Treasure of life

月那

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【5】Tiger’s-eye

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「…………」
「なる? どした?」
 けれど、泣いていたせいで咄嗟に声が出なくて、鼻を啜ったら。

「……翔くんと、まだ仲直りしてない、のか?」
 征人の声が変わった。
 気配から、成親が泣いていることに気付いたらしく、涙の原因が翔であることなんて明らかだったから。

「ったく、何、考えてんだよ、あの人」
「しょーさんは、悪く、ないから」
「なるが泣いてるのに、悪くないわけ、ないじゃん。あの人、なる泣かしたらコロス、つってたんだよ? その当人が泣かしてるって、何だよそれ」
 征人が低い声で言うから、かなり怒っているのがわかる。でも、成親は翔を責めて欲しくないから。

「違うんだ。俺が、勝手にしんどくなってるだけだから。しょーさん、全然こんな俺のこと知らないから」
「知らないことが問題なんだろ。なる、おまえちゃんと話した? 翔くんがなるんこと嫌いになるとか、俺には信じられないんだけど?」
 イライラした、声。
 自分の代わりに、気持ちを代弁してくれているのが少し嬉しい。

「しょーがないよね。俺を嫌いになったんじゃなくて、俺より好きな人ができたってだけのこと、だから」
「だから、それがあり得ねっつーの。なる、まだゆってんの? ほんとにそれ、本人から聞いた?」
「……話は、してないよ。話せる状態じゃないし。でも……」
 好きじゃなきゃ、抱かれないよね、と思う。

 女の子にモテモテだし、女の子抱く方が絶対いいと思ってるのだって、知ってるから。
 そんな翔なのに、自分のことだけは“好き”だから抱いてくれてた。
 でも間違っても“抱かれる”なんて、考えてなかった。
 なのにあの時、翔は自分から手を伸ばして抱かれてたから。
 その光景は、リアルだったから。
 さすがにそんな事実は征人には言えないし。

「なる。俺、一回翔くんと話していい?」
「え?」
「なるが会えないんだったら、俺が会ってやるよ」
「ダメだよ。それに、会えるわけないじゃん。まーくんもしょーさんも全然別で忙しいのに」

 夏に大会がある体育会系の部活は、とにかくまともに休みなんてないくらい忙しい。それはもう、成親がいやって程知ってる。征人とこうやって話ができることさえ、実に一か月ぶりなんだから。
 そして特選科は、夏休み中ずっとずっと学校で勉強してる。
 成親が翔と、すれ違うことすらないくらいに。
 とは言え、同じ特選科でも彬はサボりまくっているから、ちょいちょい会っているけれど。
 でも真面目な翔が補講をサボるなんて、それこそあり得ないから。

「それは、何とかする」
「やだ」
「やだじゃない! も、俺はあの人に言ってやりたい!」
「何を?」
「なる、泣かすなって。翔くんにとっては“カレシ”かもしれないけど、俺にとっては親友だ。彼氏と親友、どっちも同じだろ、大事に想ってんのは。だから、翔くんが“なる泣かしたらコロス”って言った以上、俺だってなる泣かしてる翔くんのこと、ぶん殴ってやる」
 鼻息も荒くそんなことを言うから、思わず成親は笑ってしまう。

「まーくん、しょーさんのこと殴れるかなあ? あの人、結構強いよ?」
「んなこと、構わん。返り討ちにあうのだって、全然いい。でも、一発殴んねーと気が済まない」
「やめてよー。しょーさんの綺麗な顔に傷付けないで」
「女子じゃねーんだから、いいだろ」
「いくない」
「じゃあ、殴んないから。とにかく、俺は翔くんに会うよ?」

「……絶対やだ」
「なんで? 俺が翔くんに会ってなるの現状話すのが一番早いじゃん」
「やだってば。俺、しょーさんに会いたいけど、でもしょーさんが俺に会いたいって想ってくれないのに、無理くり会ってもらいたいなんて思ってない」
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