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【5】Tiger’s-eye
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彬が、成親からの“遊ぼー”というラインに気付いたのは金曜日の夜、翔を抱き潰した後だった。
眠っている翔を置いてベッドから抜けだし、“ごめん、今気付いた”と返したのが既に深夜二時前だったので、結局成親と会うことができたのはど平日の真昼間になった。
補講はサボるつもりだったから全然いいけれど、成親がバイトをしている話は聞いていたから予定を確かめると、シフトの都合で空いているからと指定されたのだ。
「彬はさ、皇のどこに惚れたの?」
場所は至極健全なバッティングセンター。
皇の話をしている時に、彬が小学生時代に学童野球のチームに入っていたことを聞いていた成親だったから、“じゃあバッセン行こうぜ。俺、久々に野球やりたい”なんて言い出して。
とりあえず一ゲーム二人で打ちまくり、ドリンクコーナーで休憩。一息ついたところで成親が訊いてきた。
「どこって……そうだな、あの何考えてんだかわかんねーふにゃふにゃした笑顔、かな」
夏休みだけあって、平日の昼間だというのに盛況で。小中学生男子が順番待ちでバットを振っている様子を見ながら、何の気なしに彬が答えた。
実際。皇の笑顔に癒されることがあるのは確かだ。
子供の頃、姉と皇が遊んでいるところに混じっていたから、小さな彬のことはいつも可愛がってくれていたし。
男勝りな姉だったから、皇と一緒に野球を始めたのは姉が先で、その影響で自分も後ろにくっついて回っていたから、多少の憧れは当時から持っていた。
「そいえば、なるも小学校ん時野球やってたんだろ?」
「やってたよ。三年生ん時から。でも、どんな大会でも一回戦敗退の超弱小チームだったからなー」
「リーグが違ってたから、会わなかったんだな」
「そうそう。彬んトコ、有名じゃん。俺らの代でも、なんつったっけ? ピッチャーやってたナオキだっけ? そいつのことは結構みんな知ってたもん」
彬のいたチームは県大会優勝は当たり前で、調子が良ければ全国大会にも出場するようなチームだった。
とは言え、皇はバリバリのレギュラーだったが彬は補欠で。一軍の試合では代打でたまに出ることはあっても、基本的には二軍の試合でまったり楽しんでいただけ。
「あー、ナオね。うん、あいつ今、どっかの高校で甲子園目指してんじゃねーの?」
「まじか。やっぱすげーな」
感心した成親が飲み終えた缶をゴミ箱に放り投げた。
コントロールはいい方なので、綺麗に収まる。
「俺は遊びでやってただけだし、中学ではもう辞めたからさ。嫌いじゃねーからいいけど、バッセン来んのなんか、小学校以来だよ」
「結構いいよ、ストレス解消んなるから」
「なる、健全だね」
「ったりめーじゃん、俺、彬みたいな体だったら絶対野球辞めてねーもん」
「なん、それ?」
「いいよな、筋肉とか。俺細過ぎて筋トレしても全然身に付かねーし。マッチョマンになれねーから諦めたんだよ」
「マッチョななるは想像できない」
「だろ? も、しょーがねーよなー。生まれ持ったモンだから」
そんな風に笑って言うけれど、本当は少しコンプレックスで一時は本気で悔しかったけれど、楽しむことにシフトしたら楽になれた。
だからこうして時々バッティングセンターでバットを振ったり、ストラックアウトで投げてみたりして。
眠っている翔を置いてベッドから抜けだし、“ごめん、今気付いた”と返したのが既に深夜二時前だったので、結局成親と会うことができたのはど平日の真昼間になった。
補講はサボるつもりだったから全然いいけれど、成親がバイトをしている話は聞いていたから予定を確かめると、シフトの都合で空いているからと指定されたのだ。
「彬はさ、皇のどこに惚れたの?」
場所は至極健全なバッティングセンター。
皇の話をしている時に、彬が小学生時代に学童野球のチームに入っていたことを聞いていた成親だったから、“じゃあバッセン行こうぜ。俺、久々に野球やりたい”なんて言い出して。
とりあえず一ゲーム二人で打ちまくり、ドリンクコーナーで休憩。一息ついたところで成親が訊いてきた。
「どこって……そうだな、あの何考えてんだかわかんねーふにゃふにゃした笑顔、かな」
夏休みだけあって、平日の昼間だというのに盛況で。小中学生男子が順番待ちでバットを振っている様子を見ながら、何の気なしに彬が答えた。
実際。皇の笑顔に癒されることがあるのは確かだ。
子供の頃、姉と皇が遊んでいるところに混じっていたから、小さな彬のことはいつも可愛がってくれていたし。
男勝りな姉だったから、皇と一緒に野球を始めたのは姉が先で、その影響で自分も後ろにくっついて回っていたから、多少の憧れは当時から持っていた。
「そいえば、なるも小学校ん時野球やってたんだろ?」
「やってたよ。三年生ん時から。でも、どんな大会でも一回戦敗退の超弱小チームだったからなー」
「リーグが違ってたから、会わなかったんだな」
「そうそう。彬んトコ、有名じゃん。俺らの代でも、なんつったっけ? ピッチャーやってたナオキだっけ? そいつのことは結構みんな知ってたもん」
彬のいたチームは県大会優勝は当たり前で、調子が良ければ全国大会にも出場するようなチームだった。
とは言え、皇はバリバリのレギュラーだったが彬は補欠で。一軍の試合では代打でたまに出ることはあっても、基本的には二軍の試合でまったり楽しんでいただけ。
「あー、ナオね。うん、あいつ今、どっかの高校で甲子園目指してんじゃねーの?」
「まじか。やっぱすげーな」
感心した成親が飲み終えた缶をゴミ箱に放り投げた。
コントロールはいい方なので、綺麗に収まる。
「俺は遊びでやってただけだし、中学ではもう辞めたからさ。嫌いじゃねーからいいけど、バッセン来んのなんか、小学校以来だよ」
「結構いいよ、ストレス解消んなるから」
「なる、健全だね」
「ったりめーじゃん、俺、彬みたいな体だったら絶対野球辞めてねーもん」
「なん、それ?」
「いいよな、筋肉とか。俺細過ぎて筋トレしても全然身に付かねーし。マッチョマンになれねーから諦めたんだよ」
「マッチョななるは想像できない」
「だろ? も、しょーがねーよなー。生まれ持ったモンだから」
そんな風に笑って言うけれど、本当は少しコンプレックスで一時は本気で悔しかったけれど、楽しむことにシフトしたら楽になれた。
だからこうして時々バッティングセンターでバットを振ったり、ストラックアウトで投げてみたりして。
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