Treasure of life

月那

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【2】Malachite

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 やっぱ、何もやってねーのはつまんねーなー。
 成親は放課後、部活に行く征人を見送って教室を出ると、内心そんなことを思う。

 中学まではずっと野球部で頑張っていたし、部活が終わってからはずっと受験勉強で。
 そんな生活を送っていたから自由な時間なんてなかったから、高校入ったら遊びまくってやる、と思っていたけれど。
 いざ自由時間なんて確保してみたら、中学時代の友人はみんな部活してるし、部活やってないヤツらはバイト三昧。
「俺も、バイトすっかな」
 自転車小屋で、チャリキーを軽く投げながら呟いた。
「っと」
「あ」
 軽く放っただけのチャリキーを掴みかけた瞬間、人にぶつかる。

「ごめん」
 どうやらぶつかった拍子に彼の荷物を落としてしまったらしく。
 謝りながらノートや筆記用具を拾った。

「いや、こっちこそごめん。ちょっと考え事してたから」
 目が合って、驚く。
 背の高い、彫の深いイケメン。
 白い肌が透き通るようで、その中に光る瞳が理知的で頭の良さそうなのがわかる。
 そう思って、名札を見れば翔と同じ特選科。
 なんだよ、特選科って見た目も関係あんのかよ、と一瞬だけ思う。

「ん?」
「や、特選科、一年?」
 タイのカラーが自分と同じだから。
「あ、うん。普通科?」と問い返される。
「まーね。あんまし一般人と接触しない人?」
「一般人って何だよ? 俺だって一般人だよ」

 成親の言葉を嫌味と捉えたのか、少しムッとした様子で返されて。

「ごめん、ごめん。変な意味じゃなくて。こんな半端な時間にこんなトコで会うこと、珍しいじゃん」
「ちょっといろいろあって、補講、遅れそうなんだ」
「の割に、呑気にちんたら歩いてっし」
「焦っても無駄だから」
 飄々とした様子で言うから、成親が笑った。

 なんか、少し翔に空気が似てる? あまり自分の立場にしがみついてない感じが。
「普通に話してくれて、ありがと」
 言われて、成親は首を横に振る。
「なん、それ? おんなし一年じゃん」
「ま、ね」

 ちょっと寂し気な様子が、多分いつもイロメガネで見られてるんだろう、と思ったから。
「俺、二年の楠本と友達だから。知ってる?」
「しょおくんなら、俺も知ってるよ。生徒会だし」
「あー。なんだ、そっか。ならさ、何かあったらしょーさんに話聞いて貰ったら?」
「でもいちお、先輩じゃん? あんまそんな偉そな感じはしないけど」
「しないしない。しょーさん、そゆの関係ないよ」
「でも俺、一年にも友達欲しいけど?」
 つるん、と言われて。

「なん? おまえ。ぼっち?」
「失礼なヤツだな」
 笑いながら返された。
 成親もくふくふ笑う。

「俺、矢崎。矢崎成親。俺ん名前出してしょーさんに話しかけてみ。何でも相談のってくれるよ、きっと」
「ありがと。俺は彬。折角だからライン、教えてよ?」
 名札に“川添”と書いてある。
 成親は帰宅するから上にパーカーを羽織っていたし、名札も見えないだろうと、苗字から名乗ったのだ。

「ナンパかよ?」
「男ナンパしてどーすんだよ?」
 笑いながら、スマホをふるふるしてやる。

「成親、暇してんの?」
「なる、でいいよ。みんなそー呼んでるし」
「今度遊ぼうよ」
「んな暇、あんの?」
「俺もヒマ持て余してっから、バイトでもすっかなーと、思ってたし」
 本当に“特選科”なのか、と耳を疑う。

「すっげー余裕なのな?」
「別に、ふつー」

 実際翔も、成親に勉強を教える時間があるくらい余裕な感じではある。
 意外と“特選科”ってガツガツ勉強ばっかりしてるわけでもないのか、と成親は不思議に思う。
 だって、特選科なんて選ばれし者ってイメージしかないし、その“選ばれ”るための努力ってのを必死でやってるとしか思っていなかったから。
 その印象はきっと、校内の誰もが持っているイメージで。
 だからこそ、その“特選科”の者たちだけに与えられた特権はいくつもあるし、そのせいで数多くの普通科の連中は彼らを特別な者として見る。良くも悪くも、ある程度遠巻きに見る。

「じゃ、今度誘うよ」
 成親が言うと、彬が嬉しそうに笑った。
「ありがと」
「補講、頑張れよ……って、おまえあんま“頑張って”なんか勉強しねーんだろうけど」
 今度はニヤリと嗤う。当たり前じゃん、って感じで。

 そのまま手を振って別れた。
 チャリで帰宅しながら、面白いヤツと友達になったよと、後で翔に話してみようとくふくふ笑っていた。
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