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42 泣いてたまるか
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数回ノックされたドアを開けると、ケニーシャ様とふたりの騎士が立っていた。
ウェイドとエルビンではなく、皇城にいる近衛騎士である。
「なにかご用でしょうか?」
「巫女様、皇帝陛下がお呼びです」
騎士の一人が告げ、私に部屋の外へ出るように促してくる。
皇帝陛下?
陛下が私に会ってくださるの!?
やった、と喜びかけたとき、騎士の後ろに立つケニーシャ様と目が合った。ひどく不安そうな顔で、何か言いたげに私を見ている。うれしいと感じた気分は瞬時に消え去った。
どうやら良い出来事ではないらしい。
私はケニーシャ様を見つめながらかすかに頷き、騎士と一緒に部屋を出た。
カリエは同行を許されなかったので、私だけが本宮へ向かう。
皇太子宮を出ると馬車が用意されていた。
本宮は遠すぎて、ドレスを着た女性が歩ける距離ではない。私は大人しく馬車にのり、窓から流れる景色を見ていた。
やがて巨大な本宮へ到着し、長い廊下を進んで謁見の間を目指す。奥へ進むにつれて廊下が広くなり、重厚な雰囲気に押しつぶされそうだった。
漆黒の巨大な扉が現れ、両わきに立った騎士がゆっくりとそれを開く。
長い、長い真紅の絨毯。
ずっと先に玉座があり、黒髪の男性が座っているのが見える。レクアム様とフェリオスによく似た人物。
彼らの父親――皇帝ウラノスだ。
私はしずしずと歩き、皇帝から離れた場所で跪いた。
ただ見られているだけなのに、肌に突き刺すような嫌悪や敵意を感じる。
私は歓迎されていない。
ならば何故、呼んだのだろう?
「巫女、か。噂どおりの見た目だな。その不自然な色彩の髪は、見ているだけで不快だ」
ああ、やっぱり。
予想以上に嫌われている。
「顔を見せろ」
歯を食いしばって皇帝を見つめる。
好きな人とほとんど同じ顔だ。
でもそこに浮かんでいるのは嫌悪――いや、憎悪だろうか。
「おまえはフェリオスと結ばれたいと望んでいるようだが……。残念だったな、その望みは叶わない。相手がいなければ結ばれようが無いだろうに。憐れな女だ」
「え……?」
相手がいない?
私は視線だけで謁見の間を見わたした。フェリオスがどこかにいる様子はない。
「陛下、フェリオス様に会わせてくださいませ!」
「誰が口を開いてよいと言った? 黙っていろ」
有無を言わせぬ口調に黙りこむ。
泣きそうになるのをこらえるだけで精一杯だ。
――フェリオス様……!
「おまえに仕事を与える。巫女というのは薬師でもあるのだろう? あれを治すことが出来たら、おまえが生きることを許そう。――巫女をあの場所へ連れて行け」
「っ、……!!」
両わきから騎士に腕をとられ、無理やり引っ張られる。
つま先が浮き、腕の痛みに涙がにじんだが必死で我慢した。
泣いてたまるか!
私は絶対に負けないからね!!
ほとんど意地だけで気力をもたせ、涙を流すことなく謁見の間を出る。
非道皇帝の前でめそめそ泣くのは絶対にいやだった。
「ララシーナ、こちらへ」
「れ、レクアム様! フェリオス様は……!?」
廊下にレクアム様が立ち、私を手招きしている。
駆けよって彼の腕にすがると、レクアム様は唇に指をあてた。
「しっ、静かに。今は詳しいことは話せない。とりあえず、父の命令に従う素振りをして。きみは私に協力すると言っただろう」
「は、はいっ……」
切迫した雰囲気に思わず返事をしてしまった。
どうやらレクアム様は、フェリオスの行方を知っているらしい。
私は尋ねたいのを何とかこらえ、彼のあとを追うように歩き出した。
ウェイドとエルビンではなく、皇城にいる近衛騎士である。
「なにかご用でしょうか?」
「巫女様、皇帝陛下がお呼びです」
騎士の一人が告げ、私に部屋の外へ出るように促してくる。
皇帝陛下?
陛下が私に会ってくださるの!?
やった、と喜びかけたとき、騎士の後ろに立つケニーシャ様と目が合った。ひどく不安そうな顔で、何か言いたげに私を見ている。うれしいと感じた気分は瞬時に消え去った。
どうやら良い出来事ではないらしい。
私はケニーシャ様を見つめながらかすかに頷き、騎士と一緒に部屋を出た。
カリエは同行を許されなかったので、私だけが本宮へ向かう。
皇太子宮を出ると馬車が用意されていた。
本宮は遠すぎて、ドレスを着た女性が歩ける距離ではない。私は大人しく馬車にのり、窓から流れる景色を見ていた。
やがて巨大な本宮へ到着し、長い廊下を進んで謁見の間を目指す。奥へ進むにつれて廊下が広くなり、重厚な雰囲気に押しつぶされそうだった。
漆黒の巨大な扉が現れ、両わきに立った騎士がゆっくりとそれを開く。
長い、長い真紅の絨毯。
ずっと先に玉座があり、黒髪の男性が座っているのが見える。レクアム様とフェリオスによく似た人物。
彼らの父親――皇帝ウラノスだ。
私はしずしずと歩き、皇帝から離れた場所で跪いた。
ただ見られているだけなのに、肌に突き刺すような嫌悪や敵意を感じる。
私は歓迎されていない。
ならば何故、呼んだのだろう?
「巫女、か。噂どおりの見た目だな。その不自然な色彩の髪は、見ているだけで不快だ」
ああ、やっぱり。
予想以上に嫌われている。
「顔を見せろ」
歯を食いしばって皇帝を見つめる。
好きな人とほとんど同じ顔だ。
でもそこに浮かんでいるのは嫌悪――いや、憎悪だろうか。
「おまえはフェリオスと結ばれたいと望んでいるようだが……。残念だったな、その望みは叶わない。相手がいなければ結ばれようが無いだろうに。憐れな女だ」
「え……?」
相手がいない?
私は視線だけで謁見の間を見わたした。フェリオスがどこかにいる様子はない。
「陛下、フェリオス様に会わせてくださいませ!」
「誰が口を開いてよいと言った? 黙っていろ」
有無を言わせぬ口調に黙りこむ。
泣きそうになるのをこらえるだけで精一杯だ。
――フェリオス様……!
「おまえに仕事を与える。巫女というのは薬師でもあるのだろう? あれを治すことが出来たら、おまえが生きることを許そう。――巫女をあの場所へ連れて行け」
「っ、……!!」
両わきから騎士に腕をとられ、無理やり引っ張られる。
つま先が浮き、腕の痛みに涙がにじんだが必死で我慢した。
泣いてたまるか!
私は絶対に負けないからね!!
ほとんど意地だけで気力をもたせ、涙を流すことなく謁見の間を出る。
非道皇帝の前でめそめそ泣くのは絶対にいやだった。
「ララシーナ、こちらへ」
「れ、レクアム様! フェリオス様は……!?」
廊下にレクアム様が立ち、私を手招きしている。
駆けよって彼の腕にすがると、レクアム様は唇に指をあてた。
「しっ、静かに。今は詳しいことは話せない。とりあえず、父の命令に従う素振りをして。きみは私に協力すると言っただろう」
「は、はいっ……」
切迫した雰囲気に思わず返事をしてしまった。
どうやらレクアム様は、フェリオスの行方を知っているらしい。
私は尋ねたいのを何とかこらえ、彼のあとを追うように歩き出した。
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