Sugar and salt

月那

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Sugar and salt

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 久しぶりにしっかりと身体を繋ぎ合った稔は、射精の余韻に浸ったまま武人を抱きしめ、精液にまみれたままの細い身体を掌で撫で回しつづけていた。
「……くすぐったいよ、稔」
 少し掠れた声で武人が抗議の声を上げる。
「武人の身体、気持ちイイ」
「やらしい言い方」
「いいじゃん。気持ちイイもんはイイんだから」
「エロ親父」
 言っている割に、武人もそれを愉しんでいる。
 セックス自体よりも、どちらかというとこうしてじゃれあうことが楽しい稔は、すぐにシャワーを浴びに行こうとする武人をいつまでも引き止める。
 武人としてもイヤではないから、射精後の気だるい体をそのまま稔に預けるのだ。
「なんか、さー。オレ……」
「ん? 何?」
 言いかけて、そのまま黙り込んだ。
 武人はその沈黙の間、ずっと稔を見つめつづけている。
 稔も、その目から目を離すことができなかった。
 真剣な眼差し。
 一体、何を言おうとしているのだろうか。
 稔は少し、期待した。
 もの言いたげな瞳は、けれど稔には何も読み取れなくて。
 口が、ゆっくりと開かれる。
「……オレ、さ。あんたと会うの、やめるよ」
 だから、武人の突然のその台詞をすぐには理解できなくて、優しい微笑みがまるで異国の言葉を呪文のように唱えているように聞こえて。
 稔は反応できなくて、ただ茫然としていた。
「は?」
 小悪魔的な瞳をして、妖艶な笑みを浮かべて、武人は稔を冷たく突き放すように問う。
「やっぱさ。こんなこと、し続けちゃ、いけないんじゃないの? 稔の新しい恋のためにも」
「……タケ?」
「稔……あんた、誰か他の女の子とつきあいなよ。オレなんか追いかけても仕方ないだろ?」
 武人は冷静な声でそんな風に言う。
 それでもその目が言葉とは裏腹にそんなことをして欲しくないと思っているような気がして。
 稔は黙って武人を抱きしめた。
「オレといても、何も始まらない。オレなんかといるべきじゃない。オレは、あんたに戻らないんだから」
「そんなこと……わかってる。でも、これだけは知っておいてくれ。俺は好きでもない奴となんてつきあえない。今の俺がおまえのことしか好きじゃない以上、誰ともつきあったりなんか、しないんだ」
 ぎゅっと抱きすくめられて、武人は黙り込んだ。
 こうやっておとなしくしているからと言って、こうされていることを喜んでいるわけではないことは、身じろぎ一つしない武人の身体から伝わってくる。
 けれど、こうしていたいのだ。
 俺だけのものになって欲しい、そういう気持ちを言葉で伝えたいけれど、どれだけ言葉にしても伝わらないから。
 だからせめてこうしていたいのだ。
「武人。大丈夫だよ。わかってるから。もう、昔には戻れないこと、ちゃんとわかってるから」
 武人の頬に手を遣る。少し曇った表情が痛々しくて。
「だから、そんな目しないでくれ」
 瞼にそっと口付けた。
「武人……」
「稔。もう、ダメだよ。オレ、このままだとダメになる。あんたのこと、縛り付けてしまう」
「縛る……?」
「オレは、あんたのこと“好き”じゃない。そりゃ、キライじゃないけど。でも、オレがあんたの傍にいたら、あんたはオレから前に進めないじゃないか」
 武人が、まるで台詞のように言う。
 そう、前から考えていた、という感じで。
「前、向けよ。いつまでも後ろばっか、見ていちゃいけない」
 武人は言って、立ち上がった。
 稔の手を解き、自分の足で立ちあがった。
 それが、稔の言葉を完全に閉ざす。

「シャワー、浴びてくる」
 一言だけ言って、武人は稔の前から姿を消した。
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