86 / 101
【6】Imperial topaz(caramel stone)
11
しおりを挟む
インターフォンが鳴って。
リビングでゲームをしながら、母と言う名の夕食を待っていた成親はそのモニタに映し出された人物に固まった。
逢いたくて逢いたくて仕方なかった人。
でも逢えなくて、逢ってはいけないと思って避けていた人。
まさかそこに、その人がいるなんて想像もしていなくて。
反応できずにいると。
モニタの画面から、その人が離れていくのが見えて、そのまま暗転した。
「やだ!」
その、真っ黒になった画面があまりにも切なくて。
成親はコントローラを手に持ったまま、廊下を駆け出していた。
「しょーさん、待って!」
玄関を開けて、その人の後ろ姿に叫んだ。
「……なる」
「待って……かーちゃん、は、今いない、けど……」
「別に、れーこちゃんに用があるわけじゃ、ない」
振り返った翔が、でも、目を合わせてはくれなくて。
ぎこちない会話が、途切れる。
「……時間、ある?」
無言の時間が怖くなった翔が小さく成親に問いかけた。
「上がって」
短く答え、翔のTシャツの裾を引く。
二人して黙ったまま家に入った。
短い廊下を進み、リビングへと入る。
この場所に入るのが久しぶり過ぎて、翔は“矢崎家の匂い”を大きく吸ってその懐かしさに酔う。
「……桃鉄?」
テレビに映し出されている画面を見て、翔が呟いた。
「俺的に今、アツいの」
「……すげー子供の頃やってたけど」
「一緒にやる?」
「……じゃ、なくて」
無表情のまま、ゲームに誘う成親の腕を、今度は翔が掴んだ。
「しょーさん、俺に何か、用事、あるの?」
カタコトのように言うのは、そこに感情を載せない為。
下手に想いが載っかればきっと、泣いてしまうから。
でも。
それを受け取った翔も、同じように表情を固めてしまう。
……ああ、やっぱり。
翔がここに……成親に会いに来たその意味が、わかる。
心臓が、ぎゅっと締め付けられるような感覚がして、苦しくなるけれど。
これから言われることは、ずっと予想していたことだから。
受け止めないといけないって。
けじめをつけないと、お互いに前を向けないだろうから。
きっと翔がオトナとして、それを伝えに来たのだと悟る。
だから、成親は覚悟を決めて。
「……俺に、ちゃんと、お別れ、言いに来た?」
そう、言った瞬間目から涙が溢れてきた。
逢いたかった。でも逢えば恐らく、言われることなんてわかっていたから。
だからこっちからは逢いに行けなかった。
言われるまでは、それでもまだ“別れたわけじゃない”なんて自分の中の言い訳ができたから。
でも。
逢って、正面から明確にその事を告げられれば、もう未来なんてない。
好きでい続けることさえ、きっとしてはいけないこと、になってしまう。
そんな最後通牒が怖くて、今まで避けてきたのだと、自分の行動の意味を自覚した。
逢いたいけど……逢いたく、なかった。
だから、涙が溢れる。
そして翔が、掴んでいた手を離した。
手を、離された。
その事実こそが、総てだと。
でも……言っても仕方ないのはわかっているけど、でも、伝えておきたくて。
「しょーさん、俺……でも、まだ好き。しょーさんが、皇のこと好きだってわかってるけど、でも……」
「ちがう!」
泣き顔で、必死に訴えている成親の言葉を翔が強い声で遮った。
リビングでゲームをしながら、母と言う名の夕食を待っていた成親はそのモニタに映し出された人物に固まった。
逢いたくて逢いたくて仕方なかった人。
でも逢えなくて、逢ってはいけないと思って避けていた人。
まさかそこに、その人がいるなんて想像もしていなくて。
反応できずにいると。
モニタの画面から、その人が離れていくのが見えて、そのまま暗転した。
「やだ!」
その、真っ黒になった画面があまりにも切なくて。
成親はコントローラを手に持ったまま、廊下を駆け出していた。
「しょーさん、待って!」
玄関を開けて、その人の後ろ姿に叫んだ。
「……なる」
「待って……かーちゃん、は、今いない、けど……」
「別に、れーこちゃんに用があるわけじゃ、ない」
振り返った翔が、でも、目を合わせてはくれなくて。
ぎこちない会話が、途切れる。
「……時間、ある?」
無言の時間が怖くなった翔が小さく成親に問いかけた。
「上がって」
短く答え、翔のTシャツの裾を引く。
二人して黙ったまま家に入った。
短い廊下を進み、リビングへと入る。
この場所に入るのが久しぶり過ぎて、翔は“矢崎家の匂い”を大きく吸ってその懐かしさに酔う。
「……桃鉄?」
テレビに映し出されている画面を見て、翔が呟いた。
「俺的に今、アツいの」
「……すげー子供の頃やってたけど」
「一緒にやる?」
「……じゃ、なくて」
無表情のまま、ゲームに誘う成親の腕を、今度は翔が掴んだ。
「しょーさん、俺に何か、用事、あるの?」
カタコトのように言うのは、そこに感情を載せない為。
下手に想いが載っかればきっと、泣いてしまうから。
でも。
それを受け取った翔も、同じように表情を固めてしまう。
……ああ、やっぱり。
翔がここに……成親に会いに来たその意味が、わかる。
心臓が、ぎゅっと締め付けられるような感覚がして、苦しくなるけれど。
これから言われることは、ずっと予想していたことだから。
受け止めないといけないって。
けじめをつけないと、お互いに前を向けないだろうから。
きっと翔がオトナとして、それを伝えに来たのだと悟る。
だから、成親は覚悟を決めて。
「……俺に、ちゃんと、お別れ、言いに来た?」
そう、言った瞬間目から涙が溢れてきた。
逢いたかった。でも逢えば恐らく、言われることなんてわかっていたから。
だからこっちからは逢いに行けなかった。
言われるまでは、それでもまだ“別れたわけじゃない”なんて自分の中の言い訳ができたから。
でも。
逢って、正面から明確にその事を告げられれば、もう未来なんてない。
好きでい続けることさえ、きっとしてはいけないこと、になってしまう。
そんな最後通牒が怖くて、今まで避けてきたのだと、自分の行動の意味を自覚した。
逢いたいけど……逢いたく、なかった。
だから、涙が溢れる。
そして翔が、掴んでいた手を離した。
手を、離された。
その事実こそが、総てだと。
でも……言っても仕方ないのはわかっているけど、でも、伝えておきたくて。
「しょーさん、俺……でも、まだ好き。しょーさんが、皇のこと好きだってわかってるけど、でも……」
「ちがう!」
泣き顔で、必死に訴えている成親の言葉を翔が強い声で遮った。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
英国紳士の熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです
坂合奏
恋愛
「I love much more than you think(君が思っているよりは、愛しているよ)」
祖母の策略によって、冷徹上司であるイギリス人のジャン・ブラウンと婚約することになってしまった、二十八歳の清水萌衣。
こんな男と結婚してしまったら、この先人生お先真っ暗だと思いきや、意外にもジャンは恋人に甘々の男で……。
あまりの熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです。
※物語の都合で軽い性描写が2~3ページほどあります。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
羽村美海
恋愛
古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。
とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。
そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー
住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……?
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
✧天澤美桜•20歳✧
古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様
✧九條 尊•30歳✧
誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
*西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨
※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。
※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。
※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。
✧
✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧
✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧
【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる