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昼食は三人で仲良く取った。
しかしイリオン皇子の機嫌はなかなか直らず、私は食べながら何度も謝る羽目になった。
まあ自分が悪いんですけどね。
でもイリオン皇子だって自分から着がえたくせに、と思わないでもない。
反対にフェリオスはひどく上機嫌で、終始楽しそうだった。
上機嫌な兄と、不機嫌まる出しの弟。
温度差をなんとかしてほしいと思う。
「イリオン様、午後はどこを探したらいいと思います?」
「エイレネの離宮にも行ってみたら? あそこは兄上も入り浸ってるし、隠すチャンスはいくらでもあったでしょ」
「そうですわね! ではついでに竪琴も持って参りましょう!」
イリオン皇子と一緒に馬車に乗り込み、エイレネ姫の離宮を目指す。城下を抜けた途端に気温がぐっと下がり、頬を撫でる風が心地よい。
エイレネ姫は花壇に植えた苺の様子を見ていた。
侍女が傍で日傘をさしているが、夏の暑さにも負けないほど姫は元気になったようだ。
「お義姉さま! あ、イリオンお兄様も来ましたの? 何かのついでですか?」
「元気そうじゃん、エイレネ。それにしてもおまえって、意外と毒舌なんだよな……」
「お邪魔しますわ、エイレネ様。苺の実がなったのですね。根元から生えるツルは早めに切るといいですよ。ツルが伸びると、実が付きにくくなりますから」
エイレネ姫はこくりと頷き、侍女から受けとったハサミでツルを切り落とす。
「今日も竪琴を持ってきましたわ。エイレネ様、イリオン様に聞かせて差し上げたらどうですか? 星の曲は弾けるようになったのですし」
「へえ~、エイレネが楽器をねぇ。ここまで妹を回復させたあんたはすごいよ。兄上が気に入るわけだ」
「イリオンお兄様! お義姉さまに失礼な言い方しないで!」
「ごめんごめん。はあ、本当にお気に入りだな」
ぶつくさ言うイリオン皇子と一緒に私たちも離宮の中へ入り、冷たいレモネードを頂く。爽やかな酸味とほどよい甘さを味わい、体が落ち着いた頃に竪琴を姫へ手渡した。
「お星さまの曲を弾いてみます。お兄様、ちゃんと聞いててね!」
「はいはい」
エイレネ姫の小さな手が弦にふれ、優しい音色が響きだす。適当な返事をしたイリオン皇子だったが、真面目に聞く気はあるようだ。目を閉じて曲を楽しんでいる。
全てが終わったときには、少し驚いた顔で拍手をしていた。
「すごいじゃん、エイレネ! ちゃんと曲に聞こえた!」
「もう! 褒めてるのかどうか分かりません!」
「もちろん褒めてらっしゃるのですわ。とても上達なさいましたね! 今日はもう少し難しい曲も習ってみますか?」
「やったぁ!」
「おい、探し物するんじゃないのかよ」
「あ、そうでした。あのう……申し訳ないのですけど、イリオン様に頼んでもよろしいでしょうか?」
「はぁ、あんたも兄上も人使いが荒いよな。まあいいよ、僕だけで探してくる」
部屋から出て行くイリオンを、エイレネ姫が不思議そうに見ている。
もし婚約を破棄しようとしていると伝えたら、姫はどう思うだろう。
悲しむだろうか?
「すみません、エイレネ様。実はある書類を探しているのですが、フェリオス様ったらどこに仕舞ったか忘れたそうなのです。離宮を探させて頂いてもよろしいですか?」
「はい、構いませんわ! お義姉さま、難しい曲を教えてください!」
「ええ。今日は竪琴を置いて帰りますね。ゆっくり練習なさってくださいませ」
私はエイレネ姫と同じ向きに座り、曲を弾きながら指の動きを見せた。何度か弾き、姫に楽器を渡して弾いてもらう。その動きをくり返した。
今ごろイリオン皇子は書類を探してくれているだろうか。
一緒に来てもらって良かった。
私だけで離宮の家捜しをするのはさすがに気が引けるし。
数時間たったころ、暑さでヘロヘロになったイリオン皇子が部屋へ戻ってきた。なんと地下室まで探しに行ってくれたらしい。
私はお礼を言い、イリオンのために扇で風を送ってあげた。
「駄目だ、どこにもないよ。離宮にはないかもしれない」
「ありがとうございます。今日はもう終わりにしましょう。イリオン様ものんびりなさってください」
最初はフェリオス至上主義の嫌味な皇子様だと思ったけれど、イリオンはとてもいい人だ。女装したりするマヌケな一面もあるし、意外と可愛いところもある。
ずっと今のまま、穏やかに暮らせたらいい――そう願う気持ちもあるけれど。
いつか壊れる関係をずるずる続けるわけにはいかない。
翌日も朝からイリオン皇子と書類探しを続けたが、やはり見つけることは出来なかった。次の日も、さらに次の日も何の手がかりもなく、私と皇子の捜査は難航していた。
しかしイリオン皇子の機嫌はなかなか直らず、私は食べながら何度も謝る羽目になった。
まあ自分が悪いんですけどね。
でもイリオン皇子だって自分から着がえたくせに、と思わないでもない。
反対にフェリオスはひどく上機嫌で、終始楽しそうだった。
上機嫌な兄と、不機嫌まる出しの弟。
温度差をなんとかしてほしいと思う。
「イリオン様、午後はどこを探したらいいと思います?」
「エイレネの離宮にも行ってみたら? あそこは兄上も入り浸ってるし、隠すチャンスはいくらでもあったでしょ」
「そうですわね! ではついでに竪琴も持って参りましょう!」
イリオン皇子と一緒に馬車に乗り込み、エイレネ姫の離宮を目指す。城下を抜けた途端に気温がぐっと下がり、頬を撫でる風が心地よい。
エイレネ姫は花壇に植えた苺の様子を見ていた。
侍女が傍で日傘をさしているが、夏の暑さにも負けないほど姫は元気になったようだ。
「お義姉さま! あ、イリオンお兄様も来ましたの? 何かのついでですか?」
「元気そうじゃん、エイレネ。それにしてもおまえって、意外と毒舌なんだよな……」
「お邪魔しますわ、エイレネ様。苺の実がなったのですね。根元から生えるツルは早めに切るといいですよ。ツルが伸びると、実が付きにくくなりますから」
エイレネ姫はこくりと頷き、侍女から受けとったハサミでツルを切り落とす。
「今日も竪琴を持ってきましたわ。エイレネ様、イリオン様に聞かせて差し上げたらどうですか? 星の曲は弾けるようになったのですし」
「へえ~、エイレネが楽器をねぇ。ここまで妹を回復させたあんたはすごいよ。兄上が気に入るわけだ」
「イリオンお兄様! お義姉さまに失礼な言い方しないで!」
「ごめんごめん。はあ、本当にお気に入りだな」
ぶつくさ言うイリオン皇子と一緒に私たちも離宮の中へ入り、冷たいレモネードを頂く。爽やかな酸味とほどよい甘さを味わい、体が落ち着いた頃に竪琴を姫へ手渡した。
「お星さまの曲を弾いてみます。お兄様、ちゃんと聞いててね!」
「はいはい」
エイレネ姫の小さな手が弦にふれ、優しい音色が響きだす。適当な返事をしたイリオン皇子だったが、真面目に聞く気はあるようだ。目を閉じて曲を楽しんでいる。
全てが終わったときには、少し驚いた顔で拍手をしていた。
「すごいじゃん、エイレネ! ちゃんと曲に聞こえた!」
「もう! 褒めてるのかどうか分かりません!」
「もちろん褒めてらっしゃるのですわ。とても上達なさいましたね! 今日はもう少し難しい曲も習ってみますか?」
「やったぁ!」
「おい、探し物するんじゃないのかよ」
「あ、そうでした。あのう……申し訳ないのですけど、イリオン様に頼んでもよろしいでしょうか?」
「はぁ、あんたも兄上も人使いが荒いよな。まあいいよ、僕だけで探してくる」
部屋から出て行くイリオンを、エイレネ姫が不思議そうに見ている。
もし婚約を破棄しようとしていると伝えたら、姫はどう思うだろう。
悲しむだろうか?
「すみません、エイレネ様。実はある書類を探しているのですが、フェリオス様ったらどこに仕舞ったか忘れたそうなのです。離宮を探させて頂いてもよろしいですか?」
「はい、構いませんわ! お義姉さま、難しい曲を教えてください!」
「ええ。今日は竪琴を置いて帰りますね。ゆっくり練習なさってくださいませ」
私はエイレネ姫と同じ向きに座り、曲を弾きながら指の動きを見せた。何度か弾き、姫に楽器を渡して弾いてもらう。その動きをくり返した。
今ごろイリオン皇子は書類を探してくれているだろうか。
一緒に来てもらって良かった。
私だけで離宮の家捜しをするのはさすがに気が引けるし。
数時間たったころ、暑さでヘロヘロになったイリオン皇子が部屋へ戻ってきた。なんと地下室まで探しに行ってくれたらしい。
私はお礼を言い、イリオンのために扇で風を送ってあげた。
「駄目だ、どこにもないよ。離宮にはないかもしれない」
「ありがとうございます。今日はもう終わりにしましょう。イリオン様ものんびりなさってください」
最初はフェリオス至上主義の嫌味な皇子様だと思ったけれど、イリオンはとてもいい人だ。女装したりするマヌケな一面もあるし、意外と可愛いところもある。
ずっと今のまま、穏やかに暮らせたらいい――そう願う気持ちもあるけれど。
いつか壊れる関係をずるずる続けるわけにはいかない。
翌日も朝からイリオン皇子と書類探しを続けたが、やはり見つけることは出来なかった。次の日も、さらに次の日も何の手がかりもなく、私と皇子の捜査は難航していた。
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