70 / 76
-70-
キュートなSF、悪魔な親友
しおりを挟む
鹿倉の細い体を力強く抱きしめる。
突然の来訪があまりにも嬉し過ぎて、玄関の扉を閉めた瞬間に律はそうしていた。
しないではいられなかった。
「……苦しいんだけどー」
くふ、と笑って言う。
「靴脱いで」
「……このまま?」
「うん。できる?」
「まあ」
拘束されたまま、靴を脱ぐ。
ちょっとした段差を、上がろうとして。
掬い上げられた。そのまま横抱きにされる。
「えっと……律?」
とりあえず落ちないように肩に腕を回して。
「重く、ない?」
会社帰りだから、資料の入ったカバンを背負っている鹿倉は、通常の体重よりもプラスアルファ、あるわけで。
「重くない」
短い一言。だけ。
律はそれだけ言うと、鹿倉を抱えたままリビングへと向かう。
ソファにそっと下ろした。
「何やってんのさ?」
座って、カバンを下ろして。笑いながら律を見る。
「すっっっごい、嬉しい」
もの凄いタメて言って。もう一度ぎゅっと抱きしめる。
鹿倉はくふくふと笑って律の背に腕を回してぽんぽんと撫でて。
「ごめん、急に来るつって。邪魔じゃなかった?」
「かぐちゃんが来るなら、他の用があってもすっぽかすし」
「そんなことしなくていいよ。綺麗なおねーちゃん連れ込んでるんだったら、申し訳ないなーと思ってたし」
「何の嫌味だよ?」
律がちょっと不貞腐れる。
「律、今日休みじゃなかった?」
「ん。でもジム行ってメシ食って帰って来ただけだし」
「なんだよ、つまんねー休日だな」
「かぐちゃんが付き合ってくれないからだろ」
「俺は仕事だよ」
言って、二人で目を合わせて笑った。
その瞬間、鹿倉のお腹が鳴る。
「お、珍しく腹減らしてんだ?」
「あー、うん。お預けくらったからさ」
「え?」
「田村んちにさ。メシ食いに寄ったら口説きたい相手が来る、つって追い出された」
半分は嘘じゃない。
鹿倉はさらっと言うと、
「何か、ある?」
とキッチンを見た。
「ないけど、宅配頼むよ」
「ないなら、別にいいよ」
「ダメだって。かぐちゃん、これ以上痩せたら骨ばっかになる」
「あー、抱き心地悪くなっちゃうか」
「どんなかぐちゃんでも抱けるけど、そーゆー問題じゃないから」
結局宅配で蕎麦を頼むと、それが来るまでにシャワー浴びて来ると言って鹿倉はバスルームに向かった。
律は嬉しくなって冷蔵庫からビールを出す。
良かった。
とにかく、いろいろ、良かった。
だって、少なくとも田村には“口説きたい相手”ってのがいるわけで。
前に本人が物凄い照れながら“好きな人がいる”なんて言っていたから、まず間違いないだろうとは思っていたけれど、そしてあの田村に限って嘘なんて絶対言わないだろうから。
鹿倉を、田村がそういう目で見てないことは、これで確証を掴んだわけで。
それが、何よりの安心。
それに。
何でもない休日を、こんなに可愛い相手と過ごせるなんて。
これ以上嬉しいことなんて、ないから。
気まぐれでもいい。こうして、その相手として自分を選んでくれたことが、嬉しいから。
ビールを一本、飲み干してしまう。
すると、バスルームから。
「律ー。スウェット持って入るの、忘れたー」
声がして。
ベッドの上に準備しておいたスウェットを手に廊下に向かうと。
「持ってきて、って言うのとタオル巻いて自分で取りに行くの、どっちが正解?」
バスルームの扉が少しだけ開いて、裸の上半身だけを出してくふくふ笑っている鹿倉がいて。
下半身を直撃するその姿と問いに、律が脱力してしゃがみ込んだ。
「……わざと?」
「うん、わざと」
綺麗なウィンクを決めて、律の手からスウェットを奪い取ると、再び扉を閉めた。
この、悪魔のような可愛い生き物に、振り回されるという事実が。
それまでの自分の人生において、考えられるわけがないから。
誰もが言うように、確かに自分が女に不自由したことは、ない。
当然、言い寄ってくる女なんていくらでもいたし、自分で“いい”と思った女の子をオとす術も知っていたし。
だから振り回すことはいくらでもあったけれど、まさかこの自分が、相手の一挙手一投足にこんなにも振り回されることになるなんて、考えたこともなかったから。
「律?」
廊下で固まっていたら、濡れた髪をタオルで拭きながら鹿倉が出てきた。
「……楽しい?」
しゃがみ込んだまま問う。珍しく下から鹿倉を見上げながら。
「楽しいよ」
鹿倉が律の頭に掌を乗せ、くしゃくしゃと撫でた。
「わんこみたい」
言って、鹿倉も座り込んで律に視線を合わせると、首を傾げて目をきゅるん、と輝かせる。
「……嫌になった?」と今度は鹿倉が問うから。
キスで返事。軽く、触れるだけのキスをして、鹿倉の手を引いて立ち上がった。
「俺、明日仕事なんだけどな」
鹿倉の手を、指を絡めるようにして繋いだまま、リビングを抜け、寝室へと向かいながら言う。
「俺も、明日仕事なんだけどな」
後ろから鹿倉が、くふくふと笑いながらマネをする。
律が先にベッドに座ると、前に立たせた鹿倉の腰を抱いた。
また、鹿倉を見上げる。
「新鮮」
「うん、新鮮だね」
やっぱり鹿倉がマネをしてくるから。
「大好きだよ」と言ってみた。
「大好きだよ?」
言いながら、くしゃ、と顔を歪ませて笑う。そして。
「えっと……ヤりたいのはやまやまなんだけど、多分そろそろメシ、来るよね?」
「あ、そっか。ごめん、忘れててこっち連れてきちまった」
がっくりと項垂れると、鹿倉が頬を両手で包み込んで。
「メシ食ったら、いっぱいシよ」
そう言って、唇を重ねた。
突然の来訪があまりにも嬉し過ぎて、玄関の扉を閉めた瞬間に律はそうしていた。
しないではいられなかった。
「……苦しいんだけどー」
くふ、と笑って言う。
「靴脱いで」
「……このまま?」
「うん。できる?」
「まあ」
拘束されたまま、靴を脱ぐ。
ちょっとした段差を、上がろうとして。
掬い上げられた。そのまま横抱きにされる。
「えっと……律?」
とりあえず落ちないように肩に腕を回して。
「重く、ない?」
会社帰りだから、資料の入ったカバンを背負っている鹿倉は、通常の体重よりもプラスアルファ、あるわけで。
「重くない」
短い一言。だけ。
律はそれだけ言うと、鹿倉を抱えたままリビングへと向かう。
ソファにそっと下ろした。
「何やってんのさ?」
座って、カバンを下ろして。笑いながら律を見る。
「すっっっごい、嬉しい」
もの凄いタメて言って。もう一度ぎゅっと抱きしめる。
鹿倉はくふくふと笑って律の背に腕を回してぽんぽんと撫でて。
「ごめん、急に来るつって。邪魔じゃなかった?」
「かぐちゃんが来るなら、他の用があってもすっぽかすし」
「そんなことしなくていいよ。綺麗なおねーちゃん連れ込んでるんだったら、申し訳ないなーと思ってたし」
「何の嫌味だよ?」
律がちょっと不貞腐れる。
「律、今日休みじゃなかった?」
「ん。でもジム行ってメシ食って帰って来ただけだし」
「なんだよ、つまんねー休日だな」
「かぐちゃんが付き合ってくれないからだろ」
「俺は仕事だよ」
言って、二人で目を合わせて笑った。
その瞬間、鹿倉のお腹が鳴る。
「お、珍しく腹減らしてんだ?」
「あー、うん。お預けくらったからさ」
「え?」
「田村んちにさ。メシ食いに寄ったら口説きたい相手が来る、つって追い出された」
半分は嘘じゃない。
鹿倉はさらっと言うと、
「何か、ある?」
とキッチンを見た。
「ないけど、宅配頼むよ」
「ないなら、別にいいよ」
「ダメだって。かぐちゃん、これ以上痩せたら骨ばっかになる」
「あー、抱き心地悪くなっちゃうか」
「どんなかぐちゃんでも抱けるけど、そーゆー問題じゃないから」
結局宅配で蕎麦を頼むと、それが来るまでにシャワー浴びて来ると言って鹿倉はバスルームに向かった。
律は嬉しくなって冷蔵庫からビールを出す。
良かった。
とにかく、いろいろ、良かった。
だって、少なくとも田村には“口説きたい相手”ってのがいるわけで。
前に本人が物凄い照れながら“好きな人がいる”なんて言っていたから、まず間違いないだろうとは思っていたけれど、そしてあの田村に限って嘘なんて絶対言わないだろうから。
鹿倉を、田村がそういう目で見てないことは、これで確証を掴んだわけで。
それが、何よりの安心。
それに。
何でもない休日を、こんなに可愛い相手と過ごせるなんて。
これ以上嬉しいことなんて、ないから。
気まぐれでもいい。こうして、その相手として自分を選んでくれたことが、嬉しいから。
ビールを一本、飲み干してしまう。
すると、バスルームから。
「律ー。スウェット持って入るの、忘れたー」
声がして。
ベッドの上に準備しておいたスウェットを手に廊下に向かうと。
「持ってきて、って言うのとタオル巻いて自分で取りに行くの、どっちが正解?」
バスルームの扉が少しだけ開いて、裸の上半身だけを出してくふくふ笑っている鹿倉がいて。
下半身を直撃するその姿と問いに、律が脱力してしゃがみ込んだ。
「……わざと?」
「うん、わざと」
綺麗なウィンクを決めて、律の手からスウェットを奪い取ると、再び扉を閉めた。
この、悪魔のような可愛い生き物に、振り回されるという事実が。
それまでの自分の人生において、考えられるわけがないから。
誰もが言うように、確かに自分が女に不自由したことは、ない。
当然、言い寄ってくる女なんていくらでもいたし、自分で“いい”と思った女の子をオとす術も知っていたし。
だから振り回すことはいくらでもあったけれど、まさかこの自分が、相手の一挙手一投足にこんなにも振り回されることになるなんて、考えたこともなかったから。
「律?」
廊下で固まっていたら、濡れた髪をタオルで拭きながら鹿倉が出てきた。
「……楽しい?」
しゃがみ込んだまま問う。珍しく下から鹿倉を見上げながら。
「楽しいよ」
鹿倉が律の頭に掌を乗せ、くしゃくしゃと撫でた。
「わんこみたい」
言って、鹿倉も座り込んで律に視線を合わせると、首を傾げて目をきゅるん、と輝かせる。
「……嫌になった?」と今度は鹿倉が問うから。
キスで返事。軽く、触れるだけのキスをして、鹿倉の手を引いて立ち上がった。
「俺、明日仕事なんだけどな」
鹿倉の手を、指を絡めるようにして繋いだまま、リビングを抜け、寝室へと向かいながら言う。
「俺も、明日仕事なんだけどな」
後ろから鹿倉が、くふくふと笑いながらマネをする。
律が先にベッドに座ると、前に立たせた鹿倉の腰を抱いた。
また、鹿倉を見上げる。
「新鮮」
「うん、新鮮だね」
やっぱり鹿倉がマネをしてくるから。
「大好きだよ」と言ってみた。
「大好きだよ?」
言いながら、くしゃ、と顔を歪ませて笑う。そして。
「えっと……ヤりたいのはやまやまなんだけど、多分そろそろメシ、来るよね?」
「あ、そっか。ごめん、忘れててこっち連れてきちまった」
がっくりと項垂れると、鹿倉が頬を両手で包み込んで。
「メシ食ったら、いっぱいシよ」
そう言って、唇を重ねた。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる