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18 初イベント2

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 ディオン学園の教室は広い。高校の教室の数倍で、大学の講義室に近い広さだ。部屋の面積に合わせたように黒板も大きく、いちばん後ろに座ってもよく見える。座る席は生徒が自由に選べるので、私は最後列の窓ぎわに座った。いわゆる窓ぎわ族の場所である。

 初日から遅刻した挙句、学園内で最も目立つ人物と教室に来てしまった。当然のように令嬢たちは私をちらちらと見て「なぜ?」と不審そうな顔をしている。
 おのれの愚かさが口惜しい。イベントに関わりたくなかったから隠れていたのに、逆にそれが仇となるとは!

 授業の合間にある休み時間、アリシア達が私の方へやってきた。

「ルシーフェル様、朝はどうなさったんですか?」

「もしかして、体調を崩されましたの?」

「いえ、ちょっと……。実は登校の途中に転んでしまって、たまたま通りがかった殿下に助けていただいたのです」

「たまたまと仰るなら、狙った訳ではありませんのね?」

 ウェンディとイレーヌの間から、新たな茶髪の令嬢が現れて私に尋ねた。えぇと、誰だっけ。こんな令嬢ゲームにいたかな?
 茶髪の令嬢はすっとお辞儀をし、私に向かって挨拶をする。

「初めまして、ルシーフェル様。わたくしはギールトン伯爵令嬢、クラリッサと申します」

 忘れていたが、この『ティナ恋』の世界において私は最も身分の高い少女である。公爵家の令嬢はまだ3歳であり、ゲームには登場しないからだ。だから自分から挨拶する機会はほとんどない。私は基本的に返すだけ。
 でも別に、偉そうに振る舞っているわけではありませんのでね。そういう世界ですからね。

「ご丁寧に、どうも。ルシーフェルですわ。よろし……」

「さっそくお聞きしたいのですけど、ルシーフェル様は殿下と特別な仲ではございませんのね? 朝はたまたまご一緒したと……そういう事ですわね!?」

「え、ええ。本当の本当に、偶然ですわ」

 なんという剣幕。クラリッサが目をギラつかせてぐいぐい来るので、私は椅子に座ったまま窓の方に後ずさった。どうしてそこまで必死なのか分からない。

 私の返答を聞いたクラリッサは満足そうに頷き、離れて行った。押しのけられたウェンディとイレーヌが怒っている。

「何なの、あの方。必死すぎて失礼だわ」

「なにも押すことないのに!」

「どうして必死なのかしら。私は転んで助けてもらっただけなんだけど……」

 首をかしげて不思議そうにすると、アリシアが苦笑した。

「殿下も在学中に婚約者をお決めになるからですわ。つまり、学園にいる令嬢は皆お妃さまになれるチャンスがあるという事なんです。ああいう方は結構いらっしゃると思いますよ」

「そ、そうよね。うっかりしてたわ……。気をつけないとね」

 学園で最も身分の高い女性が私である以上、ライバル視されるのは当然だ。でも殿下の婚約者は、伯爵以上の爵位をもつ貴族の令嬢であれば誰でもいいはずである。

 ヒロインのティナは男爵家の令嬢だけど、ゲームの最後に何かをクリアする事によって殿下と結ばれていた――と思う。
 何だっけ。なにをクリアするんだっけ? お、思い出せない……。

 とりあえず、必要以上にキラキラしたイケメンに近づかなければ大丈夫だろう。奴らは金だの赤だの目立つ色をしているからすぐに分かる。無問題モウマンタイだ。
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