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キュートなSF、悪魔な親友
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歌番組だけあって、彼女たちの歌も流れる。
まだダンスは微妙だが、やっぱり声がいい。
「先見の明ってーの? 堀さん、結構その辺の勘が怖いくらい当たるからさ。俺も、今まで何回鳥肌立ったか」
志麻が言って、ビールを煽る。
「あの人がコレって引き当てたモノとかってさ、最初は全然有り得ないんだよね」
「有り得ないって?」
「普通は、誰も見向きもしないモノってゆーか。どこにでもありそうなモノとか事象とか、そーゆーのを拾ってくるんだよ、何の気なしに」
「で、それがいつの間にか世間に広まって、って?」
「あの人が噛むとね。そーなる」
ちょっとだけ、ジェラ。
鹿倉だけじゃなくて、志麻さんも。堀のことを手放しに誉めるから。
自分では追いつけない人だから、悔しいけど、ただ見てることしかできない。
チリチリ、と鈴の音がしてソラが寄って来た。
田村の足元でぺたん、と寝転んで寛ぎ始める。
「あ、そういや忘れてた。田村に渡そうと思ってた資料があったんだった」
志麻が立ち上がり、ローテーブルに呑んでいた缶を置いた。
そして足元にいたソラを避けようとして。
「あっ!」
バランスを崩した志麻が、ソファに田村を押し倒すことになり。
田村の顔の真横に両手をついて辛うじて体重を支えているけれど、その場所が柔らかいから鼻先がぶつかるくらいに顔が近付く。
咄嗟のことだったから、体全体で田村を踏みつけないように膝を開いて田村を跨がる形になったから、まるっきり押し倒すという状態で。
田村は下から志麻の綺麗な丸い目を、見上げた。
「うわ、ごめん」
言って起き上がろうとした志麻を、田村は思わず抱きしめていた。
「え?」
「……………」
ぎゅう、と力を込めて下から抱きしめる。
「えっと……何? かぐちゃんのマネ?」
志麻が、固まったまま苦笑して言う。
「……………」
何も言えなくて、ぐりぐりと志麻の肩に顔を押し当てた。
「おいおい、どしたー? 重くねーかー?」
「……ちょっと、このままがいいです」
何とか、口を開いて。
この、初めて抱く感触がもう、堪らなく愛おしくて。
好きだと、叫びたくて。
でも、それは言えなくて。
「たむちゃんも、甘えんぼだなー。ほんと、かぐちゃんもおまえも、可愛いなあ」
くふくふと笑いながら、志麻が言う。少しだけ体勢を変え、田村の頭を抱いて「よしよし」なんて撫でて。
「かぐちゃんがいなくて寂しいのか? 代わりに泊まってこっか?」
言われて、下半身が、疼く。
「志麻さん……」
「ん?」
そんなこと軽々しく言わないで欲しい、と田村は心の中で呟いた。
二人きりで、何もしないで夜を過ごせる自信なんて、ない。
この温もりを、確実に犯してしまう。
「重いです」
「おまえがくっついて来たんじゃねーか」
志麻が笑いながら体を起こし、田村の手を引いた。
「実際、この広い家に一人だと寂しいんじゃない? かぐちゃん、だからいつも泊まりに来てくれるんじゃねーの?」
「……ま、うん。それもある、かな」
「じゃ、ほんとに泊まってやるよ? 俺別に明日休みだし」
「……俺明日、朝から事務所なんで」
「そっか。んじゃ、俺いたら邪魔だね」
「邪魔じゃ、ない。けど」
「ま、今度また改めて。かぐちゃんが都合つかない時は、いつでも呼んでいいよ? メシ、旨いし」
「二人して、俺をそーやっておかーさん代わりにするし」
何とか、自分を立て直して田村が言う。
さすがに、あのまま欲しいと主張するのは間違っていただろう。
こうやって、ふわふわと笑う志麻が鹿倉みたいにエロエロで受け入れてくれるなんてあり得ないから。
「おかーさーん」
「自分より年上のコを産んだ覚えはありません」
田村が言うと、志麻がまたくふくふと楽しそうに笑った。
うん。いい。
この笑顔が見られるだけで、いい。と田村は思う。
抱きたいけど、抱けないけど。
それが欲しいだけじゃないから。
爆笑したり、くふくふといたずらっぽく笑ったり。
志麻のいろんな表情を見られることが、幸せだと思うから。
結局、最終的には仕事の話になってしまたけれど、それでも志麻が楽しそうに笑って「またね」と言ってくれたから、田村も「いつでも」と見送った。
まだダンスは微妙だが、やっぱり声がいい。
「先見の明ってーの? 堀さん、結構その辺の勘が怖いくらい当たるからさ。俺も、今まで何回鳥肌立ったか」
志麻が言って、ビールを煽る。
「あの人がコレって引き当てたモノとかってさ、最初は全然有り得ないんだよね」
「有り得ないって?」
「普通は、誰も見向きもしないモノってゆーか。どこにでもありそうなモノとか事象とか、そーゆーのを拾ってくるんだよ、何の気なしに」
「で、それがいつの間にか世間に広まって、って?」
「あの人が噛むとね。そーなる」
ちょっとだけ、ジェラ。
鹿倉だけじゃなくて、志麻さんも。堀のことを手放しに誉めるから。
自分では追いつけない人だから、悔しいけど、ただ見てることしかできない。
チリチリ、と鈴の音がしてソラが寄って来た。
田村の足元でぺたん、と寝転んで寛ぎ始める。
「あ、そういや忘れてた。田村に渡そうと思ってた資料があったんだった」
志麻が立ち上がり、ローテーブルに呑んでいた缶を置いた。
そして足元にいたソラを避けようとして。
「あっ!」
バランスを崩した志麻が、ソファに田村を押し倒すことになり。
田村の顔の真横に両手をついて辛うじて体重を支えているけれど、その場所が柔らかいから鼻先がぶつかるくらいに顔が近付く。
咄嗟のことだったから、体全体で田村を踏みつけないように膝を開いて田村を跨がる形になったから、まるっきり押し倒すという状態で。
田村は下から志麻の綺麗な丸い目を、見上げた。
「うわ、ごめん」
言って起き上がろうとした志麻を、田村は思わず抱きしめていた。
「え?」
「……………」
ぎゅう、と力を込めて下から抱きしめる。
「えっと……何? かぐちゃんのマネ?」
志麻が、固まったまま苦笑して言う。
「……………」
何も言えなくて、ぐりぐりと志麻の肩に顔を押し当てた。
「おいおい、どしたー? 重くねーかー?」
「……ちょっと、このままがいいです」
何とか、口を開いて。
この、初めて抱く感触がもう、堪らなく愛おしくて。
好きだと、叫びたくて。
でも、それは言えなくて。
「たむちゃんも、甘えんぼだなー。ほんと、かぐちゃんもおまえも、可愛いなあ」
くふくふと笑いながら、志麻が言う。少しだけ体勢を変え、田村の頭を抱いて「よしよし」なんて撫でて。
「かぐちゃんがいなくて寂しいのか? 代わりに泊まってこっか?」
言われて、下半身が、疼く。
「志麻さん……」
「ん?」
そんなこと軽々しく言わないで欲しい、と田村は心の中で呟いた。
二人きりで、何もしないで夜を過ごせる自信なんて、ない。
この温もりを、確実に犯してしまう。
「重いです」
「おまえがくっついて来たんじゃねーか」
志麻が笑いながら体を起こし、田村の手を引いた。
「実際、この広い家に一人だと寂しいんじゃない? かぐちゃん、だからいつも泊まりに来てくれるんじゃねーの?」
「……ま、うん。それもある、かな」
「じゃ、ほんとに泊まってやるよ? 俺別に明日休みだし」
「……俺明日、朝から事務所なんで」
「そっか。んじゃ、俺いたら邪魔だね」
「邪魔じゃ、ない。けど」
「ま、今度また改めて。かぐちゃんが都合つかない時は、いつでも呼んでいいよ? メシ、旨いし」
「二人して、俺をそーやっておかーさん代わりにするし」
何とか、自分を立て直して田村が言う。
さすがに、あのまま欲しいと主張するのは間違っていただろう。
こうやって、ふわふわと笑う志麻が鹿倉みたいにエロエロで受け入れてくれるなんてあり得ないから。
「おかーさーん」
「自分より年上のコを産んだ覚えはありません」
田村が言うと、志麻がまたくふくふと楽しそうに笑った。
うん。いい。
この笑顔が見られるだけで、いい。と田村は思う。
抱きたいけど、抱けないけど。
それが欲しいだけじゃないから。
爆笑したり、くふくふといたずらっぽく笑ったり。
志麻のいろんな表情を見られることが、幸せだと思うから。
結局、最終的には仕事の話になってしまたけれど、それでも志麻が楽しそうに笑って「またね」と言ってくれたから、田村も「いつでも」と見送った。
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