affection

月那

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手、繋ごう

手、繋ごう -2-

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「ルカ!」
 と、二人で歩いている真正面から名前を呼ばれて、愕然とする。
 にやり、と笑っているのは坂本だ。
「彼女?」
「…………」
「はーい、るーちゃんの彼女でーす」
 どう答えていいかわからず黙っていたルカの横で、ゆかりがあっけらかんと答えた。
「ちょ、ちょっとゆかりちゃん!」
「あ、ダメだった?」
「いや、ダメじゃないけど」
 むしろ嬉しいけど。
「何でおまえがここにいるんだよ?」
 照れ隠しに少しとムっとしながら坂本に問う。
 ご町内の小さなお祭り、である。
 高校は同じだけれど、全くご近所ではない坂本がなぜこんなところにいるのか、がルカには納得できず。
「ああ、佐竹が教えてくれたんだよ」
「佐竹?」
「なんか、友達と一緒にタウン誌でこの祭りの情報知ったらしくて。サークル終わってから一緒に来たんだよ」
「佐竹と二人で?」
「いや、佐竹の友達何人かと。向こうのイートスペースで今メシ食ってる」
 どうもー、とゆかりに笑いかけて、ルカの腕を引き、コッソリと「例の彼女?」と耳打ちされた。
 小さく頷くと。
「今度詳しく聞かせろよ」
 と背中を叩かれる。
「じゃあな、ルカ。すみませーん、お邪魔しましたー」
 坂本が言い捨てて逃げるように去って行った。
「あー、彼女になったら、マズかったかな?」
 その背に笑顔で手を振っていたゆかりが、ちょっと困ったように問いかけて来た。
「いや、別に大丈夫だけど」
「ごめんね」
「いやいや、全然謝ることないよ。あいつ、高校の時からの連れだし、何も気にすることないから」
「バスケ部? るーちゃんと一緒に試合出てた?」
「うん、三年の時はずっと。そう言えば観に来てくれてたから、覚えてるかな? ほら、副キャプだったから五番付けてた奴」
「あー……何となく?」
 ちょっと苦笑い。
「そんなに何度も観に行けてないし、るーちゃんしか見てなかったもん」
「結構ガンガン突っ込んで行くタイプだから、目立ってたハズなんだけど」
「るーちゃんのがかっこ良かったもん」
 ……またそういう。
 わかってんのかな、この人、自分が何を言ってるのか。
 ゆかりの言葉を流すように鼻で笑って、アリガトウゴザイマス、と答えた。
「大学も、バスケやってるんでしょ? 試合とかないの?」
「あまりゴリゴリにやるサークルじゃないからね。大会とかは出ないけど、ヨソの大学のサークルと交流試合とかはしてるよ」
「あたしが応援に行けるような雰囲気じゃないのかな?」
「え、観たい?」
「観たいよー。中学も、高校も、あたしできるだけ応援行ってたじゃん」
「でも負けてる試合ばっかだったよね」
「そうなのよー。あたしが行くと負けちゃう。美紅が行ってる時はいっぱい勝ってるのに。ちょっとヘコんじゃったよ」
 口をとがらせて。そんな表情も可愛くて。
「美紅は来てるとすぐわかったよ。あいつちょーうるせーし。でもゆかりちゃん、コッソリ来てコッソリ帰っちゃうから、後からライン見てびっくりしてた」
「そりゃー、あんまり堂々とは行きづらいよ。関係者じゃないし」
「いや、関係者でしょ。半分保護者みたいなもんだし」
 自分で言ってて自分で少しへこむ。という。
「いいの。コッソリ陰から応援するのがまた醍醐味だからね」
「何それ?」
「ふふふふふ、あたしの知らないるーちゃんをコッソリ探っちゃえるからね」
「怖いんですけど」
 そんなくだらない話でさえ、まるで本当に「彼女」のように話してくれるゆかりが嬉しくて。
 結局、その日は近くの居酒屋に寄ってから帰宅となり(勿論ゆかりはビールで)、ルカがゆかりを車ごと送り届けたのだった。
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