キュートなSF、悪魔な親友

月那

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キュートなSF、悪魔な親友

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 二度目は、律がラインで鹿倉を誘った。
 仕事中は何事もなかったように接してくるし、どれだけ二人きりになろうとも律に対して確実に線を引いているのがわかるから、本当にあの夜のことが夢だったのかと戸惑う程で。
 だから、確かめたくて。
 鹿倉が翌日休みだと知って、それならばと家に誘うとあっさりとOKのスタンプが返って来た。
 今日はスケジュールが全然違っていたから、早めに帰宅できた律が家で待っていると、鹿倉からマンションの下に着いたとラインが入った。
 エントランスの扉を遠隔操作で開けて暫く待つと玄関のチャイムが鳴り。
「はい、これ」
 コンビニの袋を手渡される。
「え?」
「下でアイス買ってきた。律、一緒に食べよ」
 怖いくらい自然に、名前を呼ばれて。
 あまりにも嬉しくて、靴を脱いで振り返った鹿倉を抱きしめる。
「いや、アイス溶けるから」
 くふくふと笑いながら、律の背中をポンポンと叩いて。
「御飯、食べた?」
 でも逃げないまま、腕の中でそんな普通のことを訊いてくる。
「まだだけど」
「ウーバーでいい?」
「そりゃ、まあ」
 鹿倉はぎゅ、と律を抱きしめるとするりとその腕から抜け出してリビングへと向かった。
 そして当たり前のようにソファ前のラグにころん、と寝転ぶ。
「ここ、落ち着く」
「いいけど。スーツ皺になるから、着替えろよ」
 律が言って、前回と同じスウェットを鹿倉に渡した。
「ん。じゃあ、ついでにシャワーも、いい?」
 くるん、と上目遣いに言われて心臓を鷲掴みにされる。
「…………かぐちゃん、わかってる?」
「何が? あ、ついでにパンツも借りるし。俺、何も持ってきてねーから」
 くふくふといつものふざけた笑いで、ジャケットだけを手渡された。
「……田村んちでも、そんな感じ?」
「そんな感じ」
 一言だけ残し、可愛いウィンクを決めてバスルームへと消えた。
 こんなに、一挙手一投足に全神経が逆撫でされる感覚は初めてで。
 鹿倉が、仕事で見せる顔と全然違う可愛さで律を無意識に翻弄するから、シャワーの音が聞こえ始めると一気に脱力してしまう。
 それでも自分をぐっと立ち上がらせると、鹿倉のスーツを寝室のハンガーに掛けに行く。
 ベッドを一瞥すると下半身が熱くなるのを感じたが、あまりにも自分が焦り過ぎていることに気付き、頭を振ってその場から離れた。
「ダメだ……」
 今日は、とにかく冷静に話がしたかった。
 自分の想いは告げたし、あんなにも情熱的に自分を求めてくれた。そして今日、無邪気な笑顔で名前を呼んでくれたし、こちらの意図を知った上でこの部屋を訪れてくれた。
 そんな鹿倉に。
 でも、律にはどうしても確認したいことがあって。
 リビングのソファに、座る。
 鹿倉が来る前からテレビはついているいるけれど、内容なんて全然頭には届かなくて。
 ただただ、画面を睨みつけるようにして手を組んで祈るような形で鹿倉を待っていた。
「……律って、そんな怖い顔でお笑い見るんだ?」
 背後から聴こえた鹿倉の声に振り返る。
「かぐちゃん……」
「何か頼んだ?」
「え?」
「メシ。まあ、別に腹減ってないし、ビールだけでも全然いいけど」
 がしがしとタオルで髪を拭きながら、律の横にぽすん、と座る。
「一緒にご飯、食べるつもりじゃなかった?」
 ふわりと、自分が使っているシャンプーの香りがして、覗き込んできた鹿倉が訊いた。
「あ。うん。まだ、頼んでない」
「どうかした? なんか、ほんと難しい顔してるけど」
「かぐちゃん……」
「ん?」
 くるん、とキャラメル色の瞳が輝く。
「あのさ。かぐ。俺、言ったこと覚えてるよね?」
「いや。そんな脈絡なく話されても何のこっちゃか全然わかんねーけど」
 くふ、と笑って鹿倉が言うから。
 いっぱいいっぱいになっていた律は、一度頭を掻いて話すことを整理した。
「俺、かぐちゃんのこと好きって、ゆったよね?」
「うん、聞いた」
 すとん、と答えてにっこりと微笑んでくれる。
「かぐちゃんは……てか、かぐちゃんも、俺のこと、好き?」
 あんなことをして、でもそれを許してくれ、受け入れてくれたけれど。
 確認。
「スキだよー」
 するとそう言って、頬にキスをくれる。
 が。
 何か、違う。
「いや、じゃなくて」
 その答えのあまりの軽さに頭を抱えたくなる。
「あのね、律。二人きりでデートとか、したかったらするよ? えっちしたいなら、全然抱かれるし」
 鹿倉がふわふわと笑顔で言う。
「でも、束縛されんのは、ヤダ」
「え?」
「俺、さ。唯一の趣味がゲームなんだけどね。それ、邪魔されたくない」
 はっきりとそう言って、
「そーゆーの、律が嫌なら。俺は、いつでももっさんに戻せるよ」
 冷静な声で律の目を見つめた。
「俺だけのモノ、にはならないけど……ってこと?」
 律の言葉に、鹿倉はただ無言で微笑んだ。
 イエスともノーとも取れるその曖昧な微笑みは、怖いくらいに綺麗で。
 悪魔のようなそれに。
 ただ見惚れるしかできなくて。
 一瞬なんだか、数分なんだか、わからない感覚でただ見つめ合っていると。
「難しい話、終わり。とりあえず、喉乾いたからビール、貰うね」
 鹿倉がぱん、と手を叩き、立ち上がってキッチンへと向かった。
「あ、ちくわあるじゃん。も、俺これつまんで呑むだけでいいや」
「かぐ!」
「ん?」
「それでもいいから、傍に置いときたい」
「……ちくわを?」
「ふざけんなって」
 キッチンでくふくふ笑っている鹿倉につかつかと歩み寄ると、その細い体をぎゅっと抱きしめる。
「おまえが悪魔なの、最初からわかってるよ。でも、欲しいモンは欲しい」
 そう言うと、掌で鹿倉の白い頬を掴むようにして、唇を重ねた。
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