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19 婚約を……

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 それから何日も悩む日々が続いた。

 朝に目覚めては悩み、いつの間にか日が暮れている。
 夜にベッドで寝ている時間が最もつらく、たった一人で世界を救う羽目になった勇者の気分だった。

「姫様、もう少し食べませんと。頬がこけて来てますよ? 何に悩んでおられるんですか?」

「うん……。ごめんね、カリエ。もう下げてちょうだい。どうしても食欲がわかなくて……」

 人間というのは、深い悩みがあると食事を楽しめないらしい。
 おまけに綺麗な花を見ても何とも思わないし、楽器を弾く気にもならないらしい。

 このままでは心の病気になってしまう――と言うより、すでになっている気がする。
 もう限界だ。

「フェリオス様と話してみるわ。まだ起きてらっしゃるといいけど」

「皇子殿下はかなり遅くに寝ておられるそうです。まだお仕事中だと思いますよ」

 椅子から立つと、軽い目眩に襲われた。視界が一瞬だけ暗くなり、少しずつもとに戻っていく。
 体も限界を迎えつつあるようだし、さっさとフェリオスに話を通してしまおう。

 執務室にはまだ煌々と明かりが灯っていて、フェリオスは当然のように仕事をしていた。とても真面目な人なのだ。
 だからもう、彼も私も自由になった方がいいと思う。

「ララシーナ? こんな時間にどうした?」

「お話したいことがありますの。ちょっとだけ、お時間いただけませんか?」

「分かった。すぐに終わらせる」

 フェリオスは読んでいた書類に第二皇子を表す獅子の印を押した。それを一つの箱に収め、私をソファへ座るように促す。
 私たちは向かい合うようにソファへ座った。

「話の前に、少しいいか? 最近のあなたは本当に様子が変だ。そんなに痩せて……食事もまともに取っていないんだろう。薬師なのに自分を病気にするなんてどうしたんだ?」

「……仰るとおりですわ。だから今夜、話をしにきたのです」

 いちど言葉を切り、フェリオスの顔を正面から見つめる。
 男のひとなのに本当に綺麗な顔だ。美しいけれど女っぽいわけではなく、きりりとした眉や鋭い眼差しからは男らしさを感じる。

 あなたへ嫁ぐと決め、ハートンへ移り住んで二ヶ月以上たった。最初はただの怖い皇子様だったけれど、今はもう恐ろしいとは思わない。

 本当はもっと、色んなあなたを知ってみたかった。
 だからこんなことを言いたくはないけれど、私たちは一緒にいても幸せになれないから。


「私との婚約を、破棄して頂けませんか?」

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