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ever after
ever after -2-
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とりあえず。
“ゆかりちゃん、今、話せる?”
部屋でそれだけのメッセージを入れた。
メッセージのやりとりではなく、直接話をしたかったから。
七海が泊まっているということは残業も考えられたが、さすがにこの時間なら帰宅しているだろうと思われ。
しかし既読にならないままのそのメッセージに、ルカは不安を感じないではいられなかった。
仕事で見られていないのか、それとも……無視。
その可能性も否定できないだけに、携帯の画面を起動させて待つことさえ怖くて。
ルカはスリープさせたままの携帯を祈るように見つめた。
“あ、ごめんー。お風呂入ってたー”
十分程して、そんなあっけらかんとしたメッセージが入り、肩の力が抜ける。
“どしたー? なな、さやちゃんトコお泊まりでしょ? 何かあった?”
そっか。
ゆかりの総てである、七海がウチにいるから。
彼女は田所家からのメッセージを無視なんてできないのだ。
ルカは軽く苦笑した。
“ななちゃんはイイコしてます。それとは別件で、ゆかりちゃん、今話せる? 電話していいかな?”
さて。
その文章を送ってから少し後悔する。
七海に絡まない話なら、ゆかりがルカと話す必要はないのだから。
彼女が断る、あるいは無視することは、あり得るわけで。
“いいけど、ちょっと待ってー。急ぎじゃないなら、髪乾かしてからでもいいかな?”
ところがルカの心配をよそに、ゆかりからはあっさりとそんな返事が来た。
ほっとして、「OK」のスタンプだけ送って、ルカは気持ちを落ち着かせた。
深月のしたことに対してのお詫び。
それと。
……ほんとは、逢いたい。
考えてから、首を振った。それは、言ってはいけない。
いつか。
そう、いつかこの気持ちがゆかりのそれと同じカテゴリに整理されるまでは、きっと逢ってはいけないのだから。
今はとにかくゆかりに謝りたかった。
深月が何を言ったのかはわからないが、自分がフられてからも我が家に普通に出入りしていたゆかりが、ここ数日美紅さえもが訝しむくらいの様子を見せていることが気になる。
あの一瞬で自分のゆかりへの気持ちを見抜いた深月にはかなり驚いたが、それだけではなく更にゆかりの家まで探し当ててわざわざ会いに行く、なんて。
想像もしていなかっただけに、そのフォローもどうしていいのかわからないでいるのだが。
でも、そんなことより。
そう、深月には悪いが、彼女よりもやっぱり自分にはゆかりが最優先なのだ。
ゆかりが深月の存在をどう感じたのか、どう受け止めているのか。その方が心配で。
“お待たせー”
悩んでいると、ゆかりからのメッセージが届いた。
ので、電話、する。
「ごめん、ゆかりちゃん」
開口一番そう言い放つと、ルカは誰も見ていないけれども頭を下げた。
「え。何のこと?」
「深月が……えっと、あの時の女の子が、ゆかりちゃんにひどいこと言ったって聞いて」
本当に、何も気にしていないようなゆかりに、しかしルカはひたすら謝るしかない。
「ほんと、ごめん!」
「やーだ、七海から聞いたの? あんなのるーちゃんが謝ることじゃないよー」
ゆかりは、まるで気にも留めていない様子で明るく答えた。
「健気じゃない。七海が何言ったか知らないけど、あんなの、彼女だったら当然それくらい言いたくなっちゃうものよ」
いつものように優しい笑い声。クスクスと、本当に何にも気になんてしていない様子。
それは、まるでルカなんて眼中にないと言っているようで。
だから、少し寂しくなる。
「あたしのことなんて何も気にしなくていいのに。でも、彼女だったら気になっちゃうんだよね。それくらいるーちゃんのこと……」
ゆかりが言い澱む。
「ゆかりちゃん?」
やっぱり。深月がゆかりにかなりキツめなことを言ったのか、とルカは少し眉をひそめた。
「ごめん、俺、あいつと付き合ってないから」
「やだ、るーちゃん。そんなの」
「いや、ほんとの話、彼女なんかじゃないから」
言い訳がましいけれど、ゆかりには関係ないかもしれないけれど。でも、これだけは伝えたくて。
「あのあとあいつから付き合ってって言われたんだけど、俺断ったんだ。だってまだ……」
今度はルカが言い澱んだ。
“ゆかりちゃん、今、話せる?”
部屋でそれだけのメッセージを入れた。
メッセージのやりとりではなく、直接話をしたかったから。
七海が泊まっているということは残業も考えられたが、さすがにこの時間なら帰宅しているだろうと思われ。
しかし既読にならないままのそのメッセージに、ルカは不安を感じないではいられなかった。
仕事で見られていないのか、それとも……無視。
その可能性も否定できないだけに、携帯の画面を起動させて待つことさえ怖くて。
ルカはスリープさせたままの携帯を祈るように見つめた。
“あ、ごめんー。お風呂入ってたー”
十分程して、そんなあっけらかんとしたメッセージが入り、肩の力が抜ける。
“どしたー? なな、さやちゃんトコお泊まりでしょ? 何かあった?”
そっか。
ゆかりの総てである、七海がウチにいるから。
彼女は田所家からのメッセージを無視なんてできないのだ。
ルカは軽く苦笑した。
“ななちゃんはイイコしてます。それとは別件で、ゆかりちゃん、今話せる? 電話していいかな?”
さて。
その文章を送ってから少し後悔する。
七海に絡まない話なら、ゆかりがルカと話す必要はないのだから。
彼女が断る、あるいは無視することは、あり得るわけで。
“いいけど、ちょっと待ってー。急ぎじゃないなら、髪乾かしてからでもいいかな?”
ところがルカの心配をよそに、ゆかりからはあっさりとそんな返事が来た。
ほっとして、「OK」のスタンプだけ送って、ルカは気持ちを落ち着かせた。
深月のしたことに対してのお詫び。
それと。
……ほんとは、逢いたい。
考えてから、首を振った。それは、言ってはいけない。
いつか。
そう、いつかこの気持ちがゆかりのそれと同じカテゴリに整理されるまでは、きっと逢ってはいけないのだから。
今はとにかくゆかりに謝りたかった。
深月が何を言ったのかはわからないが、自分がフられてからも我が家に普通に出入りしていたゆかりが、ここ数日美紅さえもが訝しむくらいの様子を見せていることが気になる。
あの一瞬で自分のゆかりへの気持ちを見抜いた深月にはかなり驚いたが、それだけではなく更にゆかりの家まで探し当ててわざわざ会いに行く、なんて。
想像もしていなかっただけに、そのフォローもどうしていいのかわからないでいるのだが。
でも、そんなことより。
そう、深月には悪いが、彼女よりもやっぱり自分にはゆかりが最優先なのだ。
ゆかりが深月の存在をどう感じたのか、どう受け止めているのか。その方が心配で。
“お待たせー”
悩んでいると、ゆかりからのメッセージが届いた。
ので、電話、する。
「ごめん、ゆかりちゃん」
開口一番そう言い放つと、ルカは誰も見ていないけれども頭を下げた。
「え。何のこと?」
「深月が……えっと、あの時の女の子が、ゆかりちゃんにひどいこと言ったって聞いて」
本当に、何も気にしていないようなゆかりに、しかしルカはひたすら謝るしかない。
「ほんと、ごめん!」
「やーだ、七海から聞いたの? あんなのるーちゃんが謝ることじゃないよー」
ゆかりは、まるで気にも留めていない様子で明るく答えた。
「健気じゃない。七海が何言ったか知らないけど、あんなの、彼女だったら当然それくらい言いたくなっちゃうものよ」
いつものように優しい笑い声。クスクスと、本当に何にも気になんてしていない様子。
それは、まるでルカなんて眼中にないと言っているようで。
だから、少し寂しくなる。
「あたしのことなんて何も気にしなくていいのに。でも、彼女だったら気になっちゃうんだよね。それくらいるーちゃんのこと……」
ゆかりが言い澱む。
「ゆかりちゃん?」
やっぱり。深月がゆかりにかなりキツめなことを言ったのか、とルカは少し眉をひそめた。
「ごめん、俺、あいつと付き合ってないから」
「やだ、るーちゃん。そんなの」
「いや、ほんとの話、彼女なんかじゃないから」
言い訳がましいけれど、ゆかりには関係ないかもしれないけれど。でも、これだけは伝えたくて。
「あのあとあいつから付き合ってって言われたんだけど、俺断ったんだ。だってまだ……」
今度はルカが言い澱んだ。
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