Sugar and salt

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Sugar and salt

　あと、十分で着く。
　稔は車を走らせながら、気持ちは完全に自分を待つ武人の処へと行っていた。
“何で、帰るの？　オレ、シャワー浴びてくるってゆっただけじゃん”
　電話の向こう側で、完全に酔っているようだった。
　言葉どおり、あの後確かにシャワーを浴びたのだろう。
　だが、その後その部屋にいない稔にショックを受けたという。
“嘘つき！　おまえ、オレに甘えていい、ゆったじゃんか！”
　いないかもしれないとは思っていたらしい。
　が、実際にいないという事実に武人は確信したのだと。
　でも、そこにいない稔に自分が何を言ったかを思い知って。
　戸惑いながらも、何もできなくて。
　しかもそんな時に限って、国内に数台しかないという重機をわざわざ遠くから運んでこないといけない、なんていうとんでもない仕事がのしかかってきて。
　結局一週間、電話もできないまま一人で悶々としながら仕事していたのだ、と武人が言った。
　電話で、そこまで言って。
「も。やだ。電話じゃ、やだから！」
　そう言って、武人は稔を呼んだ。
　酔った勢いを借りて。借りないでは、言えなかったって。
　だから、稔は車を走らせるのだ。
　翻弄、されていいと思ったから。
　もう信じないと、思った。
　武人の“好きじゃない”なんて言葉、信じるものか、と稔は決めた。
　そして、二度と武人の傍を離れないことも。
「ばか武人……ほんっと……我が儘なヤツ」
　逢ったら、キスをしよう。
　何も言わせてやらない。
　もう二度と自分を拒絶する言葉なんて言わせない。
　だから、何も言わせない。
　キスで塞いでやる。
　稔は、だから車を走らせる。
　愛しい、愛しい武人という自分を振り回してくれる可愛い存在に思いを馳せて。
　今も、そしてきっとこれからもずっと。