キュートなSF、悪魔な親友

月那

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キュートなSF、悪魔な親友

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「いつも気になってたんだけどさー、かぐちゃんって田村んちに住んでるの?」
 駅近くのチェーン店なんてお手軽居酒屋で、夕飯を兼ねて軽く一杯。
 なんて、ジム行っている意味あるんだか、と思いながらも田村と山本はビールで乾杯した。
 お互いのトレーニングについて一通り語り合い、二杯目の注文をした後に山本がそう問いかけてきたので田村は、
「いや、住んでないっスよ。入り浸ってるだけ」
 枝豆を摘まみながら答えた。
 山本はいつも鹿倉を「かぐちゃん」と呼ぶ。それは、何とも言えない愛おしさを含んでいる呼び方で。
 勿論、愛されキャラな鹿倉なので誰からもそう呼ばれているし、その呼び方が皆鹿倉を好きだという気持ちを含んでいるのは昔からなので、田村も当たり前に聞き流しているけれど、山本の呼ぶそれは更に深い意味を含んでいるような気がして。
「あー。かぐ、別に俺のモンとかじゃないっスよ? ほんと、高校ん時からずっと一緒にいるから腐れ縁みたいなモンだし」
「の、割に田村が独占してるみたいに見えるけど」
「独占って……」
 眉をしかめた。そんなつもりは全くない。
「最近は俺より堀さんに懐いてると思うけど。どっちかっつーと」
 そう。
 どうやら鹿倉が堀に対して以前より甘えているのは確かで。
 二人で組む仕事も増えてきて、勿論勉強になるのは絶対だから堀の仕事のサポートに付くのはチーム内でも争奪戦になることは当然なのだけど、堀が面白がって鹿倉を手元に置くことが多くなっているのだ。
 他チームからだって、堀と組みたいと思っている人間は山ほどいるのに、今まで右腕のように付けていた志麻だけじゃなく、そこに鹿倉を加えることが増えていて。
「確かに、堀さんはかぐちゃんのこと育てようとしてるんだろうね。どっちかというと田村には志麻さん付けてるけど、堀さん、かぐちゃんは自分で育てたいっぽい」
 部内ではツートップと言われる業績をもっている堀と志麻のペアは、企画部に所属してから二人で数多くの伝説を残しているらしい。それ故に、新しくチームを組むにあたり、新人にちょっと毛が生えたくらいの田村鹿倉ペアを下に付けたのは、彼らの教育も兼ねているというのが、恐らく真実で。
 志麻の仕事のサポートに付く、というよりは、田村の仕事に志麻がフォローを入れてくれていることが多いので、ほとんど世話係的な立ち位置に志麻がいてくれて。
 それが、田村としてはやっぱりちょっと悔しい。
「俺志麻さんの足引っ張ってるだけな気がして」
「そんなことないよ。田村の視点は他の誰にも真似できないからおもしろいっていつも志麻さん話してるし。そのネタを上手くプレゼンできるように筋道立てるのが苦手なんだろ? 志麻さんがそこ、フォローしてくれてるだけだよ」
 山本が思いの外優しい言葉をかけてくれて。
 きょとん、とした表情が気になったのか、眉を寄せる。
「いや。もっさんてそんな優しかったっけ?」
「だから! なんでもっさん?」
「あ……つい」
「ついって! 律さんならわかるんだよ、人によっては“りっさん”って呼ばれるし。何その“もっさん”は? お前とかぐちゃんだけじゃん、その変な呼び方すんの」
「えー。だって、やまもとさんって呼ぶの、略すともっさんになるし」
「そこ? そこ、切る?」
「うん。つい」
 あ、やべ、タメ口だ。
 田村は気にしたけれど、山本はタメ口には何も言わなかった。いや、寧ろその方が嬉しいみたいだ。田村のタメ口に、ふっと表情を緩めた山本はジョッキを傾けて一口飲むと、
「何だよ、それ……」
と。笑って話始めた。
「俺さ、小学校の時にイジメにあってたのよ。ほら、外見こんなだしさ」
 色素の薄い茶色い目、白い肌、端正な顔立ちに高身長。という、およそあらゆる男子が欲しいと思う要素を兼ね揃えている山本なのに、実はそれがコンプレックスで。
「その頃はよく“ダサい”とか“モサい”とか言われてて。だから、中学の終わりくらいから親父の知り合いの関係でちょっとしたモデルとかやって結構イキってたわけ」
 自嘲気味な口調なので、田村もすげえ、モデル! とは思ったものの、あえて口には出さないでそのまま山本の話を聞いた。
「で、高校卒業する頃には、逆に女の子たちからチヤホヤされて天狗になって無駄にトガっちゃってさ。今度はそれを一番信頼してた先輩に鼻っ柱折られるし」
 今、現状の山本は会社的にもエリートとされているし、プライベートも充実しまくっている(田村からはそうとしか見えないので)というのに、そんなイケメンエリート完璧超人にも辛い過去があったという話は。
 ちょっと、田村にもグッとくるものがあって。
「でね。それがココに来てさ、まー人のこと“もっさん”なんてだっせー呼び方しやがる年下のナマイキな奴らがさ、きゃらきゃら笑いながらじゃれてくる今がさ、なんかもーホント腹立つし」
 むに、と田村の頬を抓って、でもこの上なく幸せそうな表情で。
「居心地いいな、この会社は」
「痛いっスけど!」
「お前も、かぐちゃんも、まるっきり子犬がキャンキャンじゃれてるとしか思えねーし。かと思えば、堀さんが志麻さんと組んで、俺なんか考えもつかないような企画を次々繰り出してきちゃー、話題かっさらってくし」
「ヘッドハンティング、されて良かったっスねー」
 田村が抓られた頬を自分で撫でながら、口を尖らせた。
「ヘッドハンティング?」
「でしょ? あの最大手のR企画から引き抜かれてウチに来たって話、社内で駆け巡ってたけど」
 口の中に肉を放り込んだ後の焼き鳥の串をぶん回しながら田村が言うと。
「何だよそれ? ココの社長が、俺の昔からの友達の父親なだけだぜ? 前の会社がイマイチ合わなくて、クサってるとこを拾ってくれただけ。学生時代から俺のヒトトナリってのは知ってるから、結構自由に遊ばせてくれるこの会社が合ってんじゃないかって」
「えー? まじっスか? でもR企画にいたってのは事実っスよね?」
 山本は頷いたが、その事実に大した意味はないようで、黙ったまま手元にあったモズク酢をすすった。
「なんか俺、もっさんのことあまり知らなかったからかなりイロメガネで見てたような気がする」
「……もっさん呼びはもう、認めてやるよ」
「あ」
「あ、じゃねーだろ。もういいわ、ソレ。悪口じゃねーんだったら、お前とかぐちゃんにだけは許してやるよ」
「あざーっス」
 かるーい口調で返したけれど、山本が嬉しそうに笑っているのがわかり、田村は安心してビールを飲む。
 結局何が一杯だけだという状態で、日付が変わるまで延々飲み続け、翌日は完全に二日酔いでつぶれたのだった。
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