Treasure of life

月那

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【2】Malachite

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 とんでもないことを吐息混じりに言われ、翔は瞠目した。

「しょおくん、俺はいつだってなるのこと食っちゃえるよ? あんなふわっふわな綿あめみたいなの、俺にかかりゃ、あっとゆーまに溶けちゃうね、きっと」

 反射的に、手が出ていた。
 拳でなく、平手打ちにしたのはただただ、喧嘩の経験がなかったからだけど。
 本当なら力いっぱいグーで殴ってやりたかった。

「ってーな。いちお、俺は顔で売ってんだけど?」
「売り物になんねーくらい、ボコボコにしてやんよ」

 ダテに鍛えているわけではない。
 経験こそないけれど、殴り合いで負けるつもりなんてない。
 翔は両手を握り、完全にファイティングポーズで彬に向き合った。

「やめてよね。これでもファンが結構いんだからさ。俺の顔、結構いい値が付くんだよ」
 へらへら笑いながら、目の前に掌を広げて。
 翔のさっきの攻撃だって、きっと何の衝撃にもなっていないだろう平然と、彬が言う。

「ふざけてろ。んなもん、俺には一円にもなんねーし」
「引き換え条件だ、つったじゃん」
 広げた掌で、翔の握っている拳を包み込む。
「俺殴っても、なるは守れねーよ?」

 ……嫌な言葉。
 しかも。
 拳を包み込んだ彬の手が、思っていた以上に強い。

「別に、しょおくんでもいいよ、ってゆったげてんだけどな」
「…………」
「なるの代わり。しょおくんなら、俺には同じくらいの価値あると、思ってるから」
「俺が、おまえに抱かれる? 冗談じゃねえ、誰が喜ぶんだよ、そんなん」
「やだなー。俺、逢った時からずっとゆってんじゃん、しょおくんのこと可愛いって」
「あいにく、俺は“可愛い”で売ってんじゃねえ、ともゆってるよ、最初から」
「うん。知ってる。でも俺は“可愛い”で買ってやんの、しょおくんのこと」

 ぞっとした。
 掌を掴む手の力が、半端ない。
 彬の握力が、自分より上だと思い知らされる。

 でも、それ以上に。
 彬がこの手で成親を掴んだら?
 壊れるんじゃないかと、それが何より怖くて。

 絶対に、指一本、触れさせたくない。
 ギリ、と奥歯を噛みしめた。目に、力を込める。
 身代わりに、なれるなら。
 自分が身代わりになることで、成親を護れるのならば。
 だって、俺なら抵抗できる。
 腕の一本二本へし折られるぐらい、何でもない。
 顔中ボコボコにされても、それこそ“可愛い”で売ってるわけじゃないから。
 何をされても構わない。自分が、されるならば。

 でも。
 成親は。
 どこにも触らせたくない。
 傷一つ、付けさせたく、ない。

「……飲むよ、その条件」
 低く言って、拳の力を抜いた。

「じゃ、交渉成立ってことで」
「絶対に、なるに近付くな。それだけは、約束してくれ」
「いいよ。俺、見ての通り真面目なオトコだから。男同士の約束は、ちゃんと守るし」

 完全に人を食った笑い顔で。
 でも、それすら整った顔立ちがまるで彫像のように美しくて。
 翔は白旗を揚げずにはいられなかった。
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