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【5】Tiger’s-eye
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自分で言った言葉に、自分で納得する。
そう。ただ会うなんて、そんなことはしようと思えばいくらでも、できる。
家におしかけてしまえば、それだけだ。
でも、それじゃ、ダメなんだ。
成親にとって、それは“翔の気持ち”を無視することになるから。
あんなトコ、ほんとは見られたくなかったハズだ。
浮気なんて、ばかな自分に隠しきることなんて、賢い翔にはきっと簡単にできる。
なのに、たまたま彬と知り合って、頼るところがなかったからって自分に甘えてきてくれたことによって、図らずも暴かれてしまったわけで。
その事実のせいで、きっと成親には会いたくないとしか思っていないのだろうから。
それに……。
どさくさに紛れて、自分もどうしようもなくなってしまったのを彬に手で処理されたって事実も、あるから。
あまりのショックに半分忘れかけていたけれど、実際あの時の自分はどうかしていたから。
ただ、彬は優しいからそのことに触れないでいてくれるけど。
そんないろんなこと、翔にとってはもう、成親の顔なんて見たくないって、そう思って当然のことだろうから。
思い出すと、また涙が溢れてきた。
「なる……ごめん。俺、なんか嫌なこと、言った?」
黙ってしまった成親に、征人が問いかけてくる。
「んーん、まーくんは全然気にしなくていいから。まーくんが謝ること、ないから」
「でも……」
「大丈夫。まーくんがこうやって話、聞いてくれるだけで俺、大丈夫だから」
ダメだ。
こんなグズグズな自分、ずっと引きずっていたらきっと征人は心配してしまう。
成親は無理矢理、笑った。
「まーくん、しょーさんに会おうとしてたら試合、出れなくなっちゃうよ? 一年の身で試合に出してもらうのなんて、真面目に練習やってるからだけだって、前ゆってたじゃん」
「そりゃ、そーだけど」
「だから俺のことは気にしなくていいから、まーくんはバスケ頑張って」
征人が向こう側で「ありがと」と笑った。
「翔くん責めるのは、とりあえず諦めるけど。なる、一人で泣くなよ。ほんとは俺がいつでも捌け口になってやりたいんだけど、もーちょっと忙しいから。俺以外でもいいから、誰かに吐き出せよ」
「まーくん……」
「とにかく。俺、なるが泣くのはもう、やだ。おまえは笑ってんのが一番だから」
「もお。まーくんのその言葉で、泣けてきちゃうじゃん」
言って鼻を啜ると。
「うわ! まじで泣くな? 俺、今から会いに行くぞ?」
慌ててそんなことを言うから。
「もー泣かない。大丈夫。まーくん、ありがと」
「ほんとに大丈夫?」
「だいじょぶ、だいじょぶ。泣きそうになったら、今度は俺が会いに行くから、そん時はぎゅってしてね」
本気で心配してくれているのがわかって嬉しくなったから、くふくふ笑ってふざけてみる。
大丈夫だ。
征人のおかげで、気持ちが軽くなったことに気付いた。
「……可愛いこと言ってんじゃねーよ。襲うぞ?」
征人も笑ってノってくれるから、嬉しくなる。
こんなこと言ってるけど、自分に対してそういう感情を持っていないことはちゃんとわかっているから。
だからそのまま。
「まーくんなら、いいかも」
なんて、見えてないだろうけど、ウィンクしながら答えた。
「……あんま、シャレんなんねーから」
小さく、聞き取れないくらいの声。
「え?」
「何でもない。とにかく、もう泣くなよ。なるが泣く度に、翔くんの顔に傷が付くって思っとけ」
「……何それ?」
「とにかく! 来週末、大会が終わったら一応一息吐けるからさ、そしたらまたグチ聞いてやるし、どっか遊びに行ってもいいし」
「そーなんだ。何なら試合、応援に行こっか?」
「いや、俺まだレギュラーじゃねーからいつも試合に出られるとは限らないし」
「んじゃ、試合終わったら、あそぼーぜ」
成親が言うと、征人が「それ励みに頑張るよ」と、電話を切った。
そして、切れた後も……成親は暫く画面を見ていた。
やっぱり征人は、自分にとってかけがえのない親友だ。
こんな、ほんの少し電話で話ができただけなのに、今全身に力が漲っているのがわかる。
あんなにも悲しみに支配されていた気持ちが、完全に晴れていた。
底抜けに明るい声と、ばかみたいに高いテンションで、成親を浮上させてくれる。
その存在感は自分にとって半端なく大きいものだし、何物にも代えられない貴重なものだ。
成親は窓を閉めた。
大丈夫。
負けない。
いつかまた、絶対に翔を振り向かせて見せる。
そう、月に誓った。
そう。ただ会うなんて、そんなことはしようと思えばいくらでも、できる。
家におしかけてしまえば、それだけだ。
でも、それじゃ、ダメなんだ。
成親にとって、それは“翔の気持ち”を無視することになるから。
あんなトコ、ほんとは見られたくなかったハズだ。
浮気なんて、ばかな自分に隠しきることなんて、賢い翔にはきっと簡単にできる。
なのに、たまたま彬と知り合って、頼るところがなかったからって自分に甘えてきてくれたことによって、図らずも暴かれてしまったわけで。
その事実のせいで、きっと成親には会いたくないとしか思っていないのだろうから。
それに……。
どさくさに紛れて、自分もどうしようもなくなってしまったのを彬に手で処理されたって事実も、あるから。
あまりのショックに半分忘れかけていたけれど、実際あの時の自分はどうかしていたから。
ただ、彬は優しいからそのことに触れないでいてくれるけど。
そんないろんなこと、翔にとってはもう、成親の顔なんて見たくないって、そう思って当然のことだろうから。
思い出すと、また涙が溢れてきた。
「なる……ごめん。俺、なんか嫌なこと、言った?」
黙ってしまった成親に、征人が問いかけてくる。
「んーん、まーくんは全然気にしなくていいから。まーくんが謝ること、ないから」
「でも……」
「大丈夫。まーくんがこうやって話、聞いてくれるだけで俺、大丈夫だから」
ダメだ。
こんなグズグズな自分、ずっと引きずっていたらきっと征人は心配してしまう。
成親は無理矢理、笑った。
「まーくん、しょーさんに会おうとしてたら試合、出れなくなっちゃうよ? 一年の身で試合に出してもらうのなんて、真面目に練習やってるからだけだって、前ゆってたじゃん」
「そりゃ、そーだけど」
「だから俺のことは気にしなくていいから、まーくんはバスケ頑張って」
征人が向こう側で「ありがと」と笑った。
「翔くん責めるのは、とりあえず諦めるけど。なる、一人で泣くなよ。ほんとは俺がいつでも捌け口になってやりたいんだけど、もーちょっと忙しいから。俺以外でもいいから、誰かに吐き出せよ」
「まーくん……」
「とにかく。俺、なるが泣くのはもう、やだ。おまえは笑ってんのが一番だから」
「もお。まーくんのその言葉で、泣けてきちゃうじゃん」
言って鼻を啜ると。
「うわ! まじで泣くな? 俺、今から会いに行くぞ?」
慌ててそんなことを言うから。
「もー泣かない。大丈夫。まーくん、ありがと」
「ほんとに大丈夫?」
「だいじょぶ、だいじょぶ。泣きそうになったら、今度は俺が会いに行くから、そん時はぎゅってしてね」
本気で心配してくれているのがわかって嬉しくなったから、くふくふ笑ってふざけてみる。
大丈夫だ。
征人のおかげで、気持ちが軽くなったことに気付いた。
「……可愛いこと言ってんじゃねーよ。襲うぞ?」
征人も笑ってノってくれるから、嬉しくなる。
こんなこと言ってるけど、自分に対してそういう感情を持っていないことはちゃんとわかっているから。
だからそのまま。
「まーくんなら、いいかも」
なんて、見えてないだろうけど、ウィンクしながら答えた。
「……あんま、シャレんなんねーから」
小さく、聞き取れないくらいの声。
「え?」
「何でもない。とにかく、もう泣くなよ。なるが泣く度に、翔くんの顔に傷が付くって思っとけ」
「……何それ?」
「とにかく! 来週末、大会が終わったら一応一息吐けるからさ、そしたらまたグチ聞いてやるし、どっか遊びに行ってもいいし」
「そーなんだ。何なら試合、応援に行こっか?」
「いや、俺まだレギュラーじゃねーからいつも試合に出られるとは限らないし」
「んじゃ、試合終わったら、あそぼーぜ」
成親が言うと、征人が「それ励みに頑張るよ」と、電話を切った。
そして、切れた後も……成親は暫く画面を見ていた。
やっぱり征人は、自分にとってかけがえのない親友だ。
こんな、ほんの少し電話で話ができただけなのに、今全身に力が漲っているのがわかる。
あんなにも悲しみに支配されていた気持ちが、完全に晴れていた。
底抜けに明るい声と、ばかみたいに高いテンションで、成親を浮上させてくれる。
その存在感は自分にとって半端なく大きいものだし、何物にも代えられない貴重なものだ。
成親は窓を閉めた。
大丈夫。
負けない。
いつかまた、絶対に翔を振り向かせて見せる。
そう、月に誓った。
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