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35 皇都へ
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ハートンから皇都へは二日かかる。
私たちは途中の都市で一泊し、翌日も朝から馬車に揺られた。
日が沈む頃になってようやく皇都ラビロニアへ入り、フェリオスがぽつりと言う。
「ララシーナ。夕日の横にあるのが皇城だ」
「あれが……」
巨大な城が夕日に照らされ赤く染まっている。白い城壁は真紅に、鋭くとがった塔の先端は漆黒に塗りつぶされ、異様な雰囲気だった。
なぜか拒絶されているような気がして、思わず体を抱きしめてしまう。
私が巫女姫だからそう感じるのかも知れない。
私たちが乗った馬車は城の門をくぐり、分岐点で東側の道に進んだ。荘厳な本宮にくらべ、瀟洒な作りの建物――皇太子宮が見える。
「ようこそお越しくださいました。主に代わり歓迎いたします」
エントランスに入った私たちを、皇太子の婚約者であるケニーシャ様が出迎えてくれた。
蜂蜜のような金の髪とアメジスト色の瞳を持つ美女だ。私よりもやや背が高く、しかも胸元も豊かである。正直に言って、羨ましい。
ケニーシャ様は私たちを別々の客間へ案内した。まだ婚約しているだけなので、部屋を分けてくれたらしい。
ほっとしたような、残念なような。
「結婚したら同じお部屋ですからね。姫様、元気だしてください」
「べ、別に、がっかりしてるわけじゃないわ!」
私の失望を感じ取ったカリエが慰めるように言ったが、考えてみたら部屋が別々なのは当たり前だ。皇帝陛下が結婚を認めていないのに、その陛下がいる皇城で私たちが同じ部屋というのはあり得ない。
「私、頑張るわ。結婚を認めていただけるまで、しつこく皇都に居座ってみせる!」
「でもそれだと、お留守番してるイリオン殿下はキツイんじゃないですか?」
「……そうかもね。イリオン様のこと忘れてたわ」
今回の夜会にはイリオン皇子は不参加である。彼はフェリオスに言われてハートンに残ったので、今ごろ執務室で膨大な書類に囲まれているだろう。
想像すると確かに可哀相かも。
フェリオスは夕食の席に現れなかった。皇帝と皇太子に挨拶をしに行ったとのことで、遅くなるから先に休むようにとの事だ。
ケニーシャ様と同席して夕食をいただいたが、緊張しているためかほとんど味がしない。
皇太子に認めて欲しいんだから、ケニーシャ様にも認めてもらった方がいいのよね?
もっとお洒落なドレスを着たほうが良かったかしら。
「ララシーナ様、緊張なさらなくても大丈夫ですよ。陛下が皇太子宮へ来ることはまずありません。今夜はわたくし達だけで、ゆっくりと食事を楽しみましょう」
「はい……!」
私が陛下に嫌われている事をご存知のようだけど、かと言って軽んじるような発言もなさらない。気遣ってくれている。
いい人だ……!
美人で尚かつ性格までいいなんて、すごい事だわ。
エンヴィードの上位貴族の中から選ばれた、たった一人の妃として相応しい方である。
すっかり緊張がほぐれた私は、調子にのってデザートまで残さず頂いてしまった。ケニーシャ様に食事のお礼を言って部屋に下がり、湯浴みのあとに寝台へ横になる。
「明日はいよいよ夜会か……。レクアム様にお会いできるかしら」
今日は会えずじまいだったし、明日こそ挨拶ぐらいはしたい。皇太子だからかなり多忙だろうが、私だって目的を果たさずにハートンへ帰るわけにはいかないのだ。
フェリオスもイリオンも、なぜか兄である皇太子の容貌を教えてくれない。
明日の夜会でレクアム様を見つけられるか不安だった。
私たちは途中の都市で一泊し、翌日も朝から馬車に揺られた。
日が沈む頃になってようやく皇都ラビロニアへ入り、フェリオスがぽつりと言う。
「ララシーナ。夕日の横にあるのが皇城だ」
「あれが……」
巨大な城が夕日に照らされ赤く染まっている。白い城壁は真紅に、鋭くとがった塔の先端は漆黒に塗りつぶされ、異様な雰囲気だった。
なぜか拒絶されているような気がして、思わず体を抱きしめてしまう。
私が巫女姫だからそう感じるのかも知れない。
私たちが乗った馬車は城の門をくぐり、分岐点で東側の道に進んだ。荘厳な本宮にくらべ、瀟洒な作りの建物――皇太子宮が見える。
「ようこそお越しくださいました。主に代わり歓迎いたします」
エントランスに入った私たちを、皇太子の婚約者であるケニーシャ様が出迎えてくれた。
蜂蜜のような金の髪とアメジスト色の瞳を持つ美女だ。私よりもやや背が高く、しかも胸元も豊かである。正直に言って、羨ましい。
ケニーシャ様は私たちを別々の客間へ案内した。まだ婚約しているだけなので、部屋を分けてくれたらしい。
ほっとしたような、残念なような。
「結婚したら同じお部屋ですからね。姫様、元気だしてください」
「べ、別に、がっかりしてるわけじゃないわ!」
私の失望を感じ取ったカリエが慰めるように言ったが、考えてみたら部屋が別々なのは当たり前だ。皇帝陛下が結婚を認めていないのに、その陛下がいる皇城で私たちが同じ部屋というのはあり得ない。
「私、頑張るわ。結婚を認めていただけるまで、しつこく皇都に居座ってみせる!」
「でもそれだと、お留守番してるイリオン殿下はキツイんじゃないですか?」
「……そうかもね。イリオン様のこと忘れてたわ」
今回の夜会にはイリオン皇子は不参加である。彼はフェリオスに言われてハートンに残ったので、今ごろ執務室で膨大な書類に囲まれているだろう。
想像すると確かに可哀相かも。
フェリオスは夕食の席に現れなかった。皇帝と皇太子に挨拶をしに行ったとのことで、遅くなるから先に休むようにとの事だ。
ケニーシャ様と同席して夕食をいただいたが、緊張しているためかほとんど味がしない。
皇太子に認めて欲しいんだから、ケニーシャ様にも認めてもらった方がいいのよね?
もっとお洒落なドレスを着たほうが良かったかしら。
「ララシーナ様、緊張なさらなくても大丈夫ですよ。陛下が皇太子宮へ来ることはまずありません。今夜はわたくし達だけで、ゆっくりと食事を楽しみましょう」
「はい……!」
私が陛下に嫌われている事をご存知のようだけど、かと言って軽んじるような発言もなさらない。気遣ってくれている。
いい人だ……!
美人で尚かつ性格までいいなんて、すごい事だわ。
エンヴィードの上位貴族の中から選ばれた、たった一人の妃として相応しい方である。
すっかり緊張がほぐれた私は、調子にのってデザートまで残さず頂いてしまった。ケニーシャ様に食事のお礼を言って部屋に下がり、湯浴みのあとに寝台へ横になる。
「明日はいよいよ夜会か……。レクアム様にお会いできるかしら」
今日は会えずじまいだったし、明日こそ挨拶ぐらいはしたい。皇太子だからかなり多忙だろうが、私だって目的を果たさずにハートンへ帰るわけにはいかないのだ。
フェリオスもイリオンも、なぜか兄である皇太子の容貌を教えてくれない。
明日の夜会でレクアム様を見つけられるか不安だった。
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