キュートなSF、悪魔な親友

月那

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キュートなSF、悪魔な親友

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 田村の部屋には、なぜか鹿倉が育てている野菜たちがいる。
 その日も朝からベランダに出ては、甲斐甲斐しく植木鉢の世話をやいている鹿倉の姿を見ていた田村は、
「連れて帰らなくていいのかよ」と声をかけた。
 週休二日制の会社ではあるが、仕事が半分サービス業のようなものなので、会社自体は基本的に年中無休である。総務課はそれでも土日休みが基本であるが、自分たち企画部なんてほぼすべての業務が個人の采配に任されているから、同じチームであっても仕事のスケジュールはバラバラである。
そんな中、珍しく休みが重なったので、昨日からべったり鹿倉と一緒に過ごしているわけだが、「恋人同士」というわけでもないので何の予定もなく、朝から二人でまったりしているだけで。
「んー。家じゃ、ゲームしかしないから、世話なんかしないし」
 三日と開けずに田村の部屋に出入りしているから、寧ろこっちにいる方が人間らしい生活をしているのだ、と鹿倉はいつも言っている。
「棚橋さんから育てろって言われたし、枯らしたら怒られそうだからさー」
「家庭菜園にハマってるって言ってたね、そういえば」
 チームこそ違うけれど、時々一緒に組んで仕事をする棚橋は、鹿倉たちより全然先輩で。
 それでも、鹿倉はどんな先輩にもやたらと気に入られる人間なので、どんな先輩と組んでも基本的に甘やかされる。怒られる、と本人は言っているが、恐らく何をやっても許されるだろう。
 田村が様子を見に、鹿倉のいるベランダに出ると。
「ぜんっぜん興味ないし、育てたことないって言ってんのに押し付けられるし。ここなら俺だけの責任じゃないって主張できるし」
「おいこら。なすりつけるなよ」
 鹿倉はにやっと嗤って、間引いた葉っぱだか何だかを田村に押し付けると、任務完了とばかりにベランダから部屋に入り、とっととバスルームに手を洗いに行った。
 まあ、その。
 こうやってさらっと甘えてくる所が、どんな人間にもある庇護欲というものを掻き立てるのだろう。
 例外なく自分も、押し付けられたゴミを当たり前のように受け取り、当たり前のように捨てに行くわけだけど。
「今日何する?」
 ゴミを捨てるついでに、部屋の掃除を始めた田村に鹿倉がすり寄ってきた。
 床をクイックルワイパーでくるくると拭いて回っている田村に、何をするでもなく付いて回る。
 猫かよ。
 と思いながら田村が「洗濯」と短く答えて。
「じゃなくて」
「洗濯物干したら、ジム行ってくる。今週忙しくて全然行けてないし。このまま動かないでいると体が鈍る」
「えー。ゆうべ運動したじゃん」
 恥ずかしげもなく、にまにまと嗤いながら鹿倉が言う。ったく、この男だけは!
「あんなもん、運動じゃねー」
「俺にはあれで十分だけど」
「かぐもジム行けばいいのに」
「やだよ。筋トレとか、俺には向かない」
 ベランダで洗濯物を干している田村をよそに、鹿倉がソファに横になる。そのまま携帯でゲームを始めたようだ。
 田村としても、トレーニングして汗を流している健全な鹿倉なんて想像もできない。
高校時代、自分はバスケ部で本気で走り回っていたけれど、鹿倉は野球部に所属しながらもひたすらサボっていた姿しか見ていない。
怖いのは、サボりまくっている鹿倉なのに、何故か誰も文句を言わずに「野球部所属」と主張し、時々気まぐれに試合に出てはピッチャーなんて花形をやっていたという事実で。
本人に聞いたことはない。聞いたことはないが、野球部のキャプテンが密かに鹿倉に惚れていたというウラの噂は、恐らく本当なんだろう。
そしてそれは、本人は自覚しながら素知らぬ顔をして振り回していただけ、という鹿倉の小悪魔っぷりを知っている田村だけが知る事実。
わからなくはない。
元々顔立ちは綺麗で、人懐っこい笑顔で誰にでも懐いて行き、挙句その懐に入って猫のように気まぐれに甘える鹿倉は、老若男女問わず人を魅了する悪魔のような男である。
田村も同じようにその甘美な果実を味わっているのだが、鹿倉が完全に相手に心を許さないことも知っているから。麻薬のようにのめり込むことだけは避けている。
それでも田村に対してだけは、他の誰にも見せない部分を見せてくれているから。
気まぐれにこの家にやってきては、ひたすらに自分に甘えている姿を可愛く感じてしまうから。
たぶん、鹿倉にとっても自分だけはちょっと特別な存在なのだと、そう思うと嬉しくなって鼻歌なんて歌いながら作業を終えた。
「田村、音痴」
「うっさい!」
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