affection

月那

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deep end

deep end -2-

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 ゆかりとのドライブデートは、それからも当たり前のように続いていた。
 プラネタリウムでのことがあったせいで、そっち方面への遠出は避けていたが、美紅の妙な協力もあるのか、七海のことを気にしないで(清華と一緒にいるのが七海には一番楽しいらしく、美紅の「泊まりにおいで」が今まで以上に頻出するようになっていた)、朝からルカのバイト直前までべったり出かけてみたり。
「あー、でもゆかりちゃん、来週はちょっと遊べないかも」
 もうすぐ七海たちの夏休み、という頃。
 それはつまり。
「試験期間に入るから、さすがに勉強しなきゃ」
 最初に二人でデートしたイタリアンレストラン。
 何となくここが一番落ち着く場所で、ランチはここが定番となっている。
「それは大事! 遊んでる場合じゃない!」
「英語がヤバイ」
「あ、苦手だっけ?」
「英語で論文書く練習らしくて、それぞれが専門でやってる課題の今後の見通しを英文でまとめろって奴」
「きゃー、学生っぽーい」
 いや、楽しんでるでしょ、ゆかりちゃん。
「るーちゃんって建築家目指してるんだっけ?」
「そんなにカッコいいもんじゃないけど、将来的には一級建築士目指したい、とは思ってる」
 いつかは。
 いつの頃からか、漠然と設計図に興味を持ち始めた。そこから、いろんな建築物の“もと”を辿りたくなって。
「凄いなー、ちゃんと考えてるね」
 アイスコーヒーをかき混ぜながら、ゆかりが言った。
「ゆかりちゃんは? 大学生の頃から今の仕事やりたいと思ってた?」
 ゆかりは今、行政書士として仕事している。
 元々知り合いの法務事務所の手伝いをする仕事を始めたゆかりが、自分も資格を、と七海を育てながら行政書士の資格を取ったのだが、もはやゆかり自身が所長の右腕として今の事務所を引っ張っているのである。
「うーん、ないなー。一応法学部行ってたけど、周りのコが弁護士になる為にすっごい勉強してるの見て、あたしじゃダメだーって早々に諦めちゃったからねー」
 まったり大学生でした、と舌を出したけれど、きっと地頭がいい人なんだろうと思う。
 七海もどちらかというと賢い子で、ちょっとオバカな清華にはそこだけは“双子”になりきれず。
「試験勉強かー。じゃあ当分デートはお預けになっちゃうね」
「寂しい?」
 ちょっと、調子に乗って聞いてみる。
「寂しいよー」
 と、あっさり返してくれて。
「じゃあ、夏休みになったら旅行でもする?」
 嬉しくなって、提案してみた。
「旅行かー。いいね、それ」
「…………」
「ん?」
「マジでゆってる?」
「うん、どして? 美紅やさやちゃん達も一緒に、どっか行こうよ」
 あ、そうだね。
 無駄に期待して、内心がっくりとうなだれた。
 二人きりで、なんて勝手に思い込んでいた自分が嫌になる。
「お盆だと、もう今からだと予約なんて取れないよねー。八月最初の土日とかなら、みんなで行けるかなあ?」
「ゆかりちゃん、仕事は?」
「旅行するならお休みするよ。基本的には土日お休みだもん。問題はるーちゃんのバイトかな?」
「いや、それこそバイトくらいシフト変わってもらうし」
「あ、なんだかすっごい楽しみになってきた。ちょっと美紅と本格的に企画していいかな?」
「お任せします」
 なんだかんだ言っても、昔からの大親友である美紅、というのがゆかりの中の大前提にあるから、自分の立ち位置は嫌でも思い知らされるのだ。
 結局“二人で旅行”なんて夢のまた夢でしかなく、ゆかりは六人で行く旅行計画を嬉々として語り始めた。
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