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「…………」
「いや、出たらいいじゃん。俺たちといること、知ってんだろ?」
「…………」
出るべきか否か、逡巡しているほのかがスマホとにらめっこしているから。
「キョウさーん。ほのか借りてるよー」
横からほのかの手を握り、櫂斗がさらっとスライドして通話にする。しかもスピーカーで。
「おい! 何すんだよ、櫂斗!」
「いいじゃん。キョウさんとほのかのラブラブ会話、聞かせろ」
「セクハラ! パワハラ!」
ほのかが手に持っていた箸で櫂斗の頭を叩いた。
「楽しそうだな、そっち」
向こう側から杏輔の含み笑いしている声が聴こえてきた。
「めっちゃ楽しいよお。湯上りの浴衣姿でいい匂いさせてるほのか、俺たちばっかで堪能しちゃってごめんねえ」
「そりゃ、聞き捨てならんな。俺にも堪能させろ」
「じゃあビデオ通話にする?」
「いいねえ」
画面を切り替えると、杏輔は自宅のようで。
「キョウさん、ほのかいないからって浮気してない?」
「浮気するとしたら相手は櫂斗だからなー。その櫂斗もいないから、俺は一人ぼっちで寂しい正月だよ」
「帰省とか、しなかったん?」
櫂斗の言葉が鼻にかかる。
杏輔と話す櫂斗の言葉がちょっと甘ったれになるのは、幼い頃からのクセかもしれない。
「んー。盆正月は基本、帰らないよ。このトシの独り身には敷居が高いからね」
「そか。ほのか俺らが借りちゃったし。来年は連れて帰ってあげなよ。きっとみんな喜ぶ」
嬉しそうに言った瞬間、ほのかの鉄拳が飛んだ。
「気が早いわ! ボケ! も、おまえは黙ってろ!」
「ってーな! いいじゃん! 俺だってトモさんの実家行ったもん。ほのかだって行けばいいじゃん」
「そうそう。俺なんか、櫂斗の実家毎日行ってるし」
珍しく朋樹までもがにまにまと嗤いながら言うから、
「ざけてんなよ芳賀。くだらねーこと言ってたら、この部屋に居座って櫂斗の隣で寝るぞ」
ほのかが睨む。
「それは俺も泣くから。誰も喜ばないから。ほのか、寂しいかもしんないけど、ちゃんと部屋戻れ?」
杏輔が苦笑する。
「ね、キョウさん、ほのか可愛いっしょ?」
「えっと? それは何? 今から画面越しにほのか口説けって言ってる?」
「うん。ほのかは素直じゃないからキョウさんとのいろいろ話してくんねーけど、キョウさんはなんでもゲロってくれそうだし」
「そおだねえ。俺はほのかにメロメロだよお」
「うるさい! も、黙れ! 切るぞ!」
ふにゃふにゃと、恐らく軽く酔っているだろう杏輔がほのかへの愛を語ろうとした瞬間、当人が櫂斗の手からスマホを奪い取る。
そして。
「ほのかー。愛してるよーん」
杏輔が言った瞬間、ぶち、と回線を切った。
櫂斗と朋樹がにやにやと笑っているのを、冷ややかな目で見る。……いや、照れているのなんて、瞭然だが。
「切ることないじゃん。キョウさん、カワイソー」
「ほほー。櫂斗、おまえは今夜朋樹じゃなく自分に添い寝して欲しいんだな?」
「ええー。そんなことしたら俺、ほのかに食われるじゃん」
「あーあー、食ってやんよ、頭っからバリバリな!」
言ってほのかが櫂斗の帯に手をかける。
「ほら、脱げ脱げ櫂斗」
「いやーん」
「おらおら、おじょうちゃん、大人しくしな」
「あーれー」
キャッキャウフフと櫂斗が嬉しそうにほのかとじゃれているが、浴衣がはだけてその白い素肌が露わになった瞬間、さすがに朋樹が「待て待て待て待て待て!」慌ててその手を止める。
「これは俺の! ほのかにはやらない!」
「いいじゃん、ちょっとつまみ食いくらい。芳賀のケチ」
「ケチじゃないっつの。櫂斗も喜んでんじゃねーよ。なんだかんだ言って、櫂斗って平気でほのかと浮気しそうだよなー」
不貞腐れた朋樹に、
「トモさん、ヤキモチやいてくれる?」くふくふと櫂斗が嗤う。
「やいて欲しいの、欲しくないの、どっち? もお、俺はほのかには敵わないんだから、そこ二人で浮気すんの、キツイんだけど?」
「しょーがねーな。そん時はキョウさんを芳賀に貸してやるよ」
「いらねーわ」あの人を俺にどうしろと? と、ふざけまくっているほのかを軽く睨んだ。
「でもさ。冗談なしに、こっちに泊まりたいなー」
「俺の布団で寝たいの?」
「つーかさー、こーゆー和室ってなんか、一人だとちょっと怖くね?」
「ほのか、お化け苦手?」
「びみょーに信じてるから怖いんだよなー。高校ん時の友達に敏感なヤツがいて、結構いろいろ視えてたらしくてさ。そいつの話聞いてるうちに、なんか怖くなった」
信じない、イコール友人を信じない、に繋がるのが嫌だったのだろう。
櫂斗はほのかの優しさが滲み出ているその言葉に相貌を崩すと、
「大丈夫だよ。ほのかが悪い人間じゃないなら、そんなほのかに近付いてくるお化けだって悪いヤツじゃない」
よしよし、なんて頭を撫でて。
「俺はね、別にほのかも一緒にこの部屋で寝てもいんだけどさ。嫁入り前の娘が、男二人と一緒に寝てたなんて外聞悪いから、かーちゃんも気を遣って部屋分けたんだろうーし。キョウさんと電話してれば怖くないでしょ?」
「……電話、もう切った」
「ん。もっかいかけ直しなよ」
「……酔ってたし、寝てるよ、多分」
「キョウさんのことだから、ほのかからのコールならすぐ出てくれるよ」
「……なんで、そんなことわかんだよ」
「俺だって同じだからだよ。きっと待ってるだろうからさ」
櫂斗がさっきまでのふざけた顔とは全然違う優しい表情を見せるから。
「……わかったよ。二人の邪魔、しないで大人しく部屋、帰るさ」
その頬を軽く抓りながらほのかが微笑んだ。
「いや、出たらいいじゃん。俺たちといること、知ってんだろ?」
「…………」
出るべきか否か、逡巡しているほのかがスマホとにらめっこしているから。
「キョウさーん。ほのか借りてるよー」
横からほのかの手を握り、櫂斗がさらっとスライドして通話にする。しかもスピーカーで。
「おい! 何すんだよ、櫂斗!」
「いいじゃん。キョウさんとほのかのラブラブ会話、聞かせろ」
「セクハラ! パワハラ!」
ほのかが手に持っていた箸で櫂斗の頭を叩いた。
「楽しそうだな、そっち」
向こう側から杏輔の含み笑いしている声が聴こえてきた。
「めっちゃ楽しいよお。湯上りの浴衣姿でいい匂いさせてるほのか、俺たちばっかで堪能しちゃってごめんねえ」
「そりゃ、聞き捨てならんな。俺にも堪能させろ」
「じゃあビデオ通話にする?」
「いいねえ」
画面を切り替えると、杏輔は自宅のようで。
「キョウさん、ほのかいないからって浮気してない?」
「浮気するとしたら相手は櫂斗だからなー。その櫂斗もいないから、俺は一人ぼっちで寂しい正月だよ」
「帰省とか、しなかったん?」
櫂斗の言葉が鼻にかかる。
杏輔と話す櫂斗の言葉がちょっと甘ったれになるのは、幼い頃からのクセかもしれない。
「んー。盆正月は基本、帰らないよ。このトシの独り身には敷居が高いからね」
「そか。ほのか俺らが借りちゃったし。来年は連れて帰ってあげなよ。きっとみんな喜ぶ」
嬉しそうに言った瞬間、ほのかの鉄拳が飛んだ。
「気が早いわ! ボケ! も、おまえは黙ってろ!」
「ってーな! いいじゃん! 俺だってトモさんの実家行ったもん。ほのかだって行けばいいじゃん」
「そうそう。俺なんか、櫂斗の実家毎日行ってるし」
珍しく朋樹までもがにまにまと嗤いながら言うから、
「ざけてんなよ芳賀。くだらねーこと言ってたら、この部屋に居座って櫂斗の隣で寝るぞ」
ほのかが睨む。
「それは俺も泣くから。誰も喜ばないから。ほのか、寂しいかもしんないけど、ちゃんと部屋戻れ?」
杏輔が苦笑する。
「ね、キョウさん、ほのか可愛いっしょ?」
「えっと? それは何? 今から画面越しにほのか口説けって言ってる?」
「うん。ほのかは素直じゃないからキョウさんとのいろいろ話してくんねーけど、キョウさんはなんでもゲロってくれそうだし」
「そおだねえ。俺はほのかにメロメロだよお」
「うるさい! も、黙れ! 切るぞ!」
ふにゃふにゃと、恐らく軽く酔っているだろう杏輔がほのかへの愛を語ろうとした瞬間、当人が櫂斗の手からスマホを奪い取る。
そして。
「ほのかー。愛してるよーん」
杏輔が言った瞬間、ぶち、と回線を切った。
櫂斗と朋樹がにやにやと笑っているのを、冷ややかな目で見る。……いや、照れているのなんて、瞭然だが。
「切ることないじゃん。キョウさん、カワイソー」
「ほほー。櫂斗、おまえは今夜朋樹じゃなく自分に添い寝して欲しいんだな?」
「ええー。そんなことしたら俺、ほのかに食われるじゃん」
「あーあー、食ってやんよ、頭っからバリバリな!」
言ってほのかが櫂斗の帯に手をかける。
「ほら、脱げ脱げ櫂斗」
「いやーん」
「おらおら、おじょうちゃん、大人しくしな」
「あーれー」
キャッキャウフフと櫂斗が嬉しそうにほのかとじゃれているが、浴衣がはだけてその白い素肌が露わになった瞬間、さすがに朋樹が「待て待て待て待て待て!」慌ててその手を止める。
「これは俺の! ほのかにはやらない!」
「いいじゃん、ちょっとつまみ食いくらい。芳賀のケチ」
「ケチじゃないっつの。櫂斗も喜んでんじゃねーよ。なんだかんだ言って、櫂斗って平気でほのかと浮気しそうだよなー」
不貞腐れた朋樹に、
「トモさん、ヤキモチやいてくれる?」くふくふと櫂斗が嗤う。
「やいて欲しいの、欲しくないの、どっち? もお、俺はほのかには敵わないんだから、そこ二人で浮気すんの、キツイんだけど?」
「しょーがねーな。そん時はキョウさんを芳賀に貸してやるよ」
「いらねーわ」あの人を俺にどうしろと? と、ふざけまくっているほのかを軽く睨んだ。
「でもさ。冗談なしに、こっちに泊まりたいなー」
「俺の布団で寝たいの?」
「つーかさー、こーゆー和室ってなんか、一人だとちょっと怖くね?」
「ほのか、お化け苦手?」
「びみょーに信じてるから怖いんだよなー。高校ん時の友達に敏感なヤツがいて、結構いろいろ視えてたらしくてさ。そいつの話聞いてるうちに、なんか怖くなった」
信じない、イコール友人を信じない、に繋がるのが嫌だったのだろう。
櫂斗はほのかの優しさが滲み出ているその言葉に相貌を崩すと、
「大丈夫だよ。ほのかが悪い人間じゃないなら、そんなほのかに近付いてくるお化けだって悪いヤツじゃない」
よしよし、なんて頭を撫でて。
「俺はね、別にほのかも一緒にこの部屋で寝てもいんだけどさ。嫁入り前の娘が、男二人と一緒に寝てたなんて外聞悪いから、かーちゃんも気を遣って部屋分けたんだろうーし。キョウさんと電話してれば怖くないでしょ?」
「……電話、もう切った」
「ん。もっかいかけ直しなよ」
「……酔ってたし、寝てるよ、多分」
「キョウさんのことだから、ほのかからのコールならすぐ出てくれるよ」
「……なんで、そんなことわかんだよ」
「俺だって同じだからだよ。きっと待ってるだろうからさ」
櫂斗がさっきまでのふざけた顔とは全然違う優しい表情を見せるから。
「……わかったよ。二人の邪魔、しないで大人しく部屋、帰るさ」
その頬を軽く抓りながらほのかが微笑んだ。
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