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5 鉛筆が痛い
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翌日は早めに起き、洗顔後にさっそく鏡を見ながら眉毛を書いた。痛い。鉛筆めっちゃ痛い。今後も眉毛を継続することを考えると、眉ペンシル的なものを開発すべきだろう。
「おはようございます。お父さま、お母さま」
食堂で挨拶すると、二人は呆然と私の顔を見つめた。
お父さまなんて口をワナワナと震わせている。
「どっどうしたんだルシー! もともと可愛かったのに、天使のように愛くるしくなってるじゃないか! おお神よ……! 我が娘を守りたまえ!」
「ああ、眉毛を書いたのね。不思議だわ、眉毛だけで一段と可愛らしくなるなんて……!」
良かった、両親の反応は上々だ。二人から貰った体にイタズラ書きするようなものかなと不安だったけど、これなら安心して眉ペンシルの開発に乗り出せる。
「今日、工房にお邪魔しようかと思うんです。行っても大丈夫でしょうか?」
「ルシーが工房に行くなんて久しぶりだな。親方も喜ぶだろう。でも絶っっ対に騎士をつけて行くんだぞ? もうルシーの可愛さは天使レベルだからな。天の使い――つまり人間を超えている! 腕の立つ者をつけるから、安心して行きなさい」
「ふふっ、あなたったら本当に心配性なんだから。でも気をつけて行くのよ?」
「はい。ありがとうございます」
お父さまの親バカぶりに少々引きつつ、朝食を終えようとした。が、執事がなぜか追加でデザートを運んでくる。
「今日は品数が多いですね。料理長どうしたんだろう……」
「昨日のお礼だと申しておりました。詳細は伺っておりませんが、特にお嬢さまに召し上がって頂きたいとのことです」
ああ、べっこう飴のお礼か。料理長も義理がたい男だわね。
私は執事からデザートがのった皿とスプーンを受けとり、プディングを食べ始めた。うむ、おいしい。この世界って日本より文化が遅れているはずなのに、食べ物だけは同じレベルなのだ。さすがにしょう油や味噌はないが、食べ物がおいしくて良かったと思う。
デザートを食べ終え、お辞儀をしてから食堂を出た。廊下に出た瞬間からガタイのいい騎士が背後から付いてくる。もう護衛が始まっているらしい。
お父さまの仕事の早さに舌を巻きつつ、ストーキングされてるようで微妙な気分だ。前世日本人なせいか、騎士に慣れるのは時間がかかるかも。
ふと振り返って騎士のほうを見ると、彼も私の顔をみてギョッと立ち止まった。驚いてる、驚いてる。眉毛の威力をたっぷりと味わうがいい……! いや別に、苦しめって意味じゃないけどね。
「エマ、さっそくだけど工房に行きましょう。準備してもらえる?」
「はい!」
自分の部屋に戻り、外出着にきがえる。『ティナ恋』は中世のヨーロッパがモデルとあって、貴族の令嬢が生足を出すのはご法度だ。すそが膝上のスカートを履く場合には、長いブーツで足を隠さないと行けない。
今から着がえる服も当然ながら丈の長いドレスで、ウエスト部分は緩いもののやはり熱い。ああ、扇風機が恋しい……。
「あ、そうだ。魔法で風とか出せないかしら?」
ゲームの登場人物はみんな魔法が使えたはずだ。魔法を使う少女が活躍するゲームなんだから当然である。私は両手を前に突き出し、う~んと念力を込めた。が、しかし。
「あれ? 手をかざしても何も出てこない……」
「もうお嬢さまったら、忘れちゃったんですか? 魔法は王都のディオン学園に入って、洗礼を受けないと使えないんですよ。旦那さまから説明を受けたでしょう?」
「え、ええ。そうか、そうだったわね……」
今さらだけど思い出した。そう言えばゲームの序盤、魔法の授業で何かしてから能力が覚醒するんだっけ。でも電化製品みたいにスイッチ入れて「はい、今日から使えますよ」という能力おかしくない? さすがゲームの世界だ。
着替え終えた私は昨日がんばって書いたデザイン画を手に取り、部屋を出た。後ろから当然のようにエマと騎士がついて来る。はあ、貴族の令嬢って大変だな。これじゃこっそり買い食いもできないじゃないか。
玄関と呼んでいいのか分からないほど広いエントランスを出ると、すぐそこに馬車が用意されていた。これは便利だ。貴族サイコー!
「最高かと思ったけど、やっぱり暑いわね……。もう初夏だしね」
「お嬢さま、扇をどうぞ。あたしも風を送りますから」
「うん、ありがと」
太陽が照りつける馬車の中は当然ながら暑かった。でもエマも暑いはずなのに、私に向かって懸命に扇を動かしている。貴族としていい暮らしをしてるんだから、エアコンがないぐらいは我慢しなきゃなぁ……。
馬車のすぐ横で騎士が馬に乗ってるけど、暑さなんて全く感じさせない表情だ。これぞプロフェッショナル。
「おはようございます。お父さま、お母さま」
食堂で挨拶すると、二人は呆然と私の顔を見つめた。
お父さまなんて口をワナワナと震わせている。
「どっどうしたんだルシー! もともと可愛かったのに、天使のように愛くるしくなってるじゃないか! おお神よ……! 我が娘を守りたまえ!」
「ああ、眉毛を書いたのね。不思議だわ、眉毛だけで一段と可愛らしくなるなんて……!」
良かった、両親の反応は上々だ。二人から貰った体にイタズラ書きするようなものかなと不安だったけど、これなら安心して眉ペンシルの開発に乗り出せる。
「今日、工房にお邪魔しようかと思うんです。行っても大丈夫でしょうか?」
「ルシーが工房に行くなんて久しぶりだな。親方も喜ぶだろう。でも絶っっ対に騎士をつけて行くんだぞ? もうルシーの可愛さは天使レベルだからな。天の使い――つまり人間を超えている! 腕の立つ者をつけるから、安心して行きなさい」
「ふふっ、あなたったら本当に心配性なんだから。でも気をつけて行くのよ?」
「はい。ありがとうございます」
お父さまの親バカぶりに少々引きつつ、朝食を終えようとした。が、執事がなぜか追加でデザートを運んでくる。
「今日は品数が多いですね。料理長どうしたんだろう……」
「昨日のお礼だと申しておりました。詳細は伺っておりませんが、特にお嬢さまに召し上がって頂きたいとのことです」
ああ、べっこう飴のお礼か。料理長も義理がたい男だわね。
私は執事からデザートがのった皿とスプーンを受けとり、プディングを食べ始めた。うむ、おいしい。この世界って日本より文化が遅れているはずなのに、食べ物だけは同じレベルなのだ。さすがにしょう油や味噌はないが、食べ物がおいしくて良かったと思う。
デザートを食べ終え、お辞儀をしてから食堂を出た。廊下に出た瞬間からガタイのいい騎士が背後から付いてくる。もう護衛が始まっているらしい。
お父さまの仕事の早さに舌を巻きつつ、ストーキングされてるようで微妙な気分だ。前世日本人なせいか、騎士に慣れるのは時間がかかるかも。
ふと振り返って騎士のほうを見ると、彼も私の顔をみてギョッと立ち止まった。驚いてる、驚いてる。眉毛の威力をたっぷりと味わうがいい……! いや別に、苦しめって意味じゃないけどね。
「エマ、さっそくだけど工房に行きましょう。準備してもらえる?」
「はい!」
自分の部屋に戻り、外出着にきがえる。『ティナ恋』は中世のヨーロッパがモデルとあって、貴族の令嬢が生足を出すのはご法度だ。すそが膝上のスカートを履く場合には、長いブーツで足を隠さないと行けない。
今から着がえる服も当然ながら丈の長いドレスで、ウエスト部分は緩いもののやはり熱い。ああ、扇風機が恋しい……。
「あ、そうだ。魔法で風とか出せないかしら?」
ゲームの登場人物はみんな魔法が使えたはずだ。魔法を使う少女が活躍するゲームなんだから当然である。私は両手を前に突き出し、う~んと念力を込めた。が、しかし。
「あれ? 手をかざしても何も出てこない……」
「もうお嬢さまったら、忘れちゃったんですか? 魔法は王都のディオン学園に入って、洗礼を受けないと使えないんですよ。旦那さまから説明を受けたでしょう?」
「え、ええ。そうか、そうだったわね……」
今さらだけど思い出した。そう言えばゲームの序盤、魔法の授業で何かしてから能力が覚醒するんだっけ。でも電化製品みたいにスイッチ入れて「はい、今日から使えますよ」という能力おかしくない? さすがゲームの世界だ。
着替え終えた私は昨日がんばって書いたデザイン画を手に取り、部屋を出た。後ろから当然のようにエマと騎士がついて来る。はあ、貴族の令嬢って大変だな。これじゃこっそり買い食いもできないじゃないか。
玄関と呼んでいいのか分からないほど広いエントランスを出ると、すぐそこに馬車が用意されていた。これは便利だ。貴族サイコー!
「最高かと思ったけど、やっぱり暑いわね……。もう初夏だしね」
「お嬢さま、扇をどうぞ。あたしも風を送りますから」
「うん、ありがと」
太陽が照りつける馬車の中は当然ながら暑かった。でもエマも暑いはずなのに、私に向かって懸命に扇を動かしている。貴族としていい暮らしをしてるんだから、エアコンがないぐらいは我慢しなきゃなぁ……。
馬車のすぐ横で騎士が馬に乗ってるけど、暑さなんて全く感じさせない表情だ。これぞプロフェッショナル。
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