キュートなSF、悪魔な親友

月那

文字の大きさ
上 下
67 / 76
-67-

キュートなSF、悪魔な親友

しおりを挟む
 鹿倉の不在に対して、志麻は一言「あ、そーなん?」と片付けただけだった。
 田村が緊張しながらビールを手渡すと、
「お、さんきゅ。いつもながら、田村んちのご飯は豪華だねえ」
 足元に擦り寄って来たソラの頭を撫でながら言って。
「あー……あざっす」
「これ以上出されても食えねーし、いいから田村もこっち来いよ」
 手招きされて、志麻の向かい側に座る。
 いつも鹿倉が座っている場所に志麻がいるから、なんだか不思議な感覚で。
「ほい、おつかれさん」
 志麻がビールの缶をぶつけた。
 あれから鹿倉が出て行った後、廊下とキッチンを何度も往復しながら志麻に断りのラインを入れるかどうか悩み、その言い訳を考えているうちにエントランスに志麻が到着して。
 緊張しながらもその緊張を見せないように、ソラを抱いて冷静を装って玄関を開けると、志麻が可愛く「お土産ー」とビールの入ったコンビニ袋を押し付けてきた。
 代わりにソラを抱いてリビングに入ると、ひとしきりソラを猫じゃらしで遊ばせて。
 キッチンで調理器具を片付けていた田村がそんな志麻をぼんやり見ていたが、ダイニングテーブルに並んだ料理を見てリビングから移動してきたからビールを手渡したのだった。
「かぐちゃん、どしたん?」
「さあ? わかんないけど、急に帰るって」
「彼女から呼び出しでもあったんじゃね?」
 田村は曖昧に笑った。
「いやしかし、こんなに作るの大変だったろ?」
「や、大したことないっス。どれも簡単なヤツばっかだし」
「たむちゃん、もーその変な敬語やめよーよ」
「え?」
「こないだデートした仲じゃん」
 志麻がくふくふと笑いながら、ビールを飲む。
 細く長い指で綺麗に箸を持って、サラダを口に運ぶ。
 ぷるぷるの唇が開いて、自分の作った料理がその中に運び込まれる。
「旨っ」くるん、と丸い目が輝く。
 と。
 そんな一連の動きだけで、胸がきゅっとして。
「あのレポート、堀さんが爆笑してた。コレ志麻ちゃん口説いてんじゃんって」
 言われて思わず赤くなってしまった。
「べ、別に、あれは……」
「俺要素、貝だけ、だけどな?」
「あ……うん。ま、貝は……正直志麻さん喜ばせたかったけど」
「そんな俺、貝好き?」
「だって、堀さんが最初言い出したし」
「いや、別に貝だけ好きってわけじゃねーんだけど。基本的に海鮮系は好きなんだよ」
 残念ながら今日のメニューに海鮮がなく。
 テーブルの料理に目をやって、田村が少し申し訳なさそうな表情をしたから、志麻が慌てて
「ああ、ごめんごめん。そーゆー意味じゃねーから」と目の前で掌をひらひら振った。
「もうね、段々肉ばっかじゃ、しんどくなってきてんのよ正直」
「志麻さん、最近宅配ばっかってゆってたよね」
「そうそう。で、お手軽なの頼むと大抵肉系になるからさ。俺もう、三十過ぎてるし、おっさんにガッツリ系はそろそろキツイ」
 サラダ、卵焼き、枝豆というあっさりメニューを指差して。
「だからこーゆーの、凄い、いいよ」
 丸い目を細めてにっこり笑ってくれるから嬉しくなる。
「んじゃ、ちょいちょいウチに来てメシ食うのは?」
 ここぞ、とぐっと腹に力を入れて誘ってみる。
「そりゃ、ありがたいよ。でもかぐちゃんがいつも世話になってんだろ? 俺まで来ちゃ、悪いし」
「いや。志麻さん来るならあいつ追い出すし」
「ひでえな。あ、それで今日追い出した?」
「しないしない。俺そんな鬼じゃねーし。だからほんと、ちょっと二人分では多いんだよね、これ」
「余ったら俺、お持ち帰りするわー」
「もちろん、もちろん。俺一人でも持て余すし」
 話しているうちに、緊張感なんて忘れてしまって。
 結局いつも仕事で一緒に過ごしているから、変な気負いさえ消えてしまえば気持ちよく話せる相手なわけだから、アルコールも入って肩の力も抜け二人でいろんな話をした。
 すると、堀からチームのグループラインに
「今テレビで例のアイドルが出てるから、ちょい見てみて」なんてメッセージが入ったので、リビングへと移動する。
 歌番組の一コーナーらしく、これから来るアーティストなんて形で紹介されているのが、チームで話を進めている企画で契約したアイドルで。
「お、凄いね。この子たち、当たったらマジ今回の企画、絶対バズるな」
「ん……堀さん、やっぱすげえ」
 ビールと枝豆の皿だけリビングのローテーブルに移動させ、ソファに並んで飲み始めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

処理中です...