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キュートなSF、悪魔な親友
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鹿倉が、来ない。
当然忙しくなればお互いすれ違うことはあるし、だからといって約束をしているわけでもないからそのことに言及することはない。
が。
会社ですら会わない日が十日を過ぎた頃、さすがに気になった田村が
「生きてる?」
と一言ラインを入れた。
なのに、そのメッセージに既読は付いたのに何の返答もなく。
鹿倉が現状堀の案件であちこち駆けまわっていることは知っているし、自分も珍しく棚橋の下についたせいで――鹿倉が堀案件で手一杯だったので――、慣れない業務に頭を抱えていて。
「何だよもう。忙しいなら、なおのことウチ来て栄養採れよなー」
スマホの画面を見て一人呟く。
自分が忙しい分には、料理が気分転換になるから鹿倉の来訪なんて全然邪魔にはならないし、逆に鹿倉が忙しいのならしっかり自分の元で甘えてくれればいいと思う。
だから、こうして何日も顔を見せない鹿倉が心配になるのだけれど。
結局何の音沙汰もないまま二週間が経ち、しびれをきらした田村が鹿倉に電話した。
「生きてるかどうか、返信くらいしろよ」
繋がって一言、田村が言うと。
「生きてるけど、死んでる」
「メシ、ちゃんと食ってる?」
「……いちお?」
「食ってねーな?」
「メロンパンと、ウィダーと、あとはビールかな」
「……死ぬぞ、まじで?」
「でも、明日はなんかイイトコ泊まれるって堀さんがゆってた。海近いから、美味しい魚料理出してくれるんだって」
鹿倉の声が思っていたより元気だったから、田村は安心した。
「んじゃ、しっかり栄養採って。おまえ、基本的に体力ねーんだから、あんま無茶すんなよ」
「田村、精力持て余してんだろーから、たまには誰かとヤっちゃってていいからね」
「余計な心配してんじゃねーよ!」
向こう側でくふくと笑っている声が聞こえたから、田村は苦笑した。
「じゃ、ソラちゃんによろしく」
くだらない会話だったけれど、生存確認はできたから。
なんだって「恋人」でもないヤツの心配してんだろう、とちょっと自分に疑問を持ってしまったけれど、親友だって心配くらいしていいだろうと。
言い訳がましいかもしれないけれど、そう、自分を納得させていた。
のに。
それからも暫くまた連絡はなく。
仕事に追われている中、久しぶりに鹿倉の姿を目にしたのは電話をしてから更に一週間が経っていた。
資料をまとめる為にPCに向かっていると、いつものように堀のお尻を触りながら鹿倉が事務所内に入ってきて。
「だから、ケツ触んなや!」
堀に言われていつものようにくふくふと笑っている鹿倉の声を聴くのも久しぶりで。
田村が視線を向けると、
「もおおまえ、いい加減にしないとバラすぞ?」
と堀に腕を掴まれ、やんわりと睨まれた鹿倉が、ほんの少し目元を赤くした瞬間で。
きっと、他の誰が見ても恐らくそんな鹿倉の表情の変化なんて気付かないくらい、一瞬だったから。
「しー」
次の瞬間にはいつものように悪い顔をして唇に人差し指を当てていて。
堀がそれを見て、ふにゃふにゃと幸せそうな笑顔になったから。
田村は、気付いてしまう。
この数週間の音信不通の期間。二人の間に起きたのであろうことに。
恐らく、それが真実で。
思っていたよりも、自分がショックを受けているということが、よりショックで。
別に、鹿倉を自分のモノだなんて思っていないし、自分が好きだと思っているのは鹿倉じゃなくて志麻だと、ちゃんとわかっているのに。
今までだって、鹿倉が誰かに抱かれていたことなんて全然知っているのに。
相手が堀だから、なのか。
いや、堀のことは尊敬しているし鹿倉が堀を選んだというのならそれを否定するのは間違っている。
何より、鹿倉が幸せなら、それに対して自分がどうこう言える立場じゃないことなんて、はっきりと自覚しているから。
この、感情は何だ?
田村は、二人の姿がまともに見れなくて。
だからといって、目の前にある書類に集中することなんてできるわけもなく。
一旦保存処理だけすると、席を離れることにした。
当然忙しくなればお互いすれ違うことはあるし、だからといって約束をしているわけでもないからそのことに言及することはない。
が。
会社ですら会わない日が十日を過ぎた頃、さすがに気になった田村が
「生きてる?」
と一言ラインを入れた。
なのに、そのメッセージに既読は付いたのに何の返答もなく。
鹿倉が現状堀の案件であちこち駆けまわっていることは知っているし、自分も珍しく棚橋の下についたせいで――鹿倉が堀案件で手一杯だったので――、慣れない業務に頭を抱えていて。
「何だよもう。忙しいなら、なおのことウチ来て栄養採れよなー」
スマホの画面を見て一人呟く。
自分が忙しい分には、料理が気分転換になるから鹿倉の来訪なんて全然邪魔にはならないし、逆に鹿倉が忙しいのならしっかり自分の元で甘えてくれればいいと思う。
だから、こうして何日も顔を見せない鹿倉が心配になるのだけれど。
結局何の音沙汰もないまま二週間が経ち、しびれをきらした田村が鹿倉に電話した。
「生きてるかどうか、返信くらいしろよ」
繋がって一言、田村が言うと。
「生きてるけど、死んでる」
「メシ、ちゃんと食ってる?」
「……いちお?」
「食ってねーな?」
「メロンパンと、ウィダーと、あとはビールかな」
「……死ぬぞ、まじで?」
「でも、明日はなんかイイトコ泊まれるって堀さんがゆってた。海近いから、美味しい魚料理出してくれるんだって」
鹿倉の声が思っていたより元気だったから、田村は安心した。
「んじゃ、しっかり栄養採って。おまえ、基本的に体力ねーんだから、あんま無茶すんなよ」
「田村、精力持て余してんだろーから、たまには誰かとヤっちゃってていいからね」
「余計な心配してんじゃねーよ!」
向こう側でくふくと笑っている声が聞こえたから、田村は苦笑した。
「じゃ、ソラちゃんによろしく」
くだらない会話だったけれど、生存確認はできたから。
なんだって「恋人」でもないヤツの心配してんだろう、とちょっと自分に疑問を持ってしまったけれど、親友だって心配くらいしていいだろうと。
言い訳がましいかもしれないけれど、そう、自分を納得させていた。
のに。
それからも暫くまた連絡はなく。
仕事に追われている中、久しぶりに鹿倉の姿を目にしたのは電話をしてから更に一週間が経っていた。
資料をまとめる為にPCに向かっていると、いつものように堀のお尻を触りながら鹿倉が事務所内に入ってきて。
「だから、ケツ触んなや!」
堀に言われていつものようにくふくふと笑っている鹿倉の声を聴くのも久しぶりで。
田村が視線を向けると、
「もおおまえ、いい加減にしないとバラすぞ?」
と堀に腕を掴まれ、やんわりと睨まれた鹿倉が、ほんの少し目元を赤くした瞬間で。
きっと、他の誰が見ても恐らくそんな鹿倉の表情の変化なんて気付かないくらい、一瞬だったから。
「しー」
次の瞬間にはいつものように悪い顔をして唇に人差し指を当てていて。
堀がそれを見て、ふにゃふにゃと幸せそうな笑顔になったから。
田村は、気付いてしまう。
この数週間の音信不通の期間。二人の間に起きたのであろうことに。
恐らく、それが真実で。
思っていたよりも、自分がショックを受けているということが、よりショックで。
別に、鹿倉を自分のモノだなんて思っていないし、自分が好きだと思っているのは鹿倉じゃなくて志麻だと、ちゃんとわかっているのに。
今までだって、鹿倉が誰かに抱かれていたことなんて全然知っているのに。
相手が堀だから、なのか。
いや、堀のことは尊敬しているし鹿倉が堀を選んだというのならそれを否定するのは間違っている。
何より、鹿倉が幸せなら、それに対して自分がどうこう言える立場じゃないことなんて、はっきりと自覚しているから。
この、感情は何だ?
田村は、二人の姿がまともに見れなくて。
だからといって、目の前にある書類に集中することなんてできるわけもなく。
一旦保存処理だけすると、席を離れることにした。
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