キュートなSF、悪魔な親友

月那

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キュートなSF、悪魔な親友

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「――っわあああっ!!」
 田村は自分の声で目を覚ました。
 ガバリと上半身を起こすと、枕元の小さなスタンドライトを灯す。
 ベッドの上、灯りの元で自分の股間を見下ろすと、そこは完全に張り詰めていて。
 スウェットにまで染みができている。
「……なんちゅー夢……」
 びんびんに勃っている自分のモノが、今見ていた夢がどれだけリアルだったかを物語っていて。
 まるで、目の前で鹿倉と堀がセックスしているみたいな、その喘ぎ声さえもが聴こえてくるようで。
「まじかよ…………」
 田村は収まる気配のない自身に、大きくため息を吐きながら額に掌を当てた。
 目を閉じると確実にエロエロな鹿倉の裸体が浮かぶ。というこの現状。
 スマホを見ればまだ夜中の三時。
けれど、こんなにきっちり勃起している状態で眠れるわけがない。
そして何もしないでコレが収まるわけがないことは、自分の体だけによーくわかっている。
週に何度も体を重ねていた時は一人でなんてシていなかったけれど、ここ一か月程鹿倉を抱けていない今、溜まりに溜まっている自覚は、ある。
だから。
勝手に右手がソレに手を伸ばしていた。
「よっくん……」
 今まで一人でヤる時に、鹿倉をアテにしたことは、ない。基本的にAVは女性の裸体。そんな田村なのに。
「うう……」
 とにかく、今この瞬間、瞼に焼き付いているのは鹿倉の白い裸なのだ。
 くふくふと笑いながら誘ってきて、白い肌を上気してほんのり赤く染めながら「抱いて」と強請る鹿倉。
 恥ずかしがることもなく、淫猥な目をこちらに向けて自分のモノを扱く悪魔のような笑顔。
 挙句、俯せで局部をこちらに向け、「挿れて」なんて半開きにした唇に人差し指を宛てながらウィンクを決めて腰を振る。
 そんな。卑猥な鹿倉の姿が田村の脳裏を駆け巡る。
 モノを扱いている自分の右手すらも、鹿倉のその白い手に重なり。
「っくっ……んっ……」
 どんどん、昂ってきたソレが硬さを増し、びくびくと脈打つ。
「ふっ……あ……よっくん……」
 先端から溢れてきた先走りのせいで、目を閉じるとまるで鹿倉の中を行き来する自分のモノが、ぐちゅぐちゅと音を立てているようで。
「……うっ……あっ……くっ……」
 いつも抱いている場所なだけに、鹿倉の「あん……イイ……奥、もっと」なんて声までが頭に響く。
 田村の手は完全にその快感を追い求め、竿を扱き指先で先端をぐりぐりと弄ると。
「あっ……」
 虚しく空に精を吐き出した。
 慌ててティッシュで飛び散った精液を拭う。
「はあ……」
 その瞬間。もの凄い虚無感と、罪悪感が押し寄せてきた。
 まさか。一人えっちで鹿倉をネタにするなんて。
 自分で自分が信じられない。
「だって……あれは、ヤバイだろお……」
 言い訳のように一人呟く。
 少しだけ、張り詰めていたモノがパンツの中で一応の落ち着きを見せると。――本音を言えば、こんなもので収まるわけもないのだが――。
「やっぱ……ヤったのかなあ、あの二人」
 先ほど見た夢が、実際に起こったのならば。
 きっと堀に惚れている鹿倉だから、堀さえその気になればアレが現実になるのは確実だから。
 田村は頭を抱えた。
 だって。
 そんなの、嫌だと思ってしまう。
 鹿倉は自分のモノじゃないのに。鹿倉に対して独占欲なんて、持っているわけがないのに。
 なのに。堀が鹿倉を抱くのを許せないと、思ってしまう自分がいる。
「俺、かぐのこと、好きなのかなあ?」
 自問して。考える。
 好きだ、と思う。その答えは、簡単に出る。
 当たり前だ。もう十年傍にいる。同性なのに、いくらでも抱ける。
 そんな相手、鹿倉以外にいない。
 …………でも。
 本当に“恋愛対象”として好きなのか、と。考えたらそれに対する答えは全く出てこない。
 ずっと、鹿倉だけを愛し続けるか、なんて。そんなことはない、と思う。
 だって、実際志麻のことが好きで、志麻を抱きたいという気持ちは全然あるわけで。
 しかしそれが現実になるかどうか、と考えたらそれは確実に無理ゲーで。
 志麻を抱けないから鹿倉を抱くのか?
 ……いや、それも違う。……とも、言い切れないのか?
 ここで、完全に頭を抱えてしまうのだ。
 志麻を抱けない代わりに鹿倉を抱いている。というのなら、なんで今、堀が鹿倉を抱くことに嫌悪感を感じる?
 自分だけの鹿倉でいて欲しい。なんてこと、今まで感じたことはない。
 高校時代、とにかく初めて見た瞬間から鹿倉が気になったのは事実。だから友達になりたいと思った。そして声をかけて、くっついて回っていたら鹿倉に「俺、ゲイだから」ととんでもないカムアウトなんてされて。
 そんなこと、全然気にならなかったし、むしろ。なんとなく納得すらしている自分がいて。
 それまでに自分が恋愛対象として見ていたのは女の子ばっかりだったし、鹿倉に対して恋愛感情を抱くことはなかったけれど、年齢的に性的衝動なんてのは猿並だったから、鹿倉のふとした表情に“イケるかも”と思ってしまったのは仕方がないだろう。
 だから。つい。鹿倉の部屋で二人きりでそんな空気になってしまった瞬間、いつの間にか二人でお互いのモノを扱き合っていて。しかもそれが、習慣になり。
 体を繋ぐ行為だけは、さすがに恐怖心が勝ってしまったからできなかったけれど。
 大学に入り、自分が女の子と付き合い始めてから。というより、女の子とセックスするようになってからは。
 とりあえず、鹿倉とそういうことはしなくなり、距離は少しだけ開いて。
 でも。友達としては一緒に過ごしていたいと思っていたから、縁を切ることはなくて。
 最初の彼女と別れてから、鹿倉に慰めてもらっている時にいつの間にか鹿倉の体を求める気持ちが湧いてきて、そんな時に鹿倉が「ヤっていいよ」なんて言うから。
 どうやら自分が女の子とヤることを覚えた頃、鹿倉も自分以外の男からその方法を知ったらしく。
 いつしか、田村に女がいる時は鹿倉は他の男とヤってる、というのが自分たちの関係の暗黙の了解のようになっていき、今のこの現状に至っているわけで。
 だから。
 鹿倉がどれだけ他の男と寝てきたかも、知っている。しかも、“特定の相手”を作らない鹿倉が次々に飄々と男を作っては蹴倒してきたのだろうこともわかるから、田村が殊更鹿倉の相手を気に留めたことなんて今までなかったわけで。
 結婚まで考えた彼女と別れた時。今でこそ笑い話にしているが、その時の落ち込み方は半端なかったから、鹿倉の存在にはかなり助けられたし、そこから今までずっと傍にいてくれる鹿倉を“彼女”のように感じていたのかもしれない。
 結局のところ、自分の中で鹿倉がただのセフレだけじゃなくてそれ以上のもっとより深い関係を求めていたのかもしれないと考えているうちに、いつの間にか田村は眠りについていたらしく、何の答えも見つからないまま朝を迎えた。

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