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本気で「好き」ってちゃんと伝えられたのは、あのデートの時。
だからあの日から、櫂斗としては「俺のモノ」だと思っていて。
「でも、ふざけてでも言えるようになるまでだって、いっぱい時間かかったんだよ?」
櫂斗は朋樹の腕に自分のそれを絡める。腕に、ぎゅっとしがみつくように。
「去年のバレンタインの時、さ。広香とキョウさんがふざけてて。広香かほのかどっちか選べって俺にゆったじゃん?」
就職も決まり、卒業も決まり。でもいろいろと忙しくなった広香がほのかに総てを引き継いだ後、時々様子を見に“おがた”を訪れていた。
そんな中、いつものように一人で飲んでいた杏輔が、それに付き合うように並んだ広香と一緒にカウンターでとんでもない二択を提示してきたのだ。
「櫂ちゃんは広香とほのかちゃんはどっち目当てなん?」
ふにゃふにゃと笑いながらそんなことを訊くから、面白がった広香が「櫂斗、どっちにするかちゃんと選べよー」っなんて突っ込んで来て。
ただでさえ、朋樹目当ての女性客が後から後からやって来てはチョコ渡してるのを見て、完全にイラついていた櫂斗である。
そんな悶々としている時だったからついブチ切れて、
「俺は広香もほのかもどーでもいい。トモさんがいい」
と、本音を語ってしまったのだ。
当然朋樹もそれを聞いていたし、店でそんな発言してしまった事実に一気に冷静さを取り戻した櫂斗は。
「だってトモさんのが全然可愛いじゃん。こいつらまじ、こえーもん」
と、完全に冗談に取れるようにくふくふ笑いで誤魔化した。
どさくさに紛れてふざけて口にしたけれど、その時から吹っ切れた。
だからそれからずっと、くふくふと笑って冗談を交えながら「トモさん大好き、俺のモノになってよ」と言えるようになって。
「俺、ずっとずっと好きってことすら言えなかったんだよ。そんなのトモさん、全然知らなかったでしょ?」
「う……」
わかるわけがない。
ただでさえ毎日何かしらやらかしまくっていた自分としては、仕事を覚えるので手一杯で。
広香に教えて貰ったことを、何とか一つずつ一つずつクリアしているというのに、片や後から入って来たのに広香に教わる端から身に着けて、あっという間に自分のことまでフォローしてくれるようになった高校生の櫂斗が。
自分のことを邪魔クサく思う事こそあれど、まさか好きでいてくれるなんて思ってもいなかった。
いつだって、自分のことでいっぱいいっぱいになっている朋樹のことを、櫂斗はさりげなくフォローしてくれていて。
ほのかが入って、ほのかもあっさり朋樹のことを追い越していって。
それでも櫂斗は絶対に朋樹に対して上からな態度は取らなかった。
今でこそふざけて子ども扱いするけれど、それは「トモさんは俺のだから」と主張するようになってから。
それまではずっと、朋樹のほんの“些細な手”をありがとうと受け取って、フォローしていることなんて朋樹には絶対にわからないように、そっと後ろから“大きな手”を差し伸べてくれていて。
そして二人きりで行った初めてのデートの帰り際。
「トモさん、大好き。もう、俺のって俺は思ってるから。これからもずっと一緒にいようね」
なんて真剣な目をして気持ちを伝えてきた。
でもなかなかそんなの信じられなくて。
ちょっとした“お兄ちゃん”な朋樹に、ずっと仲良くして欲しいって言ってるだけだと、そんな風に軽く思っていた朋樹だったから。
こんな関係になるなんて想像もしていなかった。
「トモさん、俺ね。本気でトモさんのことが好きなんだよ。トモさんが思ってるよりずっと」
しがみついた腕を、離さない。
「だから、トモさんが俺にくれるものなんて、そんなの何だっていいんだ。だって、俺は“トモさん”を貰ったから。もう、世界中で一番欲しい“トモさん”を、トモさんがくれたから。一生分の誕プレ、それでいんだよ」
傍にいてくれるだけでいい。
俺のトモさん、でいてくれるだけでいい。
それ以外、何もいらない。
櫂斗は、だから朋樹の腕を離さない。
だからあの日から、櫂斗としては「俺のモノ」だと思っていて。
「でも、ふざけてでも言えるようになるまでだって、いっぱい時間かかったんだよ?」
櫂斗は朋樹の腕に自分のそれを絡める。腕に、ぎゅっとしがみつくように。
「去年のバレンタインの時、さ。広香とキョウさんがふざけてて。広香かほのかどっちか選べって俺にゆったじゃん?」
就職も決まり、卒業も決まり。でもいろいろと忙しくなった広香がほのかに総てを引き継いだ後、時々様子を見に“おがた”を訪れていた。
そんな中、いつものように一人で飲んでいた杏輔が、それに付き合うように並んだ広香と一緒にカウンターでとんでもない二択を提示してきたのだ。
「櫂ちゃんは広香とほのかちゃんはどっち目当てなん?」
ふにゃふにゃと笑いながらそんなことを訊くから、面白がった広香が「櫂斗、どっちにするかちゃんと選べよー」っなんて突っ込んで来て。
ただでさえ、朋樹目当ての女性客が後から後からやって来てはチョコ渡してるのを見て、完全にイラついていた櫂斗である。
そんな悶々としている時だったからついブチ切れて、
「俺は広香もほのかもどーでもいい。トモさんがいい」
と、本音を語ってしまったのだ。
当然朋樹もそれを聞いていたし、店でそんな発言してしまった事実に一気に冷静さを取り戻した櫂斗は。
「だってトモさんのが全然可愛いじゃん。こいつらまじ、こえーもん」
と、完全に冗談に取れるようにくふくふ笑いで誤魔化した。
どさくさに紛れてふざけて口にしたけれど、その時から吹っ切れた。
だからそれからずっと、くふくふと笑って冗談を交えながら「トモさん大好き、俺のモノになってよ」と言えるようになって。
「俺、ずっとずっと好きってことすら言えなかったんだよ。そんなのトモさん、全然知らなかったでしょ?」
「う……」
わかるわけがない。
ただでさえ毎日何かしらやらかしまくっていた自分としては、仕事を覚えるので手一杯で。
広香に教えて貰ったことを、何とか一つずつ一つずつクリアしているというのに、片や後から入って来たのに広香に教わる端から身に着けて、あっという間に自分のことまでフォローしてくれるようになった高校生の櫂斗が。
自分のことを邪魔クサく思う事こそあれど、まさか好きでいてくれるなんて思ってもいなかった。
いつだって、自分のことでいっぱいいっぱいになっている朋樹のことを、櫂斗はさりげなくフォローしてくれていて。
ほのかが入って、ほのかもあっさり朋樹のことを追い越していって。
それでも櫂斗は絶対に朋樹に対して上からな態度は取らなかった。
今でこそふざけて子ども扱いするけれど、それは「トモさんは俺のだから」と主張するようになってから。
それまではずっと、朋樹のほんの“些細な手”をありがとうと受け取って、フォローしていることなんて朋樹には絶対にわからないように、そっと後ろから“大きな手”を差し伸べてくれていて。
そして二人きりで行った初めてのデートの帰り際。
「トモさん、大好き。もう、俺のって俺は思ってるから。これからもずっと一緒にいようね」
なんて真剣な目をして気持ちを伝えてきた。
でもなかなかそんなの信じられなくて。
ちょっとした“お兄ちゃん”な朋樹に、ずっと仲良くして欲しいって言ってるだけだと、そんな風に軽く思っていた朋樹だったから。
こんな関係になるなんて想像もしていなかった。
「トモさん、俺ね。本気でトモさんのことが好きなんだよ。トモさんが思ってるよりずっと」
しがみついた腕を、離さない。
「だから、トモさんが俺にくれるものなんて、そんなの何だっていいんだ。だって、俺は“トモさん”を貰ったから。もう、世界中で一番欲しい“トモさん”を、トモさんがくれたから。一生分の誕プレ、それでいんだよ」
傍にいてくれるだけでいい。
俺のトモさん、でいてくれるだけでいい。
それ以外、何もいらない。
櫂斗は、だから朋樹の腕を離さない。
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