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 部屋に用意されていた会席料理は女将さんからの“ボーナス”とだけあってとても豪華で。
 櫂斗はさすがにジュースしか飲めないけれど、二日酔いの恐怖も忘れたらしい朋樹もビールを少し貰ってしまって。
 ほのかはここぞとばかりに瓶ビールを片っ端から空にして行きながら料理を堪能していた。

「ほのか、日本酒飲んでもいいよ? もはや、おまえが酔わないのはわかってるから」
 焼き物の“ぶりの塩こうじ焼き”を見た瞬間、櫂斗が言った。
 つやつやに輝く最高の焼き加減が、見る物の食欲をそそる。
 そしてそれは、イける人間ならばきっと日本酒が一番合うと思える逸品で。

「いや、ビールがいい。ダメなんだよ、ビール以外だとどうしても悪酔いする体質みたいでさ。明日も楽しみたいし」
「それってバカみたいに飲んだらってことでしょ? せっかくだから一合くらい料理に合わせたらいいじゃん。嫌いじゃないんだろ?」
「……おまえ、女将さんと同じことを」
「え? まじで?」
「居酒屋じゃん、店は。女将さん、オススメのお酒ってのをあちこちから取り寄せてるからさ、ビールしか頼まない客によくそうやって勧めてんだよ」
「あー、さすがにそこまで気に留めてなかったなー。かーちゃんがいろんな酒飲んでるのは知ってるけど、あれはあの人の趣味だと思ってた」
「おいおい。女将さんの仕事、なんだと思ってんだよ。大将の料理だっていろいろ季節に合わせた物出してるじゃん? 女将さん、それにどのお酒が合うかとか結構ちゃんと勉強してんだよ」

 和食だから基本的には日本酒だけれど、それだって各地の銘酒を調べては入手して試して。
 当然日本酒だけでなく焼酎も。
 あるいはちょっとした創作料理を大将が試作すれば、それにワインやカクテルを合わせるのを試してみたり。
 趣味と実益を兼ねてるのよね、とほのかにウィンクしながら教えてくれた。

 さすがに、未成年である息子にそんな話を聞かせることもなかったようで、櫂斗としては初耳である。

「だから女将さんがウワバミなのはもう、職業柄ってヤツだよ」
「ほのかだってめっちゃ酒強いじゃん」
「いやだから、日本酒とかワインとかだと次の日大変なんだっつの。ビールはほぼ水だけどさ」
 くい、とグラスを空ける。
 既に五本の瓶が空になっている。のを、朋樹が見てげんなりする。

「櫂斗も強いんだろうな。おまえ、あの人そっくりじゃん」
「だよね。俺も思う。櫂斗が飲めるようになったら俺、櫂斗にも酔い潰されそうだよ」
「オトナになったらトモさん酔い潰していろいろイタズラしよっと」
 ビールを朋樹のグラスに注ぎながら櫂斗がくふくふ笑う。

「そんなん今でもやってんだろ。おまえら二人の時、芳賀だけは飲んでるだろ?」
「トモさん一人では飲まないよ。俺と一緒ん時は仲良くコーラ飲んでるし」
「クリスマスも二人で仲良くノンアルのシャンメリー」
 朋樹のセリフに子供向けパッケージの可愛らしい瓶が浮かんできて、
「おこちゃまだなー」とほのかが鼻で笑った。

「元々酒、強いわけじゃないし絶対に飲みたいってわけでもないし。俺はノンアルでも全然気にならない」
「で、料理は櫂斗が作ってるんだろ? こないだのイブは店もなかったし冬休み入ってたし、櫂斗何作ったんだ?」
「俺別に料理人とかじゃねーし、簡単なヤツだけ。チキンはモスったし、ケーキも買ったヤツだし。トモさんにかーちゃんのポテサラってリクエスト受けてたから、伝授してもらって作ってみた」
「それいいな。再現できてた?」
「ばっちし。櫂斗のポテサラ、ちゃんと美味しかったよ」
 朋樹の「凄い、んまい!」って目をキラキラさせて言ってくれた表情に、櫂斗は完全にハートを撃ち抜かれていて。こうなったら、絶対に朋樹の胃袋を完全制圧してやる、と誓っていた。
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