Treasure of life

月那

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【1】Rose quartz

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 決行の日は以前から翔がきっちり決めていた。
 それは翔の弟妹の親子遠足の日。

 楠本家は両親共働きで、幼い弟妹は土曜日も保育園がある。
 が、チビ達はいなくても父はともかく母は“この日だけは私の休日”と、趣味の料理や溜まった家事の処理などで、殆ど自宅を出ることはなく。
 翔も、基本的に隔週で土曜日も通常登校、生徒会その他部活動は毎週土曜日も通常登校になっているし、一人で自宅にいられるなんて日は滅多にない。

 そんな状況の中、その日は以前から両親揃って二人にくっついてバス旅行に出かけるという話をしていて。
 しかも。なんと翔までも一日休日で。

 自分のベッドで思いっきり成親を抱く!

 という、予てからの目標をいざ実行する為に、こんなに好都合な日はない、というもの。
 だから。
 何度も成親には“この日だけは絶対!”と予定を入れさせなかったし、前日から鼻息を荒くしてその日を待ちわびていたのだ。

「しょーさん、怖い」
 ラインで“今から行きます”と成親からメッセージが入った瞬間から、玄関で待機していた翔は、扉が閉まると同時にその愛しい体を抱きしめていて。
 せめて靴を脱がせて、と翔の腕を振りほどいた成親が、くふくふと笑いながら言った。

「もお、俺帰ろっかな」
「なんで!」
 間髪入れず、翔が成親の腕を掴む。
「だってさー、目、血走ってるよ? やる気満々過ぎて、引くわー」
「えー……そんな、か?」
「そんなです」

 やっと翔の腕の中から逃れた成親が、勝手知ったるといった足取りでリビングへと向かう。
「そっちじゃなくて、部屋、行こ」
「行かない」
 食い気味に断られ、翔が眉を顰めた。
「いいから、しょーさんちょっと、落ち着こ?」
「…………」

「わかってるし。しょーさんがナニしたいのかも、ちゃーんとわかってるってば」
 成親も当然、そのつもりでいるのは確かだけど。

 リビングのソファに座る。
 ここに遊びに来た時は、いつもこの大きなソファにゴロンと横になり、小さいりく羽美うみを抱っこして遊んでやる。
 自分には姉しかいないから、小さい子供が可愛くて仕方ないのだ。
 勿論双子のおチビ達も、成親が大好きで。
 いつだって成親がここに来た時は、二人がよってたかってじゃれてくる。
 でも、今日は一人。

 手持ち無沙汰にスマホを取り出した。

「ちょっと待て。なる、ここで何すんの?」
「ゲーム」
「こら。それは違くないか?」
「勉強は昨日いっぱいした。こないだの実力テストも満点だったし、俺ん中で土曜日はゲームしていい日って決めてる」
「普段の土曜ならいいけど、今日は違うだろ」
 翔に携帯を奪われて、成親が不貞腐れる。

「今日は俺とイチャイチャする日なの! スマホは没収!」
「だって今日のしょーさん、怖いもん」
 唇を突き出して睨んできた成親の言葉に、
「怖い?」と訊き返した。
「怖いよ。そりゃ……だって。したいの、わかるけど。でも……俺、初めてだし」
 成親の、伏せた目。の、周りが赤くなる。

 翔と出逢ったばかりの頃は毎日野球で走り回っていたから真っ黒だったのに、部活を辞めてから勉強ばかりで陽に当たることもあまりなかったせいで、成親は本来の白い肌を取り戻していて。
 黒こげ野球少年、というどこからどう見ても子供でしかなかった成親に惚れた翔である。
 まあ、その数年前の野球部強制丸坊主時代であれば、ひょっとすると“ひとめぼれ”はなかったかもしれないが、とにかく、その頃から較べるとどんどん可愛くなっている成親が、翔には堪らなく魅力的なのだ。
 伏し目ではにかんでいる姿なんて見せられて、まともでいられなくなるのは当然だろう。

 翔は成親をソファに押し倒した。
「俺だって初めてだ」
 上からのしかかりながら、言う。
「ちゅうも、なるが初めてだし、アレ、触んのだって俺、自分の以外誰も触ったこと、ねーし」
「……りっくんのは?」
「……それはノーカンにしてくれ」
 弟のおむつ替えからトイレトレーニングの手伝い、に突っ込まれ、翔が思わず笑った。

「やっと、笑った」
「え?」
「しょーさん、今日、いっこも笑ってないもん」

 言われて、ふと、気付く。
 確かに今日、成親を抱くことばかりが先走っていて、多分一切の余裕もなくしていた自分に、気付かされる。
「俺、昨夜寝らんなかった。だからベンキョ、してたんだけど。でも、今日、絶対しょーさん、スるつもりって、前からわかってたし……イヤじゃないけど、すごい、緊張して……俺、寝らんなかった」
 成親が拗ねたように言って、下唇をきゅっと噛んだ。
「なる……」
「こえーよ、だって……しょーさん俺ん中挿れる気満々だし……」
 言っていて恥ずかしくなった成親が、左手で自分の目を隠した。
 その仕草が、可愛くて。
 翔は大きく息を吐くと、その手を掴んで起き上がらせた。
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