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【4】Crystal
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翔が皇と連絡を取るようになり、彼の話を聞いて行くうちに彬の態度や現状が少しずつわかってきた。
皇のバイトの都合があって会って話すことはなかったが、それでもラインの文章から伝わってくるのは、皇が彬を大事に想っているという雰囲気で。
ずっと幼馴染で傍にいて、でも自分は就職活動が本格化しているし、彬は彬で特選科だから勉強に忙しいから逢うに逢えない状態が続いているのだという。
でも、ちゃんとこの状況さえ終わってしまえば、自分の就職さえ決まってしまえばちゃんと彬の傍にいてやれるからと、皇が明確ではないがほんのりとそう想っているのが翔には伝わって来たから。
「皇、はっきり言ってやれよ。遊んでないで、ちゃんと待ってろって」
翔がそう、メッセージで入れると。
「んな、こっぱずかしいこと言えるか、ばーか」
なんて返ってくるから。
「じゃあ、俺が言ってやるよ。皇、一緒に彬んトコ行こう」
彬と会う時に、皇を連れて行く。
それこそが、彬に対する反撃だと、翔は考えた。
ちゃんと皇に向き合えと。
自分を捌け口にしないで、“恋人”である皇にちゃんと話をつけろと。
きっと皇に対する当てつけのように、彬が自分たちに近付いているのだろうから。
「皇……」
案の定、彬の家を訪ねた時、彬の表情が変わったことに翔は安堵した。
今日は授業のコマ割りの都合で補講が増えていたせいで、午後から特選科だけ自由行動になっていて。
彬が補講をサボって家に来るように言っていたから、その場に皇を連れて行ったのだ。
当たり前のように午後の授業をサボる皇には驚いたが、それも都合が良かった。
恐らく、それだけ彬に逢いたいと、皇こそが想っていたのだと翔にもわかったし。
「二人で、ちゃんと話しろよ。俺はジャマだろうから帰るけど」
翔が微笑みながら、言った。が、
「やだよ、二人きりなんて。翔、おまえも、いろよ」
皇に腕を掴まれる。
なかなか逢えない恋人とやっと二人きりになれたけれど、少し照れているのだろう。
そんな複雑な心境も、わからなくはないけれど。
「なんだよ。も、ここまで連れてきてやったろ。あとはちゃんと話すだけじゃん」
もう俺を巻き込むなよ、と翔が腕を振り解こうとした。
「しょおくんも、いてよ。今、皇と二人きりは……」
気まずい、と頬を少し赤らめて皇から目を逸らす彬が。
翔にはちょっと可愛く思えた。
なんだよ、やっぱ年下じゃん、なんて。
くふ、と笑う。
やっぱりここに皇を連れて来たのは、間違いじゃなかったと思えた。
彬が自分たちに近付いてきたのも、きっとこの恋人とのすれ違いが寂しかっただけなのだろうと。
「わかったよ、ちょっとだけ同席してやるよ。でも、すぐ帰るから。ちゃんと二人きりで腹割って話せよ」
しょーがないな、と笑うと、二人とも安心した様子を見せて。
彬がリビングへと二人を誘った。
いつだって二階の彬の自室へ直行していた翔だったから、その広いリビングのまるでモデルルームのような雰囲気に圧倒される。
落ち着いてソファに座ると、彬がコーヒーを三人分用意してきてくれた。
「彬んちって、金持ちなんだなー」
二人の空気がなんだかまだ硬くて。
それを和らげたくて、翔が言う。
「別にそんなことねーよ。親父が医者やってるのと、母がその経営やってるってだけ」
彬がぶっきらぼうに答えた。
あんまり家庭の事情に首を突っ込むのもどうかと思うと、翔もそれ以上のことは言えなくて。
「とりあえず、コーヒー飲んだら?」
何を言っていいかわからなくて、沈黙が続いたが。
それを壊すように、
「俺、最近淹れるのハマってるから、旨いよ」彬が言って、勧めてきたので、一口飲む。
「あ、ほんとだ。俺、あんまコーヒーに詳しくねーけど、飲みやすい」
香りが良くて、いつもならコーヒーにはほんの少しミルクを落として飲む翔だったが、ブラックのままでも美味しく飲むことができて。
その香りに空気が和らいだ気がしたから、翔は二人に話を促す。
「じゃあ、さっそくだけど、皇。彬に話したいことがあるんだろ? ちゃんと……」
あれ、と。
翔は瞼の重さを感じて口ごもる。
何だ、これは?
目を開けていられない感覚に襲われ、脱力してソファに沈み込む。
「……すげーな、彬……おまえ、マジでこえー」
皇のそんな声を聴きながら、翔は完全に意識を失っていた。
皇のバイトの都合があって会って話すことはなかったが、それでもラインの文章から伝わってくるのは、皇が彬を大事に想っているという雰囲気で。
ずっと幼馴染で傍にいて、でも自分は就職活動が本格化しているし、彬は彬で特選科だから勉強に忙しいから逢うに逢えない状態が続いているのだという。
でも、ちゃんとこの状況さえ終わってしまえば、自分の就職さえ決まってしまえばちゃんと彬の傍にいてやれるからと、皇が明確ではないがほんのりとそう想っているのが翔には伝わって来たから。
「皇、はっきり言ってやれよ。遊んでないで、ちゃんと待ってろって」
翔がそう、メッセージで入れると。
「んな、こっぱずかしいこと言えるか、ばーか」
なんて返ってくるから。
「じゃあ、俺が言ってやるよ。皇、一緒に彬んトコ行こう」
彬と会う時に、皇を連れて行く。
それこそが、彬に対する反撃だと、翔は考えた。
ちゃんと皇に向き合えと。
自分を捌け口にしないで、“恋人”である皇にちゃんと話をつけろと。
きっと皇に対する当てつけのように、彬が自分たちに近付いているのだろうから。
「皇……」
案の定、彬の家を訪ねた時、彬の表情が変わったことに翔は安堵した。
今日は授業のコマ割りの都合で補講が増えていたせいで、午後から特選科だけ自由行動になっていて。
彬が補講をサボって家に来るように言っていたから、その場に皇を連れて行ったのだ。
当たり前のように午後の授業をサボる皇には驚いたが、それも都合が良かった。
恐らく、それだけ彬に逢いたいと、皇こそが想っていたのだと翔にもわかったし。
「二人で、ちゃんと話しろよ。俺はジャマだろうから帰るけど」
翔が微笑みながら、言った。が、
「やだよ、二人きりなんて。翔、おまえも、いろよ」
皇に腕を掴まれる。
なかなか逢えない恋人とやっと二人きりになれたけれど、少し照れているのだろう。
そんな複雑な心境も、わからなくはないけれど。
「なんだよ。も、ここまで連れてきてやったろ。あとはちゃんと話すだけじゃん」
もう俺を巻き込むなよ、と翔が腕を振り解こうとした。
「しょおくんも、いてよ。今、皇と二人きりは……」
気まずい、と頬を少し赤らめて皇から目を逸らす彬が。
翔にはちょっと可愛く思えた。
なんだよ、やっぱ年下じゃん、なんて。
くふ、と笑う。
やっぱりここに皇を連れて来たのは、間違いじゃなかったと思えた。
彬が自分たちに近付いてきたのも、きっとこの恋人とのすれ違いが寂しかっただけなのだろうと。
「わかったよ、ちょっとだけ同席してやるよ。でも、すぐ帰るから。ちゃんと二人きりで腹割って話せよ」
しょーがないな、と笑うと、二人とも安心した様子を見せて。
彬がリビングへと二人を誘った。
いつだって二階の彬の自室へ直行していた翔だったから、その広いリビングのまるでモデルルームのような雰囲気に圧倒される。
落ち着いてソファに座ると、彬がコーヒーを三人分用意してきてくれた。
「彬んちって、金持ちなんだなー」
二人の空気がなんだかまだ硬くて。
それを和らげたくて、翔が言う。
「別にそんなことねーよ。親父が医者やってるのと、母がその経営やってるってだけ」
彬がぶっきらぼうに答えた。
あんまり家庭の事情に首を突っ込むのもどうかと思うと、翔もそれ以上のことは言えなくて。
「とりあえず、コーヒー飲んだら?」
何を言っていいかわからなくて、沈黙が続いたが。
それを壊すように、
「俺、最近淹れるのハマってるから、旨いよ」彬が言って、勧めてきたので、一口飲む。
「あ、ほんとだ。俺、あんまコーヒーに詳しくねーけど、飲みやすい」
香りが良くて、いつもならコーヒーにはほんの少しミルクを落として飲む翔だったが、ブラックのままでも美味しく飲むことができて。
その香りに空気が和らいだ気がしたから、翔は二人に話を促す。
「じゃあ、さっそくだけど、皇。彬に話したいことがあるんだろ? ちゃんと……」
あれ、と。
翔は瞼の重さを感じて口ごもる。
何だ、これは?
目を開けていられない感覚に襲われ、脱力してソファに沈み込む。
「……すげーな、彬……おまえ、マジでこえー」
皇のそんな声を聴きながら、翔は完全に意識を失っていた。
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