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【5】Tiger’s-eye
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驚いた。
成親が求めているのは、“翔”の様子だと思っていたから。
「だって。辛くない? 皇のこと、取られた相手なわけじゃん? その相手と毎日のように顔合わすの、辛くない?」
その表情は、本気で彬のことを慮っていて。
「俺はね、しょーさんと会えないのは勿論辛いけど、でも少なくとも皇と会うことなんてないから」
予想、していなかった。
まさか成親が自分の心配をする、なんて。
現状の翔は自分のことでいっぱいいっぱいになっているし、それを見ている限り成親も同じように翔を失って哀しみの中に溺れているものだとばかり思っていた。
「ごめんね。傍にいてって、彬言ってたけど俺、なんかぐちゃぐちゃになってて会えなかった。だから、彬が辛いのわかってやれなかった」
「なる……」
「俺なんかより、彬のが絶対辛いって。やっと気付いたんだ。だから、少しでも彬が楽になれるように俺、彬の話きいてやんなきゃって思ったから」
翔が、なぜ成親を好きなのかが、わかる。
普通に普通で、ただただ可愛いだけの存在だとしか思えなかった成親は、彬の想像を超える純粋さで。
しかも、こんなに強いなんて。
「俺は……」
「なんかね、思ったんだ。多分俺、いろんな人に甘え過ぎてたなって。勿論その代表がしょーさんだったから、一番忙しくて大変なしょーさんに俺がべったり甘えちゃってたら、そりゃーイヤんなるの当たり前だよなって」
「なる?」
「だから、俺が頼られる人間になんなきゃって思ったんだ。そんで、手始めに彬の力になりたいって」
そう言って成親はふわりと笑った。
それこそ、彬が見たいと思っていた極上の笑顔。
「俺、知ってるよ。特選科の人って、多分いっつも大変なんだってこと。人と競って自分を上に上に持ってかないといけないの、大変だってわかる」
自分が思い描いていたシナリオと違う方向に成親が走っていくから、彬は戸惑っていた。
「彬、しょーさんと一緒で全然ヨユウな顔しか俺は見たことなかったけど、でもそんなことないよね。しょーさんだって大変なの、俺には全然見せてなかったけど、大変なのは絶対なんだから」
あーもう、俺国語苦手だからうまく言えねー、と成親が悔しそうな表情で続けるのを彬は黙って見ていることしかできなくて。
「だからさ。そんな彬が、更に失恋とかってゆー辛いの抱えたら、そりゃもー普通でいられるわけないんだよ」
言って、彬の頭を撫でる。幼い子供にしてやるように。
「だから、彬の大好きな皇の話、していいよ。俺に遠慮することない。あんまし人に言えないことでも、俺は皇のこと知らないから何でも聞いてやれるし、俺は何より皇と接点ないから本人とは会わないもん。全然大丈夫」
にこ、と笑って首を傾げて。
愕然とした。
だって、なんだこれ?
実際、ある程度慰め合いになることは予想していた。
でも、こうやって撫でてやるのは自分の方で、泣いてる成親を抱きしめてやることばかり考えていたから。
「ごめんね。ほんとは彬んちでゆっくり話聞いてやりたいけど、さすがに、それは……」
そこまで言って成親は言い淀む。
そして彬から目を逸らしてぐっと拳を握った。
翔と皇がヤってた場所だから、さすがにその場を再び訪れるだけの太い神経は持ち合わせていないだろう。
「彬が辛いの、ほんとは優先してやるのが男なんだろうけど。ごめん、それだけは、勘弁して」
切ない微笑みに、彬は首を振った。
「全然いいよ、なる。ありがと。こうやって会って話、聞いてくれるだけでいい」
「うん。彬の好きな皇の話、聞かせて。まだまだ、彬が皇のこと好きなのわかるし、無理して忘れることなんてしなくていいから」
成親の言葉に、彬は自分を取り戻す。
そう来るのならば、こちらも方向を変えるだけだ。
皇への想いを作り上げ、それを使って成親の同情を誘う。
あとは頃合いを見て成親を抱く。
彬は頭の中で先のシナリオを描き直すと、目を細めて成親を見た。
「皇はね、俺の幼馴染なんだ」
そうしてゆっくりと、話し始めた。
成親が求めているのは、“翔”の様子だと思っていたから。
「だって。辛くない? 皇のこと、取られた相手なわけじゃん? その相手と毎日のように顔合わすの、辛くない?」
その表情は、本気で彬のことを慮っていて。
「俺はね、しょーさんと会えないのは勿論辛いけど、でも少なくとも皇と会うことなんてないから」
予想、していなかった。
まさか成親が自分の心配をする、なんて。
現状の翔は自分のことでいっぱいいっぱいになっているし、それを見ている限り成親も同じように翔を失って哀しみの中に溺れているものだとばかり思っていた。
「ごめんね。傍にいてって、彬言ってたけど俺、なんかぐちゃぐちゃになってて会えなかった。だから、彬が辛いのわかってやれなかった」
「なる……」
「俺なんかより、彬のが絶対辛いって。やっと気付いたんだ。だから、少しでも彬が楽になれるように俺、彬の話きいてやんなきゃって思ったから」
翔が、なぜ成親を好きなのかが、わかる。
普通に普通で、ただただ可愛いだけの存在だとしか思えなかった成親は、彬の想像を超える純粋さで。
しかも、こんなに強いなんて。
「俺は……」
「なんかね、思ったんだ。多分俺、いろんな人に甘え過ぎてたなって。勿論その代表がしょーさんだったから、一番忙しくて大変なしょーさんに俺がべったり甘えちゃってたら、そりゃーイヤんなるの当たり前だよなって」
「なる?」
「だから、俺が頼られる人間になんなきゃって思ったんだ。そんで、手始めに彬の力になりたいって」
そう言って成親はふわりと笑った。
それこそ、彬が見たいと思っていた極上の笑顔。
「俺、知ってるよ。特選科の人って、多分いっつも大変なんだってこと。人と競って自分を上に上に持ってかないといけないの、大変だってわかる」
自分が思い描いていたシナリオと違う方向に成親が走っていくから、彬は戸惑っていた。
「彬、しょーさんと一緒で全然ヨユウな顔しか俺は見たことなかったけど、でもそんなことないよね。しょーさんだって大変なの、俺には全然見せてなかったけど、大変なのは絶対なんだから」
あーもう、俺国語苦手だからうまく言えねー、と成親が悔しそうな表情で続けるのを彬は黙って見ていることしかできなくて。
「だからさ。そんな彬が、更に失恋とかってゆー辛いの抱えたら、そりゃもー普通でいられるわけないんだよ」
言って、彬の頭を撫でる。幼い子供にしてやるように。
「だから、彬の大好きな皇の話、していいよ。俺に遠慮することない。あんまし人に言えないことでも、俺は皇のこと知らないから何でも聞いてやれるし、俺は何より皇と接点ないから本人とは会わないもん。全然大丈夫」
にこ、と笑って首を傾げて。
愕然とした。
だって、なんだこれ?
実際、ある程度慰め合いになることは予想していた。
でも、こうやって撫でてやるのは自分の方で、泣いてる成親を抱きしめてやることばかり考えていたから。
「ごめんね。ほんとは彬んちでゆっくり話聞いてやりたいけど、さすがに、それは……」
そこまで言って成親は言い淀む。
そして彬から目を逸らしてぐっと拳を握った。
翔と皇がヤってた場所だから、さすがにその場を再び訪れるだけの太い神経は持ち合わせていないだろう。
「彬が辛いの、ほんとは優先してやるのが男なんだろうけど。ごめん、それだけは、勘弁して」
切ない微笑みに、彬は首を振った。
「全然いいよ、なる。ありがと。こうやって会って話、聞いてくれるだけでいい」
「うん。彬の好きな皇の話、聞かせて。まだまだ、彬が皇のこと好きなのわかるし、無理して忘れることなんてしなくていいから」
成親の言葉に、彬は自分を取り戻す。
そう来るのならば、こちらも方向を変えるだけだ。
皇への想いを作り上げ、それを使って成親の同情を誘う。
あとは頃合いを見て成親を抱く。
彬は頭の中で先のシナリオを描き直すと、目を細めて成親を見た。
「皇はね、俺の幼馴染なんだ」
そうしてゆっくりと、話し始めた。
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