53 / 76
-53-
キュートなSF、悪魔な親友
しおりを挟む
一回出した後の、ちょっと気だるい体を田村が後ろからゆるゆると抱きしめる。
勿論、下は繋がったままで。
当然、まだこんな状態で眠るなんてことはないけれど、それでも田村のぬくぬくな体に包まれているこの瞬間は、半分眠りに落ちてもいいかと思えるくらい、柔らかい時間で。
「かぐ……」
「ん?」
耳元に囁いた声が、優しかったけれど。少し、引っかかる。
「俺、かぐみたく言葉選んだりとかできないから、直球で訊くよ?」
ああ。そうか。えっちしてんのに“かぐ”って呼んでるからか。と、鹿倉がぼんやりと田村の声に耳を傾けた。
「誰かと、ヤってる?」
すっと、目が覚める。
けれども田村の優しい腕は、何も変わらない。
鹿倉も辛うじて、微動だにしない、という逃げ道だけは確保できた。
「違ってたら違ってたで、別にいいし。てか、ほんとは勘違いだと思いたいんだけど」
さて。どういう返しが正解か。
さすがにいつものように流れるような嘘が出てこない。
黙っていることこそが、その答えになってしまうと、鹿倉自身はわかっているけれど。
無邪気な田村なら、つるつると嘘を並べればきっと騙されるはずで。
鹿倉は唇を湿らせるように、一度舐めた。そして、口を開く。
「誰が、いい?」
「え?」
「誰とヤってる、って答えが欲しい?」
田村のモノが萎えて、自分の中から抜けて出たのを感じて。
鹿倉はくるりと体を反転させた。正面から田村を見る。
「堀さん? 志麻さん? それとも他の、田村が全然知らない人?」
目を細め、ほんの少しだけ口角を上げて。作り笑顔、かもしれないけれど。
田村の真意を掴むまで、誤魔化すような表情でその目を見る。
「ヤってる、ってことは確定してんだ?」
珍しく、表情が読めない。
それが、鹿倉には痛い。田村の感情なんて、いつもなら手に取るようにわかっていたから。
「現場を抑えられるまでは、逃げた方がいいんだろうけどね」
浮気なんてそんなもんだろ、なんて思いながら鹿倉が言う。
けれど。
「は?」
「ヤってるよ。実際」
素直に、答えた。
もう、黙っている方がしんどい。
「それって浮気……じゃ、ないか」
少し、拗ねてる声。
田村の目の色が見えたから、鹿倉は小さく息を吐いてもう一度唇を舐める。
「俺、昔からゆってるけどね」
「誰とでも、寝るって?」
「求められればね。ただ基本的に、男求める男なんてそう簡単にいねーから」
自分の中に、田村をこのまま繋ぎ留めたいという欲求と、すっぱり体の関係は解消してしまった方がいいという理性がせめぎ合う。
その迷いのせいで、上手く言葉を操ることができなくて。
「かぐ。俺は、かぐがその人のこと好きなんだったら、もう抱けない」
綺麗な、真っ白い田村。
純粋で、ただただ他人のことを心から信じて疑うことを知らなくて。
真正面から体当たりしてって、跳ね返ったせいで大怪我を負っても、それでも相手を絶対に責めない天使みたいな田村。
鹿倉が、自分の傍にいて欲しいと願う、ただ一人の人間だから。
「わかんない」
「え?」
「わかんない、つってんの。俺、いつもゆってんじゃん? 誰とでもヤれるって。でも、逆に言うとそんな相手のこと、好きかどうかなんか知らねーよ。好きって、何だよ?」
思わず
本音が出ていた。
そう。好きって、何だよ?
結局、そこにたどり着く。
田村を好き、律を好き、志麻を好き、堀を好き。全部同じ“好き”だから。
だから、誰にだって抱かれたいし、誰とでもヤれる。
この感覚は、一体どう表現すればいい?
「かぐ?」
「ごめん、わけわかんないんだよ、最近。自分でも自分が、わかんないの。俺、田村に抱かれたい。でも、今俺のこと抱きたいって言ってくれるヤツ、いたら誰でも抱かれたいって思う。俺のこと抱きたいって言ってくれるヤツのことは、俺はきっと好きだよ。誰でもね。そーゆーの、許せる? おまえが許せないなら、俺はもうおまえには抱かれない。ちゃんと、弁える」
こんなに素直に、自分の想いを口にするのは初めてで。
言ってしまってから、どうしようもなくなって自分で自分を抱きしめた。
とてつもなく、自分がただ一人、孤独だと感じて。
誰も愛せないし、誰からも愛されない。
自分は、そんな人間だと思い知らされたから。
裸の自分が、すごく寒くて。
勿論、下は繋がったままで。
当然、まだこんな状態で眠るなんてことはないけれど、それでも田村のぬくぬくな体に包まれているこの瞬間は、半分眠りに落ちてもいいかと思えるくらい、柔らかい時間で。
「かぐ……」
「ん?」
耳元に囁いた声が、優しかったけれど。少し、引っかかる。
「俺、かぐみたく言葉選んだりとかできないから、直球で訊くよ?」
ああ。そうか。えっちしてんのに“かぐ”って呼んでるからか。と、鹿倉がぼんやりと田村の声に耳を傾けた。
「誰かと、ヤってる?」
すっと、目が覚める。
けれども田村の優しい腕は、何も変わらない。
鹿倉も辛うじて、微動だにしない、という逃げ道だけは確保できた。
「違ってたら違ってたで、別にいいし。てか、ほんとは勘違いだと思いたいんだけど」
さて。どういう返しが正解か。
さすがにいつものように流れるような嘘が出てこない。
黙っていることこそが、その答えになってしまうと、鹿倉自身はわかっているけれど。
無邪気な田村なら、つるつると嘘を並べればきっと騙されるはずで。
鹿倉は唇を湿らせるように、一度舐めた。そして、口を開く。
「誰が、いい?」
「え?」
「誰とヤってる、って答えが欲しい?」
田村のモノが萎えて、自分の中から抜けて出たのを感じて。
鹿倉はくるりと体を反転させた。正面から田村を見る。
「堀さん? 志麻さん? それとも他の、田村が全然知らない人?」
目を細め、ほんの少しだけ口角を上げて。作り笑顔、かもしれないけれど。
田村の真意を掴むまで、誤魔化すような表情でその目を見る。
「ヤってる、ってことは確定してんだ?」
珍しく、表情が読めない。
それが、鹿倉には痛い。田村の感情なんて、いつもなら手に取るようにわかっていたから。
「現場を抑えられるまでは、逃げた方がいいんだろうけどね」
浮気なんてそんなもんだろ、なんて思いながら鹿倉が言う。
けれど。
「は?」
「ヤってるよ。実際」
素直に、答えた。
もう、黙っている方がしんどい。
「それって浮気……じゃ、ないか」
少し、拗ねてる声。
田村の目の色が見えたから、鹿倉は小さく息を吐いてもう一度唇を舐める。
「俺、昔からゆってるけどね」
「誰とでも、寝るって?」
「求められればね。ただ基本的に、男求める男なんてそう簡単にいねーから」
自分の中に、田村をこのまま繋ぎ留めたいという欲求と、すっぱり体の関係は解消してしまった方がいいという理性がせめぎ合う。
その迷いのせいで、上手く言葉を操ることができなくて。
「かぐ。俺は、かぐがその人のこと好きなんだったら、もう抱けない」
綺麗な、真っ白い田村。
純粋で、ただただ他人のことを心から信じて疑うことを知らなくて。
真正面から体当たりしてって、跳ね返ったせいで大怪我を負っても、それでも相手を絶対に責めない天使みたいな田村。
鹿倉が、自分の傍にいて欲しいと願う、ただ一人の人間だから。
「わかんない」
「え?」
「わかんない、つってんの。俺、いつもゆってんじゃん? 誰とでもヤれるって。でも、逆に言うとそんな相手のこと、好きかどうかなんか知らねーよ。好きって、何だよ?」
思わず
本音が出ていた。
そう。好きって、何だよ?
結局、そこにたどり着く。
田村を好き、律を好き、志麻を好き、堀を好き。全部同じ“好き”だから。
だから、誰にだって抱かれたいし、誰とでもヤれる。
この感覚は、一体どう表現すればいい?
「かぐ?」
「ごめん、わけわかんないんだよ、最近。自分でも自分が、わかんないの。俺、田村に抱かれたい。でも、今俺のこと抱きたいって言ってくれるヤツ、いたら誰でも抱かれたいって思う。俺のこと抱きたいって言ってくれるヤツのことは、俺はきっと好きだよ。誰でもね。そーゆーの、許せる? おまえが許せないなら、俺はもうおまえには抱かれない。ちゃんと、弁える」
こんなに素直に、自分の想いを口にするのは初めてで。
言ってしまってから、どうしようもなくなって自分で自分を抱きしめた。
とてつもなく、自分がただ一人、孤独だと感じて。
誰も愛せないし、誰からも愛されない。
自分は、そんな人間だと思い知らされたから。
裸の自分が、すごく寒くて。
1
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる