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「なんだよ、櫂斗。おまえ実はモテてんじゃねーのかよ」
「くっそ。俺の弟キャラ、なめんなよ? おがっち一緒に作ろうってお誘いしか貰ったことはない!」
「え、じゃあ作ったのかよ? 食わせろよ」
「作んねーわ、ばーか。俺はオトコだ、つってんだろーがよ」
「大丈夫だって。どんなにまずくても芳賀が食ってくれっからさ。ついでに自分も食ってやるよ」
「だから作んねーっつの。聞けよ、人の話をよ!」

 また始まったよ、と朋樹はため息。
 自分が大量に貰ったチョコだって、本命チョコ、なわけないじゃないか、と思う。
 こんなの完全に義理チョコで、基本的に“いつもお世話になってます”とか、“よろしくね”なんていう他愛もないメッセージだけのもので。
 櫂斗が「俺のはギリだ」なんて言ってるけど、そんなの自分のだって同じだと思う。

 さすがに「櫂斗がヤキモチ焼くから貰えない」なんて言えないから、とりあえず笑って貰っているけれど。
 ちゃんと「返せないけどいいですか」って言ってるし。

「じゃあトモさん、明日これ全部溶かして何か作ろ」
「え?」
「溶かせないヤツはそのまま食っちゃうけど、溶かせそうなヤツはなんか別のに作り直そう」
「……俺んちで?」
「いいじゃん、明日店休みだし。俺、ガッコ終わったらソッコーでトモさんち行くからさ」
 とーちゃんケーキも作れるし、後でレシピ聞いとく。なんて笑っていて。
 なんだかんだ、最終的に楽しんでいるみたいなのでほっとする。

「あ、そーだ」
 ふと立ち上がって、櫂斗が厨房へ向かう。
「かーちゃん、ちょっとだけコンロ使っていい?」
 大将が使っている本格的なガスコンロは完全に火を落としているけれど、女将さんがちょっとした料理に使う小さなコンロは簡単に操作できるから。

「いいけど?」
「あと、卵貰う」
 櫂斗のその言葉に、女将さんが察して。
「ダシ、明日の朝の分使っていいよ」と冷蔵庫を指差すから。
「さんきゅ」

 ふふーん、と鼻歌交じりに卵を三つボウルに割って。
 女将さん秘伝の調味料を入れたらしっかり卵と混ぜ合わせて。
 何度も朋樹の部屋で作っているから、慣れたものである。店で出すことはないけれど、既に女将さんの作る卵焼きと遜色ないものができるようになっているから。
 手早く焼き上げると、今日はちょっとだけ足し算。

「はい、トモさん。俺からのバレンタイン」
 普段の卵焼きには載せないけれど、これにはトマトケチャップで大きくハートが描かれていて。

「おお。これはかなり、旨そうだな」ほのかが感心して言うと。
「だろ? 結局さ、チョコなんて生ぬるいんだっつの。俺はトモさんの胃袋掴んでるからね。おもっきり愛情込めたコイツで勝負すんだよ」
 ドヤ顔で仁王立ち。

 結局のところ、ヤキモチ焼いてぷくぷく膨れて、狼狽える朋樹を翻弄しまくってるのは櫂斗が楽しんでいるだけなわけで。
 当たり前に朋樹の“一番”の座は誰にも譲るつもりなんてないから。
 いくらでも来るがいい、ライバル達よ。と櫂斗は自信満々で受けて立つわけで。
 

 三人が楽しそうにはしゃいで盛り上がっているのを尻目に、女将さんはレジ締めを終える。

 広香が嫁に行って、きっと次はほのかの番。
 ほのかの嫁入りにも絶対店を上げてお祝いするから。
 その時はもっといろいろ準備しないと、なんて想像するだけで楽しくて。

 そして。
 いつかきっと。
 朋樹が櫂斗と結ばれる日だってくるだろうから。
 その時はどんな風にお祝いしたらいいかしら、なんて。

 楽しい妄想を頭の中で描きながら、女将さんは「さ、おうちに帰ろ」と立ち上がった。
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