19 / 52
19 婚約を……
しおりを挟む
それから何日も悩む日々が続いた。
朝に目覚めては悩み、いつの間にか日が暮れている。
夜にベッドで寝ている時間が最もつらく、たった一人で世界を救う羽目になった勇者の気分だった。
「姫様、もう少し食べませんと。頬がこけて来てますよ? 何に悩んでおられるんですか?」
「うん……。ごめんね、カリエ。もう下げてちょうだい。どうしても食欲がわかなくて……」
人間というのは、深い悩みがあると食事を楽しめないらしい。
おまけに綺麗な花を見ても何とも思わないし、楽器を弾く気にもならないらしい。
このままでは心の病気になってしまう――と言うより、すでになっている気がする。
もう限界だ。
「フェリオス様と話してみるわ。まだ起きてらっしゃるといいけど」
「皇子殿下はかなり遅くに寝ておられるそうです。まだお仕事中だと思いますよ」
椅子から立つと、軽い目眩に襲われた。視界が一瞬だけ暗くなり、少しずつもとに戻っていく。
体も限界を迎えつつあるようだし、さっさとフェリオスに話を通してしまおう。
執務室にはまだ煌々と明かりが灯っていて、フェリオスは当然のように仕事をしていた。とても真面目な人なのだ。
だからもう、彼も私も自由になった方がいいと思う。
「ララシーナ? こんな時間にどうした?」
「お話したいことがありますの。ちょっとだけ、お時間いただけませんか?」
「分かった。すぐに終わらせる」
フェリオスは読んでいた書類に第二皇子を表す獅子の印を押した。それを一つの箱に収め、私をソファへ座るように促す。
私たちは向かい合うようにソファへ座った。
「話の前に、少しいいか? 最近のあなたは本当に様子が変だ。そんなに痩せて……食事もまともに取っていないんだろう。薬師なのに自分を病気にするなんてどうしたんだ?」
「……仰るとおりですわ。だから今夜、話をしにきたのです」
いちど言葉を切り、フェリオスの顔を正面から見つめる。
男のひとなのに本当に綺麗な顔だ。美しいけれど女っぽいわけではなく、きりりとした眉や鋭い眼差しからは男らしさを感じる。
あなたへ嫁ぐと決め、ハートンへ移り住んで二ヶ月以上たった。最初はただの怖い皇子様だったけれど、今はもう恐ろしいとは思わない。
本当はもっと、色んなあなたを知ってみたかった。
だからこんなことを言いたくはないけれど、私たちは一緒にいても幸せになれないから。
「私との婚約を、破棄して頂けませんか?」
朝に目覚めては悩み、いつの間にか日が暮れている。
夜にベッドで寝ている時間が最もつらく、たった一人で世界を救う羽目になった勇者の気分だった。
「姫様、もう少し食べませんと。頬がこけて来てますよ? 何に悩んでおられるんですか?」
「うん……。ごめんね、カリエ。もう下げてちょうだい。どうしても食欲がわかなくて……」
人間というのは、深い悩みがあると食事を楽しめないらしい。
おまけに綺麗な花を見ても何とも思わないし、楽器を弾く気にもならないらしい。
このままでは心の病気になってしまう――と言うより、すでになっている気がする。
もう限界だ。
「フェリオス様と話してみるわ。まだ起きてらっしゃるといいけど」
「皇子殿下はかなり遅くに寝ておられるそうです。まだお仕事中だと思いますよ」
椅子から立つと、軽い目眩に襲われた。視界が一瞬だけ暗くなり、少しずつもとに戻っていく。
体も限界を迎えつつあるようだし、さっさとフェリオスに話を通してしまおう。
執務室にはまだ煌々と明かりが灯っていて、フェリオスは当然のように仕事をしていた。とても真面目な人なのだ。
だからもう、彼も私も自由になった方がいいと思う。
「ララシーナ? こんな時間にどうした?」
「お話したいことがありますの。ちょっとだけ、お時間いただけませんか?」
「分かった。すぐに終わらせる」
フェリオスは読んでいた書類に第二皇子を表す獅子の印を押した。それを一つの箱に収め、私をソファへ座るように促す。
私たちは向かい合うようにソファへ座った。
「話の前に、少しいいか? 最近のあなたは本当に様子が変だ。そんなに痩せて……食事もまともに取っていないんだろう。薬師なのに自分を病気にするなんてどうしたんだ?」
「……仰るとおりですわ。だから今夜、話をしにきたのです」
いちど言葉を切り、フェリオスの顔を正面から見つめる。
男のひとなのに本当に綺麗な顔だ。美しいけれど女っぽいわけではなく、きりりとした眉や鋭い眼差しからは男らしさを感じる。
あなたへ嫁ぐと決め、ハートンへ移り住んで二ヶ月以上たった。最初はただの怖い皇子様だったけれど、今はもう恐ろしいとは思わない。
本当はもっと、色んなあなたを知ってみたかった。
だからこんなことを言いたくはないけれど、私たちは一緒にいても幸せになれないから。
「私との婚約を、破棄して頂けませんか?」
6
お気に入りに追加
2,452
あなたにおすすめの小説
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです
古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。
皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。
他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。
救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。
セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。
だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。
「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」
今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる