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【6】Imperial topaz(caramel stone)
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「え? 寝てた?」
机ではなくベッドにいる翔に、驚いた表情をしているから、
「や。ちょい噴火しそうだったから息抜きしてた」起き上がりながら答えた。
「ゲーム? 珍しいね」
成親と違い、翔にはスマホでゲームをする趣味はない。とりあえず曖昧に笑って、
「なんかあった?」
美香の来訪の理由を訊いた。
「んー。今日ちょっと玲子さんと話してて。翔、なるくんと喧嘩、した?」
そう言われて、当たり前か、と。
あれだけ頻繁に出入りしていた成親の部屋へ全く訪れず、家庭教師も何もしていない現状を訝しむのは、母達には当然のことで
「あー……まあ、うん」
「玲子さん、なるくんに聞いたらしょーさんは忙しいから会えないんだって言われたらしくて。私が知ってる翔は、夏休み中も部屋籠ってるか学校行ってるか、しかしてないでしょ? だから、あー、なんかあったのかなって」
「うー……ん。ちょっと、なるのこと、怒らせて」
「すぐ仲直りするって思ってたけど、夏休み中ずっと喧嘩してるみたいだから、さすがに心配してた。休み明け、どうせテストあるんでしょ? なるくんにまた、お勉強教えてあげなさいよ」
それは、翔に“あなたがオトナになりなさい”と言っているようで。
基本的に、双子の育児に忙しい美香は、品行方正を絵に描いたような翔のことは放置してくれている。
双子ができた瞬間から大人にならざるを得なかった翔だったし、またそうやって放置され、更に第二の父親のごとく頼りにされているという自負があるだけに、両親に心配をかけるような行動は基本的に、しない。
だからこそ彬の家に泊まって帰っても何も言われることはないし、たまに羽目を外したところで何のお咎めもない。
でも、どうやら美香にとって矢崎玲子は大人になって初めてできた親友だと常に言っているだけあって、成親のことも息子と同じように大事にしているから。
「明日、クッキー焼いたげるから、それ持って仲直りしてきなさい」
笑顔で言うが、その目は翔の否を赦さない力を持っていて。
父親にガツンと怒られることよりも、普段からふわふわと笑っている美香に冷ややかに諭される方が、余程怖いと翔は思う。
仕方なく「わかった」とだけ言ったら美香はにっこりと微笑んで部屋を去った。
ある意味、助けられたのかもしれない。
成親がいつも「美香ちゃんのお菓子、んまいから大好き」と可愛く頬張っている姿が目に浮かぶ。
これは何よりのきっかけ、ではないか?
この歳になって親に仲を取り持って貰うことになろうとは思ってもみなかったけれど、征人の言葉もあるし、言わば機が熟したというヤツだろう。
うん。
明日、なるに逢いに行こう。
そう決めたら、力が湧いてきた。
やっぱり自分の総ての原動力は、成親なんだと。
翔はスマホを握りしめて成親を想うと、再び机に向かった。
机ではなくベッドにいる翔に、驚いた表情をしているから、
「や。ちょい噴火しそうだったから息抜きしてた」起き上がりながら答えた。
「ゲーム? 珍しいね」
成親と違い、翔にはスマホでゲームをする趣味はない。とりあえず曖昧に笑って、
「なんかあった?」
美香の来訪の理由を訊いた。
「んー。今日ちょっと玲子さんと話してて。翔、なるくんと喧嘩、した?」
そう言われて、当たり前か、と。
あれだけ頻繁に出入りしていた成親の部屋へ全く訪れず、家庭教師も何もしていない現状を訝しむのは、母達には当然のことで
「あー……まあ、うん」
「玲子さん、なるくんに聞いたらしょーさんは忙しいから会えないんだって言われたらしくて。私が知ってる翔は、夏休み中も部屋籠ってるか学校行ってるか、しかしてないでしょ? だから、あー、なんかあったのかなって」
「うー……ん。ちょっと、なるのこと、怒らせて」
「すぐ仲直りするって思ってたけど、夏休み中ずっと喧嘩してるみたいだから、さすがに心配してた。休み明け、どうせテストあるんでしょ? なるくんにまた、お勉強教えてあげなさいよ」
それは、翔に“あなたがオトナになりなさい”と言っているようで。
基本的に、双子の育児に忙しい美香は、品行方正を絵に描いたような翔のことは放置してくれている。
双子ができた瞬間から大人にならざるを得なかった翔だったし、またそうやって放置され、更に第二の父親のごとく頼りにされているという自負があるだけに、両親に心配をかけるような行動は基本的に、しない。
だからこそ彬の家に泊まって帰っても何も言われることはないし、たまに羽目を外したところで何のお咎めもない。
でも、どうやら美香にとって矢崎玲子は大人になって初めてできた親友だと常に言っているだけあって、成親のことも息子と同じように大事にしているから。
「明日、クッキー焼いたげるから、それ持って仲直りしてきなさい」
笑顔で言うが、その目は翔の否を赦さない力を持っていて。
父親にガツンと怒られることよりも、普段からふわふわと笑っている美香に冷ややかに諭される方が、余程怖いと翔は思う。
仕方なく「わかった」とだけ言ったら美香はにっこりと微笑んで部屋を去った。
ある意味、助けられたのかもしれない。
成親がいつも「美香ちゃんのお菓子、んまいから大好き」と可愛く頬張っている姿が目に浮かぶ。
これは何よりのきっかけ、ではないか?
この歳になって親に仲を取り持って貰うことになろうとは思ってもみなかったけれど、征人の言葉もあるし、言わば機が熟したというヤツだろう。
うん。
明日、なるに逢いに行こう。
そう決めたら、力が湧いてきた。
やっぱり自分の総ての原動力は、成親なんだと。
翔はスマホを握りしめて成親を想うと、再び机に向かった。
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