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電車で約一時間。
温泉街として有名な場所だから、駅を出るとすぐに泊まる予定の旅館から送迎バスが迎えに来てくれていた。
「うわ。結構人、多いなー」
「年末年始だからねー。休みの予定を合わせるには恰好のタイミングだもん、そりゃ多いよね」
櫂斗とほのかが話しているのを、朋樹はぼんやり聞く。
はっきり言おう。
朋樹だけはまだ、二日酔いである。
大晦日、日付を越えても飲み続ける“おがた”の中で、当然ではあるが一人未成年である櫂斗はノンアルコール。
とはいえ周囲の雰囲気に併せてしっかり盛り上がっていたけれど、とにかくアルコールは一切、入っていないのは事実である。
そしてほのかは。
こいつは“ウワバミ”か! とその場にいる全員が思ったその光景は。
女将さんと二人、ただただその場を楽しんでケロっと飲み続けていて。当然だが、誰一人それに対抗できる人間なんていやしなかったわけで。
一人まとも――だと信じている――な朋樹は、そこそこに飲まされ、グダグダに酔っ払い、へろへろになって櫂斗の部屋に泊まり込んだのだが、昼前に起こされてもまだまだ酒が抜け切れていないのを自覚していた。
「トモさん、大丈夫?」
「芳賀、まだ酒抜けきってないの? もう二時だよ、二時。電車ん中でも寝てたじゃん」
「……ほのかがバケモンだと思う」
「は?」
絶対俺のが普通だと思う、とは内心呟くけれどもほのかの睨みに敵うはずもなく。
「とりあえずー、一旦チェックインしたらさ、旅館の周辺お散歩しない? ちょっと寒いけど、天気もいいし動いてたらトモさんの二日酔いも少しは良くなるんじゃない?」
マイクロバスの中、櫂斗が二人の間に入った。
酒に強い母を知っているから、ほのかが強いのも想定内で。実際ビールしか飲んでいない様子だったし。
そして昨夜は朋樹も、元々お酒に強いわけではないのに、楽しくなってかなり飲んでいたようで。
酔わないほのかが朋樹の二日酔いの辛さなんて、慮ってやるハズもなく。
この二人が相容れないのはわかっている。
店で毎年行われる年越し大宴会なんて、櫂斗にとっては慣れたもの。
さすがに小さい頃は店の片隅でとっとと寝ていたけれど、ある程度物心ついてからはその場を楽しむ術も身に着けたし、自分をネタに楽しんでいる客と一緒に普段とは違う店の雰囲気に酔うのはこれはもう、持って生まれた血というものだろう。
潰れた朋樹の介抱はちょっと大変だったけれど楽しかったし、母と二人永遠に飲み続けるほのかの豪快な飲みっぷりにも感心していた。
どうせ午前中の朋樹が使い物にならないのなんて全然想定内だ。
とはいえ、さすがに昼を越えてもまだ不調なのは可哀想で。
「近くの散策コース、滝とかあるみたいだしきっと、マイナスイオンでトモさんも元気になれるよ」
「ごめん、櫂斗。もう大丈夫だから」
「迎え酒、行っとく?」というほのかの鬼発言は、とりあえず無視。
バスで十分も走れば旅館に到着。
最年長ということで朋樹が代表してチェックインの手続きをした。ようやく頭も動き出してくれていたし。
まだ時間も早いので、荷物だけを預けるとそのまま旅館を出て散策コースへと向かった。
一月。真冬。そして晴天。
山の中だから寒いのは当たり前で、ちゃんとダウンなんて着込んで防寒準備万端ではあるが、それでも普段三人が過ごしている町とは全然違う気温の低さに、ぶるっと身震いして。
朋樹としてはまさに酔いが覚める感覚だ。
でも、抜けるような青空はどこまでも高く、澄んだ空気の中にいるのは心地いいもので。
年末に降った雪がまだ残っている山道を、足元に気を付けながら三人は歩き始めた。
「夕食は俺と櫂斗の部屋に三人分用意して貰ったよ。あと、明日のセレクトコースは、ほのかはエステで良かったんだよね?」
「ん。せっかくだからオンナミガキしてくる。あんたたちはプールで遊んでるんでしょ? 水着持ってきたの?」
「真冬にプール入って遊ぶなんて初めてだよー。泳げる温泉って面白いよね」
櫂斗が嬉しそうに笑うと朋樹も
「ほのかもエステの後でプール、入る? それもアリみたいだけど?」と誘いかけた。
が。
「二人のお邪魔はしません。それくらい弁えてマス」
ほのかがスンっとした顔で言うから、思わず二人して照れ合う。
温泉街として有名な場所だから、駅を出るとすぐに泊まる予定の旅館から送迎バスが迎えに来てくれていた。
「うわ。結構人、多いなー」
「年末年始だからねー。休みの予定を合わせるには恰好のタイミングだもん、そりゃ多いよね」
櫂斗とほのかが話しているのを、朋樹はぼんやり聞く。
はっきり言おう。
朋樹だけはまだ、二日酔いである。
大晦日、日付を越えても飲み続ける“おがた”の中で、当然ではあるが一人未成年である櫂斗はノンアルコール。
とはいえ周囲の雰囲気に併せてしっかり盛り上がっていたけれど、とにかくアルコールは一切、入っていないのは事実である。
そしてほのかは。
こいつは“ウワバミ”か! とその場にいる全員が思ったその光景は。
女将さんと二人、ただただその場を楽しんでケロっと飲み続けていて。当然だが、誰一人それに対抗できる人間なんていやしなかったわけで。
一人まとも――だと信じている――な朋樹は、そこそこに飲まされ、グダグダに酔っ払い、へろへろになって櫂斗の部屋に泊まり込んだのだが、昼前に起こされてもまだまだ酒が抜け切れていないのを自覚していた。
「トモさん、大丈夫?」
「芳賀、まだ酒抜けきってないの? もう二時だよ、二時。電車ん中でも寝てたじゃん」
「……ほのかがバケモンだと思う」
「は?」
絶対俺のが普通だと思う、とは内心呟くけれどもほのかの睨みに敵うはずもなく。
「とりあえずー、一旦チェックインしたらさ、旅館の周辺お散歩しない? ちょっと寒いけど、天気もいいし動いてたらトモさんの二日酔いも少しは良くなるんじゃない?」
マイクロバスの中、櫂斗が二人の間に入った。
酒に強い母を知っているから、ほのかが強いのも想定内で。実際ビールしか飲んでいない様子だったし。
そして昨夜は朋樹も、元々お酒に強いわけではないのに、楽しくなってかなり飲んでいたようで。
酔わないほのかが朋樹の二日酔いの辛さなんて、慮ってやるハズもなく。
この二人が相容れないのはわかっている。
店で毎年行われる年越し大宴会なんて、櫂斗にとっては慣れたもの。
さすがに小さい頃は店の片隅でとっとと寝ていたけれど、ある程度物心ついてからはその場を楽しむ術も身に着けたし、自分をネタに楽しんでいる客と一緒に普段とは違う店の雰囲気に酔うのはこれはもう、持って生まれた血というものだろう。
潰れた朋樹の介抱はちょっと大変だったけれど楽しかったし、母と二人永遠に飲み続けるほのかの豪快な飲みっぷりにも感心していた。
どうせ午前中の朋樹が使い物にならないのなんて全然想定内だ。
とはいえ、さすがに昼を越えてもまだ不調なのは可哀想で。
「近くの散策コース、滝とかあるみたいだしきっと、マイナスイオンでトモさんも元気になれるよ」
「ごめん、櫂斗。もう大丈夫だから」
「迎え酒、行っとく?」というほのかの鬼発言は、とりあえず無視。
バスで十分も走れば旅館に到着。
最年長ということで朋樹が代表してチェックインの手続きをした。ようやく頭も動き出してくれていたし。
まだ時間も早いので、荷物だけを預けるとそのまま旅館を出て散策コースへと向かった。
一月。真冬。そして晴天。
山の中だから寒いのは当たり前で、ちゃんとダウンなんて着込んで防寒準備万端ではあるが、それでも普段三人が過ごしている町とは全然違う気温の低さに、ぶるっと身震いして。
朋樹としてはまさに酔いが覚める感覚だ。
でも、抜けるような青空はどこまでも高く、澄んだ空気の中にいるのは心地いいもので。
年末に降った雪がまだ残っている山道を、足元に気を付けながら三人は歩き始めた。
「夕食は俺と櫂斗の部屋に三人分用意して貰ったよ。あと、明日のセレクトコースは、ほのかはエステで良かったんだよね?」
「ん。せっかくだからオンナミガキしてくる。あんたたちはプールで遊んでるんでしょ? 水着持ってきたの?」
「真冬にプール入って遊ぶなんて初めてだよー。泳げる温泉って面白いよね」
櫂斗が嬉しそうに笑うと朋樹も
「ほのかもエステの後でプール、入る? それもアリみたいだけど?」と誘いかけた。
が。
「二人のお邪魔はしません。それくらい弁えてマス」
ほのかがスンっとした顔で言うから、思わず二人して照れ合う。
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