下も在学中に婚約者をお決めになるからですわ。つまり、学園にいる令嬢は皆お妃さまになれるチャンスがあるという事なんです。ああいう方は結構いらっしゃると思いますよ」
「そ、そうよね。うっかりしてたわ……。気をつけないとね」
学園で最も身分の高い女性が私である以上、ライバル視されるのは当然だ。でも殿下の婚約者は、伯爵以上の爵位をもつ貴族の令嬢であれば誰でもいいはずである。
ヒロインのティナは男爵家の令嬢だけど、ゲームの最後に何かをクリアする事によって殿下と結ばれていた――と思う。
何だっけ。なにをクリアするんだっけ? お、思い出せない……。
とりあえず、必要以上にキラキラしたイケメンに近づかなければ大丈夫だろう。奴らは金だの赤だの目立つ色をしているからすぐに分かる。無問題だ。
初日から遅刻した挙句、学園内で最も目立つ人物と教室に来てしまった。当然のように令嬢たちは私をちらちらと見て「なぜ?」と不審そうな顔をしている。
おのれの愚かさが口惜しい。イベントに関わりたくなかったから隠れていたのに、逆にそれが仇となるとは!
授業の合間にある休み時間、アリシア達が私の方へやってきた。
「ルシーフェル様、朝はどうなさったんですか?」
「もしかして、体調を崩されましたの?」
「いえ、ちょっと……。実は登校の途中に転んでしまって、たまたま通りがかった殿下に助けていただいたのです」
「たまたまと仰るなら、狙った訳ではありませんのね?」
ウェンディとイレーヌの間から、新たな茶髪の令嬢が現れて私に尋ねた。えぇと、誰だっけ。こんな令嬢ゲームにいたかな?
茶髪の令嬢はすっとお辞儀をし、私に向かって挨拶をする。
「初めまして、ルシーフェル様。わたくしはギールトン伯爵令嬢、クラリッサと申します」
忘れていたが、この『ティナ恋』の世界において私は最も身分の高い少女である。公爵家の令嬢はまだ3歳であり、ゲームには登場しないからだ。だから自分から挨拶する機会はほとんどない。私は基本的に返すだけ。
でも別に、偉そうに振る舞っているわけではありませんのでね。そういう世界ですからね。
「ご丁寧に、どうも。ルシーフェルですわ。よろし……」
「さっそくお聞きしたいのですけど、ルシーフェル様は殿下と特別な仲ではございませんのね? 朝はたまたまご一緒したと……そういう事ですわね!?」
「え、ええ。本当の本当に、偶然ですわ」
なんという剣幕。クラリッサが目をギラつかせてぐいぐい来るので、私は椅子に座ったまま窓の方に後ずさった。どうしてそこまで必死なのか分からない。
私の返答を聞いたクラリッサは満足そうに頷き、離れて行った。押しのけられたウェンディとイレーヌが怒っている。
「何なの、あの方。必死すぎて失礼だわ」
「なにも押すことないのに!」
「どうして必死なのかしら。私は転んで助けてもらっただけなんだけど……」
首をかしげて不思議そうにすると、アリシアが苦笑した。
「殿下も在学中に婚約者をお決めになるからですわ。つまり、学園にいる令嬢は皆お妃さまになれるチャンスがあるという事なんです。ああいう方は結構いらっしゃると思いますよ」
「そ、そうよね。うっかりしてたわ……。気をつけないとね」
学園で最も身分の高い女性が私である以上、ライバル視されるのは当然だ。でも殿下の婚約者は、伯爵以上の爵位をもつ貴族の令嬢であれば誰でもいいはずである。
ヒロインのティナは男爵家の令嬢だけど、ゲームの最後に何かをクリアする事によって殿下と結ばれていた――と思う。
何だっけ。なにをクリアするんだっけ? お、思い出せない……。
とりあえず、必要以上にキラキラしたイケメンに近づかなければ大丈夫だろう。奴らは金だの赤だの目立つ色をしているからすぐに分かる。無問題だ。
2
お気に入りに追加
1,984
あなたにおすすめの小説
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
【完結済】悪役になりきれなかったので、そろそろ引退したいと思います。
木嶋うめ香
恋愛
私、突然思い出しました。
前世は日本という国に住む高校生だったのです。
現在の私、乙女ゲームの世界に転生し、お先真っ暗な人生しかないなんて。
いっそ、悪役として散ってみましょうか?
悲劇のヒロイン気分な主人公を目指して書いております。
以前他サイトに掲載していたものに加筆しました。
サクッと読んでいただける内容です。
マリア→マリアーナに変更しました。
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
農地スローライフ、始めました~婚約破棄された悪役令嬢は、第二王子から溺愛される~
可児 うさこ
恋愛
前世でプレイしていたゲームの悪役令嬢に転生した。公爵に婚約破棄された悪役令嬢は、実家に戻ったら、第二王子と遭遇した。彼は王位継承より農業に夢中で、農地を所有する実家へ見学に来たらしい。悪役令嬢は彼に一目惚れされて、郊外の城で一緒に暮らすことになった。欲しいものを何でも与えてくれて、溺愛してくれる。そんな彼とまったり農業を楽しみながら、快適なスローライフを送ります。
全力で断罪回避に挑んだ悪役令嬢が婚約破棄された訳...
haru.
恋愛
乙女ゲームに転生してると気づいた悪役令嬢は自分が断罪されないようにあらゆる対策を取っていた。
それなのに何でなのよ!この状況はッ!?
「お前がユミィを害そうとしていたのはわかっているんだッ!この性悪女め!お前とは婚約破棄をする!!」
目の前で泣いているヒロインと私を責めたてる婚約者。
いや......私、虐めもしてないし。
この人と関わらないように必死で避けてたんですけど.....
何で私が断罪されてるのよ━━━ッ!!!
悪役令嬢に転生したのですが、フラグが見えるのでとりま折らせていただきます
水無瀬流那
恋愛
転生先は、未プレイの乙女ゲーの悪役令嬢だった。それもステータスによれば、死ぬ確率は100%というDEATHエンド確定令嬢らしい。
このままでは死んでしまう、と焦る私に与えられていたスキルは、『フラグ破壊レベル∞』…………?
使い方も詳細も何もわからないのですが、DEATHエンド回避を目指して、とりまフラグを折っていこうと思います!
※小説家になろうでも掲載しています
悪役令嬢の取り巻き令嬢(モブ)だけど実は影で暗躍してたなんて意外でしょ?
無味無臭(不定期更新)
恋愛
無能な悪役令嬢に変わってシナリオ通り進めていたがある日悪役令嬢にハブられたルル。
「いいんですか?その態度」
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる